16 変化 ※お婆さん(占い師)side
「じゃあ、俺は市場じゃなく少し離れたところから見張ることにするよ。
クルスに何かあればすぐに助けに行けるよう待機してる」
ロウは頭をかきながら言った。
「ならば私がここからクルスを《見て》いよう。
何かあればロウ。《伝える》からクルスを助けに行ってくれるかい?」
私が微笑んだまま言えば、ロウは頷いた。
「ああ。わかった」
「私は。何かお手伝いできることはありますか?」
メイが聞いてきた。
その目は真剣だ。
ロウとメイ。
二人とも、これまでより積極的に協力してくれるらしい。
クルスを知ったからだろう。
《竜気なし》の竜が、言われているような《感情なし》ではないと知ったから。
「メイはここに残ってくれるかい?
《見て》いる間、私は部屋に籠らなければならないからね」
頼めばメイも頷いた。
私の《見る》能力には弱点がある。
さほど遠くを《見られる》わけではないし、何より《見ている》間、私は全く動けなくなる。
目と耳が身体を離れ、別の場所ににあるようなものだ。
別の場所を《見聞き》するかわりに、自分のいる場所の方は見えも聞こえもしなくなってしまう。
メイには、ここにいて欲しい。
「そういえば、サヤは?まだ熱が高いの?」
客間の方に目を向けたロウに、メイが首を振って見せた。
「熱はもう下がったわ。今は薬で寝ているだけよ。
でもまだしばらくは動かない方が良いわね。
疲れが出たのでしょう」
「看病していたクルスと入れ違いに倒れるとはね」
「それにしても……元気がない気がするねえ」
サヤはいつも通りにしているつもりだろうが、どこか違った。
特にクルスに対してだ。
クルスが目が覚めてから急によそよそしくなった。
「もしかして、気づかれたんじゃないの?
クルスが倒れたのは、実は病気じゃなくて毒のせいだ、って。
誰かがクルスの命を狙っているって」
ロウはそう言ったが
「誰かサヤに話したかい?毒のこと」と聞けばロウもメイも。そしてクルスも首を左右に振った。
「だろう?もちろん私もだ。
誰もサヤに本当のことを教えたりしていない。
誰からも聞いていないのに、サヤが毒のことに気づいたとは思えない。
私たちの様子から、何か不穏なものを感じてないとは言い切れないが。
それより……」
サヤの眠る客間の方を見る。
そこには、まるで客間を守るようにドアの前に立つクルスがいる。
「クルス。サヤと何かあったのかい?」
クルスは
一瞬、言葉に詰まってから紫色の瞳を伏せ、言った。
「……別に。何も」
「…………そうかい」
―――そんな顔で言われてもねえ……。
そう思ったが、黙っておくことにした。
まずはクルスを狙った奴を捕まえること。
クルスとサヤのことは、サヤの体調が戻ってからだ。
「ともかく。今はサヤをゆっくりと休ませてやろうかね」
私がため息を吐くとロウが揶揄うように言った。
「婆さんは本当にサヤには優しいねえ」
「そうかもしれないね」と、苦笑する。
「サヤのこととなると、どうしても慎重になってしまうんだ。
我ら竜に比べ、人は儚いからね」




