乗るなら早くしなさい。でなければ、田舎に帰りなさいな!
さて、推定主人公の、庶民だけど聖機士パイロットになってしまった件。なこの方。
お名前はアイビーさんだそうで……あ、名字はないそうです。まぁ、庶民だからそういうものですわね。
「さてさて、アイビーさん……とりあえず入学式とか、いろんなあれこれが終わったら……そうですわね、校門の辺りに来なさい、いいですわね?」
「ひゃっ、ひゃいっ!」
……これ悪役令嬢というより、学園物の不良では?
退屈な入学式も終われば、ひとまず私は学園でレンタルできる聖機士の予約を……庶民なら専用機も持ってないでしょうし、アイビーさんの訓練はこれで行うことにしました。
学園でレンタルできる聖機士については置いておいて、アイビーさんに指示を出しておいた場所に向かいます。
相手を待たせるなど淑女のすることではありませんわ!! 一分一秒でも早く目的地に向かうのです!
「駆けろ我が足!! ニンジャが如く!!」
「リーリエ様!? ニンジャって何ですの!?」
目にもとまらぬ早業で駆け抜ければ、目的地に一番乗り……一番乗り?
「アイビーさんいないのですが?」
少なくとも私は、自由になってからは、彼女の特訓のためにと動いていましたので……来なかった?
「……しゅ、主人公なのにそういうことします!?」
「リーリエ様!?」
うぅ、カリンの優しさが身に沁みますわね。
まさかまさかの裏切りとは――。
「おやっ、お久しぶりですね、リーリエ」
……この声はっ!
「お、お久しぶりですわね、ウィリアム王子」
「ははははっ、ここでは王子はやめて欲しいかな、どうしても敬称を付けたいのなら生徒会長で頼む」
この国の第一王子、良くも悪くも私の破滅というか、もう死亡フラグを建築する可能性が世界で誰よりも高いお方、ウィリアム王子。
幼いころはかわいらしい系でしたが、成長されては甘いマスクのイケメンに成長されました。
それはそうと、立ち位置的にできればかかわりたくはないのですが。
何と言いますか、顔は良いんですけど……ライバル系ではなく、ラスボス系の臭いがプンプンしていると言いますか。
なんかくっそいい感じの演説したり、妹にバズーカあたりで殺されたりするような雰囲気がありすぎると言いますか。
気が付いたらこうなってたんですけど、ウィリアム王子……そういう攻略対象なのでしょうか?
いや、前世も含めて私も女子ですけど、最近の女子の趣味まるで分りませんわね……。
「実は私はアイビーという方を鍛えるために、呼び出していたのですけれど……」
「あぁ、学園始まって初の庶民の入学者か」
知っているのですか、ウィリアム王子っ!
「まぁ、ほら調子に乗った俗物が現れるかもって、警戒していたところでね」
なんか、不穏な漢字が使われていた気がするのですが、気のせいでしょうか。
「で、僕としては、そんな彼女がどうしているのか気になって様子を見に来たんだけど……何かあった?」
「あら、あの場には居なかった筈ですし、私の地位的にあちらも対外的にいろいろ言うとは思えないのですが」
どうして何かあったと?
「逆だよ、何も聞いていないのに、わざわざ君が行動しているのが気になったのさ」
「リーリエ様、基本的に自分のために行動する方ですものね」
だって、へたなことすると破滅する、乙女ゲームの悪役令嬢ポジションで、世界観的にロボモノですから、たやすく死ぬのですわよ? 人のために行動なんてなかなかできるモノではありませんわ。
なーんて、言えるはずもないのですが。
「……ただ、イラっとしたから手を貸しているだけですわ」
実際問題そうとしか言いようがないので、視界に入る範囲でいじめが発生しているとか、胸糞悪くてイライラが止まりませんもの。
しかも、大抵の相手は封殺できる程度の権力迄ある!!
使わない方が損ですわね!! 自分が気持ちよく生きるために、力を振るうことが悪だというのなら私は悪で構いませんわ!!
「という訳ですので、あくまでも私の普段通りと何ら変わりないことを」
「それが君の良い所だよね」
「ですわね」
「ん? そうですの?」
自分勝手に生きているのが良い所って、蛮族でしょうか?
「おい、兄貴……じっとこっち見てるやつがいたが、暗殺者か何かか?」
あら、新しくやってくるイケメ……あ、こいつもパッケージにいた奴だ! しかも思い出しましたわ!
第二王子のアレックス様ですわ! 騎士団の下で訓練を積んだ凄腕の聖機士の使い手だとか。
で、そんな彼が小脇に抱えているのが……。
「アイビーさんっ!?」
「誰だテメェ……って、あぁ黄金狩り」
……なんですの、その呼称は。
「ん? 黄金卿相手に勝利した公爵令嬢だろ? 騎士団でも話題になってたぞ、貴族でなかったら是非とも来てもらいたかったとか言われる程度には」
あー、黄金卿を相手に勝利したから黄金狩り……この歳で異名を……ロボットモノと考えればこんなもんかもしれないですわね!!
「っと、アイビーさんを下ろしていただいても?」
「暗殺者とかじゃねぇんだな?」
「えぇ、学園の生徒ですわ」
「ったく、そんなびくびくして、隠れたりするんじゃねぇよ……」
悪態をつきながら、それでも優しくおろしてあげる辺り、騎士にして王子様ですわねぇ。
っと、そんなことよりも――。
「アイビーさん、あなたの居場所を勝ち取るためにも、ちょっとばかり頑張ってもらいますわよ」
「が、頑張るですか?」
実際問題、貴族社会のこの学園……普通にしていても受け入れてもらえない可能性が高いのです。
「えぇ、貴女は実力があるのだと、見せつけるのです」
都合がいいことに、ケンカを吹っかけてきた彼女らはそんなに強くないですわ、えぇ間違いなく。
私のエースを感じ取る直感が、まるでピキーンとも来ていませんもの。
それに、乙女ゲームだとしても強い方がいていいのです、そもそもこれロボモノの側面強すぎですし。
「だからこそ、貴女には厳しいことを言いますわ」
んー、私としても正直言いたい言葉ではないのですが。
でも、正直私からは遠ざけたうえで、自分の力であれこれできる方になってほしいので、心を鬼にして。
「これから先、様々な方が悪意を持って貴女を害するでしょう」
「っ!?」
「その相手を打倒すためにこそ、貴女は聖機士に乗りなさい」
「ほう?」
あら、アレックス様? なんです、その反応……その視線、女性に向けるモノではないですわよ? いや、卑猥な視線とかではなく……新しい獲物を見つけた獣みたいな視線ですわよ?
「だからこそ、私の手を取り、鍛錬のために乗るなら早くしなさい。でなければ、田舎に帰りなさいな!」
「わっ、分かりましたっ!」
……はぁ、師匠キャラ何て、私の立ち位置ではないでしょうに。