18 竜たち
「―――クルスっ!!」
倒れた竜の大きな身体にかけ寄る。
クルスの目は閉じられている。
矢の刺さる背中の血を見た瞬間、心臓が止まった気がした。
「クルス!――っクルス!!」
頭を抱き必死に呼びかける。
答えはない。それでもやめられない。
「クルス!!お願い、起きて!!」
「――まったく。困った子だねえ」
聞こえた声に驚いて後ろを見る。
そこにはいつの間に来たのか、お婆さんの姿があった。
「っお婆さん!クルスが!私を庇って!」
助けて欲しい一心で叫ぶ。
けれどお婆さんの返事は呑気なものだった。
「ああ、無意識に身体が動いてしまったんだろうね。
私が《結界》をはる前に飛び出して行くなんて」
「お婆さん!」
「心配しなさんな。クルスは大丈夫だよ。気を失っただけ。
人の矢だ。竜の致命傷になるほど深く刺さりはしないさ」
「でも、こんなに多く!」
「大丈夫。竜は治癒力も高いからね。―――それより」
「……え?」
遠くから何かの鳴き声がした。
そう思う間に鳴き声は近くなり、すぐにあたりが暗くなった。
見上げれば空にいくつもの、うねるような大きな影。
竜、だった。
何十匹もの竜が王城の上を旋回し、そのうちの半数程がゆっくりと王城の塔の先や屋根の上に降り、翼をたたんだ。
夢かと目を疑うほどの光景。
私は息を呑んだまま動けなかった。
王城の中から聞こえてくるのは数多の悲鳴。
竜たちに取り囲まれ、見下ろされている王城の兵士から聞こえるのは騒めき。
私と同じように動けずにいるようだ。その中に国王陛下もいる。
お婆さんは大きく息を吐いて言った。
「やれやれ。《血》の匂いで集まって来てしまったようだね」
「《血》……?クルスの……?」
お婆さんはじっと空を見上げたままだった。
見ればお婆さんの、その頬にも血がついている。ほんの少しだ。
矢がかすっただけかもしれないけれど、それも私のせいだと思うと胸が痛む。
けれどもお婆さんは気にもしていないようだ。
「まったく。厄介な事になったが……丁度良いかもしれないね」
そう呟いて、クルスの頭を抱いたままでいる私の横まで来た。
それから上階にいる国王陛下や兵士に向けて声を張り上げた。
「聞くが良い!人の国の王たちよ!
ここにいる、お前たちが射殺そうとした者は我ら《竜》が守る娘!
これ以上、この娘に手を出すというのならば我ら《竜》はこの国を敵とするが
―――さて。どうするね?」
お婆さんが言い切るのを待っていたように竜たちが咆哮した。
やむことのない地を震わすほどの咆哮。
兵士たちは我れ先にと武器を投げ出し、国王陛下は――ふらふらと膝をついた。
お婆さんは私に向けて笑った。
「まあ、これくらいは良いだろう」




