23 暴走 ※お婆さん(占い師)side
「もちろん《番を殺した犯人》などいないように工夫しましたよ。
恨む相手がいれば、私のように生きる理由ができてしまう。
私の《竜気》を覚えられ、《番》の死に不審を抱かれても困るのでね。
慎重にやりましたよ。
死因のわからない突然死。
病死。単独の事故死」
「―――――なん……だって……?」
鳥肌がたった。
アグストゥはにやりと笑った。
「なに、人は脆い。案外簡単でしたよ。
それに竜には《竜の嘆き》がある。
あの《番》が亡くなっても、あの男なら――竜なら《竜の嘆き》のせいだと思うでしょう。
あの《番》自身ですらね。
誰も裏に私がいるとは思わない。
あの男は嘆くだけだ。
自分が大切にしなかったから《番》は嘆き、不幸を呼び死んだのだ、とね。
最高でしょう?
《番》に出会った幸福を、すぐに絶望へと一変させる。
―――最高の復讐を遂げてきた!」
「お前は……なんてことを……っ」
「何度生まれ変わろうと!
人になろうと、あの男を許してなどやれるものか!
しつこく人間に生まれ変わってくれて嬉しかったよ。
最初は《番》との絆が薄いようなのでどうかと思ったが。
それでも《番》を失ったあの男はいつも《竜の嘆き》で不幸を呼び自滅した。
はは、最高だ。
何度でも絶望させてやれた!
なのに今回は貴女という邪魔が入った!」
アグストゥは私を睨みつけ、そして声の限り叫んだ。
「どうして私の邪魔をするのです!
サヤとか言うあの女――今世のあの男の《番》にはもうほとんど《竜気》はない!
今世、殺せば来世のあの女は――あの男の《番》は完全に人になる!
魂は《番》でも竜でなくなるから《竜気》もなくなる!
そんな《番》を探し出せるはずがない!
あの男は永遠に見つかるはずのない《番》を探し彷徨うのだ。
今回が最後の復讐だった!
やり遂げられるはずだったのに!
―――私たちの復讐はそれで終わるはずだったのに―――!がっ!」
アグストゥをクルスが蹴った。
地面に寝ていたアグストゥは口から血を流し、そのまま転がり悶えている。
「クルス!よせ!―――ぐっ!」
ロウが慌ててクルスを後ろから羽交締めにしたが、クルスはなんなくロウを打ち倒した。
「痛って」
倒されたロウは打たれた腹を押さえ丸くなっている。
私はアグストゥにかけた縄と同じ縄を飛ばしてクルスを捕縛した。
「クルス!お止め!」
「……お前がサヤを……」
だがクルスは構うことなく、転がっているアグストゥのところへ向かった。
……見れば……泣いている。
「サヤが何をした!35人の……サヤがっ」
「―――35人?」
クルスの叫びを聞いたロウが目を見開いた。
「クルス!」
「許さないっ!許さない!許さない―――――っ!」
クルスは力で縄を解こうとしている。
私が編んだ捕縛用の縄だ。解ける竜はいない。
だが――クルスの腕に縄が食い込んだのを見て、私は叫んだ。
「お止めクルスっ!
そのまま竜形になったら身体が粉々に吹っ飛んでしまう!
―――クルス!」
だがクルスは止まろうとしない。
私は仕方なく、風を思い切りクルスにぶつけた。




