15 いびつ
「化け物が……我が王子に何をした」
最後に国王陛下が言い放った。
憤怒の表情で
憎悪の目で
――《化け物》――
私が―――
声も出せなかった。
王子――彼の異様な行動。
その原因は……私?
私の腰を抱くようにして歩く彼を見る。
その嬉々とした表情で気づく。
私の《竜気》に――香りに酔っている?
「離してください殿下!」
彼から離れようともがいた。
でも彼の力は強くびくともしない。
歩みが早い。
私は引き摺られるようについていくだけだ。
離れようともがけば彼の力はもっと強くなった。
苦しい―――
「殿下!待ってください!どこへ行く気なのですか?」
私が喘ぐように言えば、彼は笑って答えた。
「私の部屋だよ。もう離さない。これからはずっと一緒にいるんだ」
「殿下の……部屋?」
「ああ、常識だの慣例だの知ったことか。はじめからこうすれば良かった。
―――私たちは《番》なのだから」
「待ってください。そんな……無茶です!」
「無茶ではない。力ずくでも認めさせてやる。
駄目だと言うのなら出て行くだけだ。私は君さえいれば良い」
「……でん……か……」
その恍惚とした表情で本気だとわかる。
私の《竜気》に――香りに酔って
私――《番》がいればそれだけでいい
全てを捨てても構わないと思っている。
父王――家族も
王子として生まれてからの今までの全ても
誰も何もいらないと思っている。
彼は……まだ強すぎるんだ。
《番》への想いが。
遠い昔、竜王だった頃の《食いたい》という最強の想いではなくなった。
それでもまだ……我を忘れてしまうほどに強い―――
涙が溢れた。
叶わないと気付いてしまったから。
それは願いだった。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
生まれ変わっても変わらず胸にあった願い。
私の《番》。私の唯一。
《魂》が求め合う
離れたくないと、思う人……
どの生でも私は
彼に――《番》に愛されたかった。
一緒にいたかった。
ずっと望んでいた私の願い。
その願いを叶えられるのはこれが最後。
今世が――《私》が彼と一緒にいられる最後。
《次》はない。
《次の生》では私は新しく生まれ変わる。
これまでのことも
《番》である彼のことも
全て忘れてしまう。
ようやく話ができたのに。
ようやく向き合えたのに。
だから今世は一緒にいようと思った。
最初で最後なのだから一緒にいたいと思った。
悔いを残したくなかったから―――
でも駄目だ。
気づいてしまった。
一緒には……いられない。
私の願いは叶わない。
彼は未だ我を忘れるほど《番》への想いが強すぎる。
《番》と――私と共に、平穏にいられるようになるのはきっとまだ相当に先。
けれど私は次の生では《番》を忘れてしまう。
もう……《番》を――彼を忘れてしまう。
一緒にいるには
彼にはまだ早くて
私にはもう遅いのだ。
ぐらりと視界が歪んだ。
底なしの闇へと落ちるように身体が沈む。
最後に彼の叫び声を聞いた気がした。
ああ、私たちはなんて
いびつな《番》なのだろう―――――




