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3.好奇心はほどほどに

『ここまでの話は理解して貰えただろうか?』


 一通りの説明を終えたようだ。長かった……。完全ではないがある程度は理解はした。と、思う。

 さてどうするかと暫く沈黙が続いた中、同じく話を聞いていたであろうもう一つの球体が明滅した。


『そうか。いや、強制はしない。自分が創った命が使い捨てに感じるのも無理はない。それは創られた側だからこそ強く感じるものだろう。……解った』


 何度かの明滅……会話ののち、完全にもう一つの球体は沈黙した。色も他の七つと同じ、元の色であろう白に戻っている。残ったのは私一人。


「……全員帰ったんですか?」


 ここに来て初めて声を出したと思う。球体ながらも声が出せたことに今更ながらに驚く。どこから声が出たのだろうか。あちらはすでに私の思考を延々聞かされていたと思うので、言葉遣いが中途半端に丁寧じゃないのは許して欲しい。


『ああ。話を聞いてくれる者はそれなりに居るが、自分が創り出した生物が自分が知らない場所で命を奪ったり奪われたりすることに抵抗がある者も多い』


 ……確かに。創るのは自分でも使うのは別の星の神だ。どういう用途で卸されるかも解らない。どこかの星で誰かを殺す為かもしれない。創った者と使用者の目的の乖離。平和のために生み出したとしても、戦争に使われれば善悪は反転する。地球でも良く聞く話だ。

 創るだけなら私でも創れるだろう。ゲームに出てくるモンスターのように、対人設定も完璧に殺意高く創れると思う。むしろそういう設定作業は好きだ。

 だが、それが現実となる。自分に見えない場所とはいえ、自分が創った子が自分と同じ人型を殺してるとなると罪悪感どころではない。


「創製する人を夢幻者……と言いましたか。過去にどのくらい居たんですか?」


『繋がった者は元より数え切れていない。創製までした者は137441人。地球からだと君で4人目だ』


「創った人って意外にも結構多いですね」


『自分の手を汚さずに兵器を造るようなものだと、率先して創り出した者たちも多かった』


「あー……」


 完全ランダムなら殺人鬼であろうとも繋がる。そういう人からすれば、この提案は好き勝手に殺戮兵器を創れる研究所であり実験場になるということか。しかも卸し先によっては、残虐な程に喜ばれることがあり得る。こちらに咎はない。それを選び、卸した神の責任だ。それならば喜々としてあらゆるものを量産してしまうだろう。嫌な程に。


「生物って何でも良いんですよね?別に他者を傷つける性能がなくても」


『構わない。新たな生物であれば良い。どう使われるかは卸し先によるが……食料目的で卸す星もあるし、愛玩目的もある』


 殺す殺されるだけでなく、喰われるも加わってしまった。そういや異世界ってモンスター食べるわ。熊や猪を食べる感覚に近いのかもしれない。

 愛玩……ペットとか使い魔とかだろうか。魔物使いが存在する星なら使役目的もありえる。

 今まで触れてきたファンタジー作品を思い返してみる。乗り物や配達にも魔物を利用することが多い。そう考えると創り出す造形によっては人を傷つけないまま卸される確率がそれなりにある。それならば気楽に創れるかもしれない。


「あとは……、もしこちらの世界で死んだ場合はどうなりますか?自動で地球の身体に戻って目が覚めますか?それとも地球の身体も死にますか?」


『その場合はどちらも死ぬ。基本として与える身体には保護がかかり、寿命は無く、落ちても貫かれても死ぬことは無い。だが、元の世界を捨ててこちらに永住する決意をした場合、元の身体だけが死ぬ。そしてこちらで与えた身体に魂ごと定着し、生身の肉体となる。そのあとは普通の人と同じ耐久性にしかならない。その瞬間から寿命も流れ始める』


「移住の選択肢もあるんですね……」


『滅多に居ないが可能だ。普通は創り出す限界を迎えたり作業に飽きたら戻る者が多い。創らずに観光だけで帰った者も居る。既に存在している生物以上の種類を生み出せないと、呆然自失となり帰還した者も居た』


 頑張って創り出してみたが、どこかで見たやつだとか。似た存在が既にあったとか。確かにあれは割と精神に来る……逃げ帰ってしまう心情が解り過ぎる。


「もしも私が……夢幻者がこの星に存在する生物を傷つけてしまった場合はどうなりますか?」


『この星に存在している生物の多くは、過去に創製された試作品だ。増やすのも減らすのも改変するのもこちらで自由に出来る。特に罪に問うことは無い。だが、過去に生物を創製するよりも殺すことを目的とした者が居た。その場合は強制的に帰還させる。私が必要とする者ではないからだ』


「今現在、夢幻者は何人いるんですか?」


『今も創っているのは二人だ。どちらも世界各地を巡り、思いついた時に連絡をくれている』


「生活する拠点というのは無い感じでしょうか?」


『過去の夢幻者が願い、建てた城というものがある。多くの者はそこに部屋を造り、過ごしている。旅に出るのも自由だ。部屋の内装に拘りがあれば用意しよう』


「魔法というのがある世界でしょうか?あるなら私は使えますか?」


『そちらが魔法と呼んでいるものが属性操作ならば、存在するし使える。創製して、卸す際に付属するのが属性だ。属性の種類は星によって異なる。大まかに分類して、派生するものを含めない基本の十七属性が存在している。火でいえば炎や烈などの同種が派生となる。複合属性も派生にあたる。それら全てがこの星ならば使える。卸す時に使えないと問題が生じてしまうからだ。だが、与える身体の造形によっては使える種類に得手不得手が生じるので、全てが使えるとは限らない。それでも使ってみたいのならば教えることも可能だ』


「与えられる身体というのは人型ですか?」


『決まってはいない。動きやすいと思う形で構わない。人型でも獣型でも思念体であろうとも自由だ。生物創製をするにあたり、初めに創るのが自分の身体になる。思い描くだけで良い。その思念を元にこちらで造形したあと、身体に入る前ならば細かい修正も可能だ。ただし、頻繁に身体を替えることは出来ない。繋げる脳に負担がかかるからだ。地球時間で言えば1年程は同じ身体を使い続けるつもりで創って貰うことになる。どうしても現時点で気に入るのが創れなかった場合、こちらで用意した身体を使用することも出来る』


「食事はどういう感じでしょうか?」


『この星で創られた生物はこの星の影気で生きている。地球でいう空気のようなもので、目に見えないが存在している。卸す星によって生物の食事や生き方が変わるため、明確に食べ物を決めてしまうと卸した先に無い場合に困ることになる。なので、私の星で私が造形する生物ならば食事の必要は無い。だが食べる事にも問題は無い。ある程度の星の食材は用意出来る。自分で作って食べるのも可能だ。星にいる生物の肉を食べてみることも構わない。身体との相性によっては食べたら動くことが出来なくなる生物もいるので、食べたい生物は事前に確認と報告をして欲しい』


 生物創るのに生物を食べていいのかよ!というツッコミは飲み込む。

 恐らく過去に食べてみた人が居るのだろう。創られた身体は毒とかでも恐らく死なない。だが動かなくなるというのは、場合によってはクロルーシュアへ思念すら届けられなくなるのだろうか。実質的なこちらでの死ということになる。そうまでして食べてみたい生物がいたのだろうか。それは少し気になる……。

 私は出来ることなら異世界ならば異世界の食べ物を食べてみたい。海外旅行に行ってまで日本食に頼るのは避けたいのと同じで、たとえ口に合わなくてもそれが醍醐味という派だ。……いや、いろんな生物を食べ歩きたいという意味ではなくて……ほんのりクロルーシュアが引いた気がしてしまった。


 とりあえず思いつくままに質問してみたけれど、返答が遅れたり濁されることはない。こちらへ好印象を与える為に利点しか返答しない、ということもない。

 常に淡々としており言葉に抑揚はないが、不快には思わない。嘘や誤魔化しを感じないからだろうか。

 質問の間が空いても、急かされたり問いかけられたりはしない。黒い玉は浮いたままこちらを伺っているだけだ。

 恐らく私が帰るか残るかを決めるまで何時間でも付き合う気がする。


「……これは創ることに関してではないのですが……毎回こんなに丁寧に説明しているんですか?すぐに帰るかもしれないのに」


『全員が全員では無いが、知的生命体は強制するよりも多くの選択肢を与えた方が良いというのを学んだ結果だ。強制すれば反発が生まれ、最低限の課題を提示したら、細部を変えただけの複製品で誤魔化された。それならばと初めから自由と時間を与え、好きな時に思いつくままに創らせた方が多くの結果を残してくれた。ある程度の目標や方向性が必要な者にだけ指示を出す。それだけで済んだ。このように細かく説明しているのは、私が《対話するに値する存在》であることを示すため。作業に関する質問などをその都度に確認して貰うためだ』


「そういえば星そのものでしたね……」


 星に話しかけるというのは地面に向かって語り掛ければ良いのだろうか……。なかなかに絵面がシュールだし、それで返答がなければ何とも言えない気持ちになる。質問があっても気軽に話しかけることが出来なければ、間違えたまま作業を進めてしまう。そして提出時に怒られたり呆れられたり、最終的に妥協されてあからさまな溜息をつかれる未来しかみえない。……流れで新人時代の嫌な過去を思い出してしまった。


 気を取り直して、目の前に浮かぶ黒い玉を眺める。会話中に表面に色が混じるだけで、動いているかは解らない。終始淡々としているので、恐らく感情という起伏が無いのだろう。感情的な星というのも怖いが。

 ここまで話してみて、クロルーシュアが星そのものだとしても、意思疎通や会話に対する懸念は無い。むしろこちらの質問にもきちんと答えて対応してくれている。上司ならばかなり当たりの部類だろう。


『それでも……説明が長過ぎると途中で帰ってしまう者も多い。話を聞き流しておいて残ったあとからそれは聞いていなかったなどと怒って帰る者も居た。……知的生命体は難しいな』


 ……初めて言葉から感情らしきものが読み取れた気がする。過去に相当苦労したののだろう。心情が解り過ぎて胃がキリキリする。いや、いま胃は無いのだが。繋がっている地球の本体の胃に影響が届いてないことを祈る。


 少し前から残る方向で決めてはいたが、その理由に少しばかり同情心が混じってしまった。


「えっと、あとの質問は世界を見てからでないと何とも言えないので……とりあえずその都度質問する形でも良いですか?」


『それはこの星に残るということで間違いないだろうか?』


「はい。とりあえずやってみようかと。期間は解りませんが、よろしくお願いします。あ、出来れば私との会話はその幻体で構いませんので姿を見せてくれると嬉しいです。虚空や地面と対話するのは慣れていないもので」


『了解した。いつでも呼んでくれて構わない。ありがとう。よろしく頼む』


 今まで浮いていただけの黒い玉が少しだけ、くるりと回転した気がした。


 さて、まずは自分の身体創りからになるのか。……いきなりハードル高いな。

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