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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『百合の花の香りがする少女に私は美しい恋をした。』

作者: 卵焼きさん

attention_<注意>


・百合小説です。

・グロテスク要素を含んでいます。

・少し鬱系の小説である為、気分が落ち込んでいる時に見ないことを強くおすすめします。

__ドンッ。

聞きなれない鈍い音が普通車から周辺に響いた。

同時に周りから悲痛な甲高い声が耳を突き刺し、体を一周して通り抜けていく。

目の前にある転がった人の形をした肉の塊は、

私にとって目に優しい赤黒い色で、そして甘い百合の花の香りがした。



鳥のさえずりを遮るように鳴る耳障りな機械音と、胃に突き刺さるような匂いと共に目を覚ました。

『優〜?朝ご飯よ〜!起きて〜!』

母の元気な声がドアの外から聞こえてきた。

『はーい』

寝起きだからだろうか、乾燥した喉には、大きな声はかなりの負担だった。

寝起きで重たい体をベットからずりおろし、

ドアを開け、すぐ右にある階段へ、ぺたぺたと歩く音を響かせながら、階段を1段1段降りてゆく。

『お母さん、おはよう』

今日も笑顔は自然に作れているだろうか。

『おはよう、優。あら、寝癖すごいわよ、鏡見てきなさい』

少しからかうような顔で母は言った。

私はまだ眠気の残った目を擦りながら、ゆっくりと洗面所へ向かう。

できるだけ鏡を見ないように、ヘアバンドをつけ、顔を洗う。

冷たい水が寝てる間にまとわりついた汚いものを落としてくれているような感覚がした。

水滴を顔から垂らしながら、右手で手探りでタオルを探す。

見つけたタオルをそのまま顔に近付けて、今にも垂れそうな水滴を吸い込ませた。

同時に顔を上げ、大きな鏡に映る自分を見た。

『はぁ…いらない』

溜息を吐きながら、胸にあるでかい脂肪の塊を持ち上げ、パッと手を離す。

瞬間、胸に重力を感じ、同時に皮膚が引っ張られる痛みを味わった。

『優?ご飯冷めちゃうわよ』

少し寂しそうな母の声で私の意識は戻った。

『はーい』

私は慌てて返事をし、ヘアバンドを外し、洗面所からリビングへ早足で向かう。

テーブルには、ごく一般家庭で出そうな、朝食が準備されていた。

目玉焼き、ウインナー、レタス、パン、そしてコンスープ。

どれも私の胃にはきつい。

母はまるで子供の如く、好物のマーガリンを染み込ませたパンを頬張り、喜びの声を喉奥から出した。

我ながら母は可愛いと思う。

私は椅子に音を立てないように座り、そっと手を合わせ、小さな声で、いただきます、と一言言い、スープを飲み込んだ。

ドロっとした感覚が喉から胃まで伝わる。

イチゴジャムをパンに塗って食べる。

口の中が甘ったるい。

目玉焼きもウインナーもレタスも、数回噛んで胃に押し込む。

少し汚れた白い器の前で、ご馳走様、と小さく呟き、キッチンに持っていく。

急いで洗面所に戻り、目の前に大きく写る憎い姿を睨みつける。

寝癖を直そうか考えたが、面倒になったので高く結んで誤魔化すことにした。

結び終わったら、水を通した歯ブラシに苺味の歯磨き粉を少しつけ、1つ1つの歯を丁寧に磨く。

コップに水を溢れるほど注ぎ、口を(すす)ぐ。

口の中を一周して、外に出す。もう一度。

爽やかな感覚と、若干の苺の香りが口の中いっぱいに広がった。

私は口元をタオルで拭いた後、洗面所から二階にある自分の部屋へ早足で向かう。

部屋のドアを閉め、クローゼットから可愛いブレザーを出す。

スポーツメーカーのロゴが入ったダボダボの部屋着とジャージ系ズボンを脱ぎ捨て、ブレザーを着る。

後ろを振り返ると等身大の鏡に見合わない服を着た16歳の少女が立っていた。

それを睨みつけ、私は昨晩に用意しておいた鞄とスマホ、鍵、そしてバスの定期を持って部屋を出た。

玄関口に行く前に、母に挨拶をしようとリビングヘ向かう。

『もう行くの?行ってらっしゃい』

母は優しく寂しそうな声でそういった。

『うん。お母さん、今日はちょっと遅くなるから、また帰り連絡するよ』

私は明るい声で言う。

『わかったわ、あんまり遅くならないようにね』

私は頷き、玄関口へ向かう。

玄関口には甘い香りのする百合の花が置いてある。

それを鼻先で匂いながら靴を履き、行ってきます、とできるだけ大きな声で言い、外へ出る。

家から数メートルでバス停があり、学校に着くまで、約1時間バスに揺らされる。

今日は運良くすぐにバスが来た。

まだ同級生は誰も乗り込んでいないので、

後ろの席に座り、窓の外を見ながら今日見た夢を思い出していた。

あれは、一体なんだったんだろうか。

多分事故の夢だった。

大切な人が轢かれていた気がする。

絶望した気がする。

けれどそれよりも、すごく綺麗で、匂い慣れた香りだった。

頭の中でぐるぐると考えていると、右肩を優しく叩かれた。

『おはよう、優』

肩甲骨あたりまで伸びた綺麗な黒髪ストレートの華奢(きゃしゃ)な女の子、常磐(ときわ) 紗良(さら)(ささや)きながら私の隣に座ってきた。

『おはよう、紗良、課題やってきた?』

『えっ、課題あったの?してないよ』

私が当然の如く聞いた質問に対し、慌て出す紗良の反応に胸が締め付けられる。

『後で見せてよ、ね?お願い』

一生のお願いと言わんばかりの言い方と、手の合わせ方に自然と笑いが出る。

『笑わないでよ〜』

そう言ってムスッとした顔をして腕を組んだ。

朝はあんなに気持ちが沈んでいたのに、一つ一つの言葉と、大好きな香りで頭の中がいっぱいになった。


あっという間に1時間は過ぎ、学校に着いた。

バスを降りると初夏の香りが涼し気な風に乗って香る。

そのまま私は校門へ1歩また1歩と歩き出した。

この学校は偏差値65の進学校で、これといった校則は、制服と生活態度くらいだ。髪型も髪色も自由。メイクOKで、他の女子高校生からしたら羨ましい学校だろう。

だが、偏差値が高いだけあって、ついて行くのがやっとの人が殆どの為、メイクをするような余裕はまず無い。

私は__しない。

突然後ろからドンッと紗良が飛びついてきた。

『ひゃぁ?!』

私は情けない声を喉奥から出してしまい、

それを聞いた紗良はニヤついた顔をしながら、

『かぁわいい〜』

と、私の頬をつつきながら、からかってくる。

私はなんでもないような顔を保ちながら、

『もう…びっくりしたんだから』

と言った。

今私は背中に暖かさと柔らかさを感じるせいで、

胸の高鳴りをバレないようにするのに必死だ。

お願いだから紗良に聞こえないでほしい。

この異常な胸の高鳴りの理由は、さっきので驚いたのだろうか、それとも__。

気がつけば、紗良は私の左腕を組んで引っ付いていた。

紗良は、よく私と腕を組んで登校する。

紗良は慣れているようだったが私は未だ慣れない。

『ちゃんと課題見せてよ?』

と不安がる彼女に、私は、

『どうかな』

と意地悪な返事をした。

彼女はすごく慌てている。

あぁ、なんて可愛いんだろうか。


__『優、わかった?』

雲ひとつない快晴の日は、いつと日陰でご飯を食べている。紗良の声が意識のない私の耳にやっと届いた。

『えっ?あ、ごめん、なんの話しだっけ』

突然のことに理解が追いつかず、私は聞いた。

『もう!ちゃんと聞いててよ〜』

綺麗な目を細めながら笑う彼女。

彼女の好みである卵焼きを口に入れて、数回噛んだであろう頃で飲み込み、

『今日のパンケーキこれ食べるんだから、

急いで行くから覚悟していてねってこと』

そう言いながら、私と色違いの可愛いピンク色のカバーをつけたスマホのインスタ画面を見せる。

『わかったよ。ほんとパンケーキ好きだね』

甘いものが好きな彼女はよく放課後に私と一緒に食べに行く。

まるでデートみたいだ、と考える自分が自惚れてるなと感じた。



放課後、パンケーキを食べた後、

『今日歩いて帰らない…?』

といきなり紗良は言ってきた。

体重を気にしだしてるのであろうか、充分細いのに。

『実は相談があって…』

と、少し照れながら言ってきた。

ドクン__。なんだろう、嫌な予感がする。

胸の音が1回ずつ大きくなる。

私はできるだけ平然を保ちながら、

『ど、どうしたの』

と聞く。怖い。

『実は_』

嫌だ。聞きたくない。やめて。

『好きな人ができたの』

その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。

『…そうなんだ』

私はきっと怖いであろう笑顔をうかべた。

けれど彼女は浮かれているのか気が付かない。

『うん、実はその人に手紙を渡そうと思って』

そう言いながら、鞄を大切に抱えた。

『…へぇ。上手くいくといいね。』

私は彼女の肩を持った。そして、そのまま_

『どうし_』

ドンッ__。

シーンとした帰り道にはよく響く。

良かった丁度よく車が来て。

周りからは甲高い声が飛び交う。

あぁ、これか、と確信した。

夢の内容はこれだったんだ。

私は生きてきた中で1番の笑みを浮かべた。



気が付けば私は赤い百合の花を背負い、

近所の廃アパートまで走ってきていた。

なんていい匂いなんだ。そして_

私は手に着いた赤い蜜を舐めた。

なんて甘くて美味しいんだ。

もうすぐ警察が来るかもしれない。

そうしたら私と彼女は一生の別れになってしまう。

そうなる前に、私は彼女の最後に好きだった人を知りたかった。

せめてそいつを殺してから捕まりたかったから。

彼女が持っていた鞄を開き、手紙らしきものを探す。

…あった。これだ。

可愛らしい薄ピンクの柄付き封筒。

そこからほのかに香る百合の花の香り。

私は恐る恐る封筒を開き、そして手紙を読み始めた。


_突然の事でごめんね。私おかしいって思ってたの。

でも、いつまでも正直になれないのは嫌なの。

だからって直接言うのは恥ずかしいから手紙にしました。

実はね、私_


『_優が好きなの。女同士だけど許してくれますか…』

私は気がつけば目から涙が一つ一つ溢れていた。

私は一体なんてことをしたんだろう。

彼女が生きていれば、私が殺さなければどれだけ幸せだったんだろう。

あ、ああ、あああああ。

私は悲鳴とも言えるような声で大声で泣いた。

もう元に戻ることの無い亡骸を抱えて。

静かな場所では自分の鳴き声すらよく響く。

私はもう普通の女の子に戻ることは無理だよ。

紗良がいないと私は生きていけない。

一体どうしたらいいの。

そう思った瞬間、紗良である赤い百合の花が私に訴えかけてきた。

そして、スっと涙が止まった。

あっ。そういう事か。

なんだ簡単じゃないか。

私も一緒に逝けばいいんだよ!

なんで思いつかなかったんだろう。

私は彼女の溢れるほどの赤い蜜を全身に浴びて、

アパートの窓から外に群がる人達に向かって大声で、こう言った。

『私は、常磐紗良が大好きです!来世でいいので付き合ってください!』



_ある日、1人の男子高校生がいた。


『母さん、早く起こしてって言ったじゃねぇか!』

勢いよく2階からドタバタと走り降りる。

『起こしに行ったけど起きなかったじゃない。』

その母親は呆れ顔をしながらそういった。

急いで母親が焼いてくれたパンを食べる男子高校生の目の前のテレビにあるニュースが流れた。


『20年前、〇〇高校の女子生徒2人が〇〇市の廃アパートで亡くなっている事件がありました。

死因は、1人は、車による事故死、もう1人は自殺であります。とても悲惨な事件で_』


『朝から、物騒だなおい…』

そう呟き、最後の一口のパンを放り込む。

『早くしないと、あんたの彼女来てるよ!』

母親は急かすように彼に言った。

『わーってるよ!』

そう言いながら、鞄を持ち、ドタバタしながら玄関に行く。玄関には白い綺麗な百合の花がいい香りを放ちながら飾られている。

靴を急いで履いて、勢いよく外へ出た。


『ご、ごめん紗良、待たせた。』


目の前には、まるで百合の花のように綺麗でいい香りの女子高生がいた。


『ふふ、いいんだよ。優、おはよう』


そう彼女は一言、優しく微笑み、手を差し伸べた。





end_

閲覧ありがとうございました。


今回のこのお話は、『目に優しい赤黒い色で、そして百合の花の香りがした』というフレーズが頭に思い浮かんだという理由で作成しました。

長編にしようか悩んだのですが、これだけの量ならば収まると思い、短編にさせて頂きました。

他にも只今、色んなジャンルを製作中なので、

この話が面白かった、他にも読んでみたいという方は是非、応援よろしくお願いします。

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