17 ロウとクルス1 ※お婆さん(占い師)side
「とにかくさ。
俺がここに来たのはヴィントの為だったんだ。
ヴィントが《サヤの妖花の竜気が香るストール》を持って現れたことで、俺たち水の竜の地が落ち着かない。
それを解決する為、ってだけじゃなくて」
次の日の朝。
市場が開かれる時間に合わせて家を出たロウは横を歩くクルスに言った。
「《妖花の竜気が香るストール》を織った風の巫女の婆さんや、サヤに会ってみたかった、っていうのもあるんだけど。
一番はヴィントの為だった。
ルゥが懐いた奴だったから」
「ルゥが?」
「そ。俺の妹で、水の巫女であるルゥがだ。
風の巫女の婆さんもそうらしいから、竜の巫女の特徴かなあ。
ルゥは他者とあまり関わろうとしないんだ。
姿も精神も幼いから、まわりは《恥ずかしがり屋》で済ませているけどね」
「…………」
「そんなルゥが、何故かヴィントには懐いた。
いつもなら自分が張った結界の中に他者を入れるのも嫌がるんだけどね。
ヴィントのことは喜んで受け入れてくれたし、おまけについて離れずにいる。
そんなことは初めてなんだよ。
ルゥにとってヴィントは特別みたいなんだ。
だから俺は自らヴィントのことを調べたかったし、それに。
妹が気に入った奴だ。
俺、なんだかヴィントが身内みたいな気がしてさ。
困ってるなら何とかしてやりたいと思った。
で、その……。
――悪かったよ。サヤといる君に対して良くない態度をとった」
家から様子を《見ていた》私は思わず微笑んだ。
ふたりの行き先は別々だ。
クルスは市場へ。
ロウはクルスを見守る為に、市場がぎりぎり見えるあたり。
当然クルスの方が遠くまで行く。
なのに、ロウがクルスと一緒に家を出た理由は謝罪をする為だったようだ。
ロウは照れ臭かったのか、道を行く自分の足元を見ている。
雨の少ない風の地は今日も快晴だ。
風もいつも通り吹いている。
ロウとクルス。
ふたりはその風を切るようにして進んでいく。
返事がないことに焦れたのか。
ロウがクルスに視線を送れば、クルスは表情を変えることもなく、前を見たまま言った。
「別に。気にしてない」
「本当に?」
「ああ。当然だ。サヤはヴィントの《番》だから」
「まあ……確かに。それは……そうなんだけどさ……」
「それで。
《サヤのストール》から《サヤの妖花の竜気》を香らせないようにできなかったら、サヤを連れて行くのか?
ヴィントのもとへ」
「……は?……え?」
ロウの足が止まった。
一方、クルスは構わず歩いていく。
ロウは慌ててクルスを追いかけた。
「え、ちょっと待って。
クルス、何言ってんの?
サヤを連れて行く気なんてないよ。
それにサヤだって行くとは言わないよ。わかるだろ?」
「わからない。
サヤはヴィントの《番》だ」
「いや、それはそうだけど」
「今までも。そしてこれからも。
何度生まれ変わっても。サヤはヴィントの《番》だ」
ロウの目が大きく見開かれた。
「クルス……。もしかして拗ねてる?」
「拗ねる?」
今度はクルスの足が止まった。
ロウもつられて足を止める。
純粋に説明を求めるような視線に困ったのか、ロウはクルスから顔をそらした。
「ええと……。
俺がここに来たことでヴィントに何かあったと察した時や、
自分の《妖花の竜気が香るストール》のせいで、ヴィントが危険な目に遭っていると聞いた時。
サヤはヴィントをもの凄く心配してただろう?
ヴィントのことで必死になるサヤを見て……妬けた?」
「妬けた?」
「君は、昔ヴィントとサヤが竜だった時からふたりを知っていたんだよね。
何度生まれ変わっても、変わらないふたりの繋がりを見続けたわけだ。
それで、その。
君は……辛くて……悔しいんじゃない……かな、と想像したんだけど」
「―――――」
ふたりの間を風が吹いていく。
クルスはじっとロウを見て、そして言った。
「何を言われているか、わからない」
「何でだよ」




