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私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
第二章
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11 疑問 お婆さん(占い師)side




「――それはそうと。風の巫女様。

この患者――クルスさんは、いったい……」


医師の顔に戻ったメイはベッドのクルスと、そしてベッドの反対側――私たちの立つ後ろにあるソファーに目をやった。


そこではサヤが眠っている。

クルスが倒れた日からずっと、交代すると言っても聞かず、ろくに仮眠も取らずにクルスの看病していたのを見かねてお茶に薬を入れ、眠らせたのだ。


どちらも目を覚ますことはないだろうが、メイは声をひそめて言った。


「《竜殺し》ですよ?

王宮の薬師でない限り調合できない、ほぼ無味無臭の毒。

飲んで亡くなっても自然死にしか見えない。

王宮の外に出すことを許されていない毒です。

そんな毒を、どうしてクルスさんが?」


「私にもわからない。

確かに、私も毒の可能性が高いだろうとは思っていたが。

まさか《竜殺し》だとは……」


私もベッドに横たわっているクルスを見た。

落ち着いたのだろう。顔色が戻ってきている。



「倒れた日。クルスはサヤと市場へ行っていた。

……市場では試食を配っている。

きっとそこで《竜殺し》を盛られたんだろう。

普段のクルスなら受け取らないだろうが、あの日はサヤが一緒だった。

何軒かの店先で食べ物を口にしていたから、多分そのうちのどれかに……」


「おお!婆さんずっと市場でのふたりを《見て》たんだ。

なるほど、だから俺がふたりに近づいてすぐ俺たちを《呼べた》んだ。

サヤが心配で《見て》いたとか?はは、過保護だねえ―――いでっ!」


ロウは叩かれた頭を押さえ、メイはこほん、と咳払いをした。



「失礼しました。

そうですか。でも……おかしいですよね。

クルスさんの命を狙ったのなら、毒の量が少なすぎる。

苦しめるだけで、命までは取る気がなかったんでしょうか。

……それとも……」


「―――本当は。一緒にいたサヤを狙ったのかもしれないね」


「ええ……」


ロウが目を丸くした。


「え?サヤ?」


「竜であるクルスがこれだけ苦しんだんだ。

もし人間のサヤが口にしていたのなら……確実に命を落としていただろうね」


「いや。それは……わかるけど。え?

なんで?

どうしてサヤが命を狙われるんだ?」


答えを求めるようにロウは私を見た。

しかし私も、答えなど持っていない。



「可能性の話だよ。私にも、本当のことはわからない。

……だけど。そういえば。

最後に行った店で、ふたりは飲み物を出されていた。

サヤは《もうお腹がいっぱいだから》と断り、クルスは飲んだ。

毒を盛られたのは、その店だったのかもしれない」


「もしそうなら。

クルスさんに毒を盛った者は、ふたりとも狙っていた可能性もありますね」


メイの言葉に私は頷いた。


「そうだけど。クルスは用心深い。

そのクルスがサヤを連れて行き、しかも自分は出された物を飲んだんだ。

馴染みの店だったのだろうし、店員は人で、殺気もなかったはず……」


「店員ではなく《誰か》が隙を見て、ふたりに出した飲み物の中に毒を入れたのでは?

おそらく竜でしょうね。

《竜殺し》――あの毒を手に入れられるとしたら、竜しかあり得ませんから」


「そうだね」


「……あー……」


「ロウ?」


「いや。あの市場には一匹だけ竜がいた。《風》のやつだ。

もしかしたら……そいつが」


「そいつの特徴は?」


「わからない。姿を見たわけじゃない。《竜気》を感じただけだ。

成熟した男性だということくらいしか。

もう一度その《竜気》に触れれば、わかるだろうけど」


「そうかい……」


私は腕を組んだ。


「毒は王宮にしかないはずの《竜殺し》か……」




「あの……。風の巫女様」


「何だい、メイ」


メイは真剣な顔で言った。


「その……。もしかしたらロウを疑ってますか?

水の竜の王子であるロウなら《竜殺し》を持っていても不思議はない、と」


「ええー。何?メイ、俺を疑ってんの?」


ロウが間の抜けた声を上げれば、メイはとうとう声を荒げた。


「違うわよ!貴方なら物理攻撃でしょ!

貴方に毒を使うなんて頭があるわけない。

だけどね、今は貴方が《竜殺しを使った》と疑われても仕方のない状況なのよ!

わかる?

しかも毒に倒れたのはクルスさん。尊き風の巫女様の護衛!

下手したら貴方、全ての風の竜に喧嘩を売ったことになるのよ?!

もしそうなったらどうするのよ!この馬鹿!!」


「ええー……」


私は額を押さえた。



「落ち着いておくれ、メイ。

私はロウを疑ってなどいないよ」


「風の巫女様」


「ロウなら自分が疑われるような毒――《竜殺し》を使うのはおかしい。

それにそれが目的でここに来たのなら、私の前に姿を晒す必要もないだろう?」


メイはほっとしたように息を吐いた。


「……ありがとうございます。ロウを信じてくださって。

それに、風の竜の医師を呼ばずに私に任せていただき、感謝します」


「へ?」


「……ロウ。貴方ね。

ここに風の竜の医師が来てクルスさんの手当をしたらどうなっていたと思うの?

容疑者探しは必須よ。

危険に晒されたのは尊き風の巫女様かもしれないんだもの。

使われた毒が《竜殺し》で、貴方がいることがバレてみなさいよ。どうなるか」


「――うわっ。考えたくない……」



私は、風の竜の医師と同程度の治療ができる。

だから別にロウのことを考えて医師を呼ばなかったわけではないのだが。

このふたりに言えば長くなりそうなので黙っておくことにした。



「……でもクルスさんに、サヤさん。

どちらが狙われたにしても、どうして……。

何か狙われる理由があるんですか?」


「そう思うのは当然だね」


メイに同意しながらも、私はやはりわからなかった。



クルスは昔、竜王の臣下だった。

サヤの方は昔、竜王の《番》で異性を惑わせる《妖花の竜気》持ちだった。


……どちらも過去、《王宮》に縁があった。


王宮にいた誰かに恨みを買っていてもおかしくないと言えば、おかしくない。

だが……すでに相当な年月が経っている。


今頃になって、狙うだろうか。

それとも、ようやく探し当てたとでもいうのか……。



「何にせよ。しばらくふたりを結界の外に出さない方が良さそうだね」



私に言えたのはそれだけだった。




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