表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
第一章
18/54

18 竜たち




「―――クルスっ!!」


倒れた竜の大きな身体にかけ寄る。


クルスの目は閉じられている。

矢の刺さる背中の血を見た瞬間、心臓が止まった気がした。


「クルス!――っクルス!!」


頭を抱き必死に呼びかける。

答えはない。それでもやめられない。


「クルス!!お願い、起きて!!」


「――まったく。困った子だねえ」


聞こえた声に驚いて後ろを見る。

そこにはいつの間に来たのか、お婆さんの姿があった。


「っお婆さん!クルスが!私を庇って!」


助けて欲しい一心で叫ぶ。

けれどお婆さんの返事は呑気なものだった。


「ああ、無意識に身体が動いてしまったんだろうね。

私が《結界》をはる前に飛び出して行くなんて」


「お婆さん!」


「心配しなさんな。クルスは大丈夫だよ。気を失っただけ。

人の矢だ。竜の致命傷になるほど深く刺さりはしないさ」


「でも、こんなに多く!」


「大丈夫。竜は治癒力も高いからね。―――それより」


「……え?」


遠くから何かの鳴き声がした。


そう思う間に鳴き声は近くなり、すぐにあたりが暗くなった。

見上げれば空にいくつもの、うねるような大きな影。


竜、だった。


何十匹もの竜が王城の上を旋回し、そのうちの半数程がゆっくりと王城の塔の先や屋根の上に降り、翼をたたんだ。


夢かと目を疑うほどの光景。

私は息を呑んだまま動けなかった。


王城の中から聞こえてくるのは数多の悲鳴。


竜たちに取り囲まれ、見下ろされている王城の兵士から聞こえるのは騒めき。

私と同じように動けずにいるようだ。その中に国王陛下もいる。


お婆さんは大きく息を吐いて言った。


「やれやれ。《血》の匂いで集まって来てしまったようだね」


「《血》……?クルスの……?」


お婆さんはじっと空を見上げたままだった。


見ればお婆さんの、その頬にも血がついている。ほんの少しだ。

矢がかすっただけかもしれないけれど、それも私のせいだと思うと胸が痛む。


けれどもお婆さんは気にもしていないようだ。


「まったく。厄介な事になったが……丁度良いかもしれないね」


そう呟いて、クルスの頭を抱いたままでいる私の横まで来た。

それから上階にいる国王陛下や兵士に向けて声を張り上げた。


「聞くが良い!人の国の王たちよ!

ここにいる、お前たちが射殺そうとした者は我ら《竜》が守る娘!

これ以上、この娘に手を出すというのならば我ら《竜》はこの国を敵とするが

―――さて。どうするね?」



お婆さんが言い切るのを待っていたように竜たちが咆哮した。


やむことのない地を震わすほどの咆哮。


兵士たちは我れ先にと武器を投げ出し、国王陛下は――ふらふらと膝をついた。


お婆さんは私に向けて笑った。



「まあ、これくらいは良いだろう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ