お前のような奴が貴族であるわけはありませんわ!
ついにこの日がやってきました、聖機士学園入学の日。
えぇ、推測破滅フラグが、と言うか死亡フラグが大量に埋まっているであろう地雷原。
なにせ、私の立ち位置は悪役令嬢という奴なのでしょうから。ただの推測ですけれどね?私は、恐らくこの世界と限りなく近いゲームの、おまけモードしかプレイしていないのです。つまり私の、リーリエ・リヴァーレのゲームでの立ち位置も把握していないのですわ。
……こうなるって分かってたら、ちゃんと興味なくても本編の方もプレイしていたのですけれど。
「リーリエ様、どうかなさいましたか?」
「お気になさらず。これからの学園生活で、どれほどの困難が待ち構えているのか。そんなくだらないことを考えていただけですわ」
学園ものだったから、多分ここからゲームの本編ストーリーが始まるはず……そして、おそらく私の直感からして、ゲームの主人公らしき人物を見つけたのですわ。
そもそもの聖機士というのは、主に王族や貴族、そして騎士の家系の者たちだけが扱うものとされていますの。
だってお金がかかるから。
よっぽどの何かがない限り、庶民が持っているはずがなく。この聖機士学園で聖機士を扱う人間を教育することが基本となっている。
えぇ、そうです。つまりこの学園の生徒のほぼ全員が、ランクの差はあれど貴族。例外となると王族か騎士の家系、もしくは――。
「そう言えばリーリエ様、なんと庶民の方が入学しているという噂ですわよ」
「だ、そうですわね……それも特別な才能があるのだとか」
えぇ、完全なるイレギュラー……この設定で主人公じゃなかったら、制作陣は正気ではないでしょう。
……いや、まぁ男性なら乙女ゲームらしいですし、あり得る――。
「それにしても、その方女性だそうですけど――」
はい、完全に主人公以外の何物でもありませんわねっ!!
……これ、関わらない方がいいのでは? どうせ破滅するのは、主人公が攻略対象といちゃらぶするのを邪魔しようとした結果でしょう?
……よし、だから関わらなければ大丈夫! 間違いなしですわね!!
「もしかしてあの方では?」
カリンが指さす方向には、きょろきょろと辺りを見回すお上りさん。学園の立地も貴族の親たちが顔を出しやすいように、上流階級向けの地域の近くですもの……土地勘とかないのでしょうねぇ。
まあ、関わらないようにしたいですし、他の方が教えたりしてくれるはずでしょうし――。
「あら、貴女のような田舎者が、上流階級の者の住む辺りで何をしているのかしら?」
……知らない方ですが、ああ言ってるということはそれなりの方なのでしょうねぇ。
「……その、学園の方に入学することになって――」
「くくく、ふふふ……ハーッハッハッハッハッハッハ!!」
……いや、ここまでドストレートに悪の三段笑いされるとこちらも困るのですが。
その立ち位置から逃れたいとはいえ、私多分ですけれど、悪役令嬢なのですが。キャラ被りが激しくなりません?
悪役令嬢と攻略対象しか出ないゲームって、バランス悪すぎません?
「貴女のような庶民が、学園に入学できるなどと言っているのかしら?」
「えぇえぇ、奇跡的な才能があれば、聖機士を操れるなど思っているのでしょう?」
「ですけれど、貧乏人がそんな夢を持つことなどおこがましいのですわっ!!」
なに、この……ほら、あの、典型的な糞貴族……というか、増えた。
「……さてと、選ばれしものだけが操る、聖機士のための学園に、庶民でしかない貴女のような小娘は不要ですわ」
「あらあら、笑わせてくれますわね」
「何者っ!?」
……ちょーっと、さすがにアレを見て放置してたら、脳内のスーパーロボットパイロットたちに顔向けできませんわ。
「あらあら、私をご存じない? ご・ぞ・ん・じぃ・なぁ・いぃ?」
えぇ、ここはゲームセンターで手にした、煽りスタイルですわね。
「はっ!? 貴女様はっ?!」
ふふふっ、気が付いてしまったようですわね……ですが、もう遅い!!
「私はリーリエ・リヴァーレ……リヴァーレ家、公爵家の次期当主ですの……貴女方など父の権力でつぶすことなど造作もありません……えぇ、ありませんよ? ですが、私優しいのです」
くーっ、権力! 最高ですわねぇ!!
「貴女たちの、えぇ、貴女たちの言葉が正しいのだと証明なさい。聖機士を扱う側の人間として、彼女がふさわしくないと、実力で証明するのです」
主人公ですし、どうにかなるでしょう。
えぇ、それに……こんなことを口にした以上、私も手を貸して当然ですわ。こんな奴らに、好き放題されれば巻き込まれそうですし。
「実力でっ、どうして私たち貴族が庶民と戦わねばならないのです、庶民如きと――」
「その如きという、庶民に負けたのであれば、貴女の言葉が正しければ、貴女たちも学園にふさわしくないというだけですの。ですから、負ければ貴女たちは全員退学ということでよろしいですわよね? いやだと言ってもしていただきますが」
弱い奴が、高い金と技術者の汗と涙、そしてそもそもロボを操るなど笑止千万。頑張って勝てなかったならともかく、弱いのに努力をしてなくてロボを壊しましたは、論外中の論外です。
「なっ、こ、言葉はてっか――」
「撤回? 冗談はおやめなさい、貴族とは責任があるのです。責任があるから偉いのですわよ」
えぇえぇ、ですので――。
「貴族が発した言葉を、舌の根も乾かぬ内に撤回……お前のような奴が貴族であるわけはありませんわ!」
「……っ!?」
「ですので、さっさと選びなさい……彼女と戦い、自分たちが優れていることを証明するか。それとも貴族であることをやめ、一生を笑いものとして生きるのか」
んー、過激にもほどがある……でも、しっかりと責任は取らないといけないのですわよね。
「や、やって見せますわよ!!」
「よろしい、それでは……まぁ、戦う場所を用意することも考えて一カ月後、場所は後々お伝えしますわ」
うんうん、いいことをした後は気分が――。
「リーリエ様、その、あの方が――」
「あら、どうなさ……」
お、怯えていらっしゃいますわっ! 雨の日に、外に放り出されたチワワ並におびえていらっしゃいますっ!!