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私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】  作者: ちくわぶ(まるどらむぎ)
第一章
10/54

10 一歩




お婆さんは私の覚悟に気付いたようだ。


「王子のところに行くことにしたのかい」


そう聞かれた。

私は涙を拭いて顔を上げた。


「はい。ずっとここに隠れているばかりではいられませんから。

話し合ってきたいと思います」


お婆さんは頷いた。


「そうかい。お前さんにその覚悟ができたなら、それが良いね。悔いのないようにしておいで。

きっとこれが最後になるだろうから」


「最後?」


「数えきれないほど何度も生まれ変わったんだ。

今のお前さんの《竜気》はかなり弱い。

王子を目の前にすれば彼が《番》であることが《わかる》程度だろう?

――多分、次に生まれ変わった時、お前さんにはもう《竜気》はない」


「《竜気》がない……。私はクルスさんと同じになると言うことですか?」


お婆さんは苦笑した。


「クルスとは違うよ。クルスはお前さんのように生まれ変わってはいないんだ。

《竜気》がない《竜》として生まれ、今日まで長い時を生きているだけだ。


お前さんの場合は何度も生まれ変わることで《魂》から《竜気》が薄れゆく。

やがて《竜気》が完全になくなり魂は人のそれと同じになる。


《人》になるんだ。


《竜だった記憶》も《今までの生の記憶》も、もちろん《番》だったあの王子のことも。

何もかも全て忘れてね」


「全て忘れて……」


「《普通》のことだ。

人に生まれ変わったのに遥か昔――《竜》だった時からの記憶を持ち《竜気》がある方がおかしいんだよ。

普通、生まれ変われば記憶など受け継がず《新しい者》になるはずなのに。

よほど強い《未練》があったからそうなった、のかもしれないね」


「―――」


「けれど、お前さんはもうその《未練》から解き放たれそうだ。

あの王子の方はまだしばらくかかりそうだけどね。


何度も転生を繰り返した今でも《番》であるお前さんを探せるくらい《竜気》が強い。

あの王子は……次に生まれ変わってもまだ《竜》でいるだろう」


私は少し考えてから聞いた。


「……彼が次にまた生まれ変わっても《竜》なら。彼の《番》は……?

どうなるんですか?」


「もちろんお前さんのままだよ。《番》うのは《魂》だからね」


「私?でも私は……生まれ変わったら彼を忘れて別人になっているんでしょう?」


「私も、ここまで《竜気》に差がある《番》を見たのは初めてだからね。

どうなるか正確にはわからないが。


あの王子は次に生まれ変わってもその魂はまだ《竜》で、また《番》であるお前さんを探す。

それは確かだ。


人となり《竜気》のなくなったお前さんを、この広い世界の中から見つけることは容易ではないだろうが。


それでも探す。


《番》う相手を見つけたいというのは《竜》の《性》だ。

どうしようもないのさ」


「………私は……」


「人となったお前さんは《竜》だの《番》だのと言われてもわからないだろうからね。


あの王子が幸運にも生まれ変わったお前さんを見つけたとしても、別人になったお前さんが王子をどう思うかは全くわからない。


人は《竜気》のかわりに《心》を使って愛する《伴侶》を見つける生き物だ。

……王子が別人となったお前さんに《伴侶》としてもらえるかどうか。

それは誰にもわからないことなんだよ」


「…………」


「お前さんとあの王子がお互いを《番》だと認識するのは多分、今世が最後だ。

最後に、しっかりと向き合って来るんだよ」


「……はい。助けていただいてから今日まで。本当にありがとうございました」


私はお婆さんに深く頭を下げた。




―――次の日の朝



私はお婆さんに見送られて家を出た。


山の中だと思っていた家は街のはずれだったようだ。


少し歩くと、家々が見える小高い丘に出た。遠くに王城が見える。

立っていると程なくして、馬の蹄の音がし笑顔の王子――彼が見えた。


クルスに髪留めのお礼が言えなかった。

それだけを少し残念に思いながら、私は彼の手を取った。




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