サイキョウの若き黒皇子~漆黒の神童大覚醒!
さる読者から校正面でクレームがあったため、校正を大幅修正致しました。
ミドルガルドのセントラル地方にある『グラディウス帝国』は『ジュリアス=グラディス=グラディウス』なるミドルガルドのみならず、ブルドラシル中に知れ渡る程の魅力溢れるうら若き皇帝と老獪ながらも極めて有能な『ヴァイパー宰相』の二人三脚によって極めて盤石に治められていた。
そんなジュリアス皇帝に一人の子が誕生した。
本城にてジュリアス皇帝は子の出産を聞きつけ、産婆の元に駆け付けた。
「陛下……、お妃様が……。」
「何……!?産み落として逝ったのか……?」
「いえ……、この男の子を出産してすぐにいなくなったのです……。」
産婆はジュリアス皇帝に妃が出産して間もなく失踪した事を伝えた。
「何と……。(妃よ……、何故だ……?)」
ジュリアス皇帝は妃が失踪した事に動揺した。
「陛下……、この子……、とてもおかしいのです……。普通なら産声を上げる筈なのですが、産声一つ上げずにただ睨みつけるだけなのです……。」
産婆は生まれたばかりの赤子が産声を上げずに睨みつけているのを不可解に感じた。
「なっ……。(あり得ぬ……、出産して行方をくらます母親に、産まれたばかりの赤子が産声一つ上げぬなど……。)」
ジュリアス皇帝は出産してすぐに失踪した妃に、産声一つ上げない赤子に出産の不自然さを感じた。
そんな中、何者かが部屋に入ってきた。
「おお、陛下、お世継ぎが産まれましたな。」
黒衣に身を包んだ初老の男性がジュリアス皇帝の前に現れた。
初老の男性は妃の事などそっちのけで、産まれたばかりの赤子を見つめた。
「陛下、この方は大いなる才をお持ちですぞ。それも陛下を超える程の才を。」
「ヴァイパー、それは皮肉か!?」
ヴァイパーの下心を伺わせる言動にジュリアス皇帝は眉を吊り上げた。
「いえいえ、子は親を超える程でなければ国は安泰ではありません。ただ……、親を超える才に恵まれても育て手に恵まれなければ宝の持ち腐れというものです……。」
「何を言いたい?」
「どうか、このお世継ぎの養育係をわたくしにお任せ頂きたいのです。」
ヴァイパーはジュリアス皇帝に世継ぎの養育係を申し出た。
「ヴァイパー、いくら有能なお前でも……、いや、お前に倅を育てて貰うくらいなら……、私が直接育てる。」
ジュリアス皇帝はヴァイパーの申し出を拒んだ。
ヴァイパーの進言は極めて合理的であるが、主である自分が難色を示すような内容が多い故だ。
自分の幼馴染である婚約者との婚約を急遽破棄してまでモルガナ元老院長の娘と婚姻、先妻である元老院長の娘を娶っている事を利用して元老院を支配する等の強引な進言ばかりで、前者は元婚約者が自害し、後者は逆上した元老院長が狼藉の罪で誅殺され、それを聞きつけた先妻も失踪する等犠牲も出る程だった。
その後、現在の妃を後妻として、世継ぎを授かるに至ったのだ。
「そのような余裕は陛下には無いかと存じます。何故なら、陛下には国内の治安に他国との折衝等、政に追われる中でお世継ぎを育てるのは極めて無理がございます。また、他国の中にはグラディウス帝国を快く思わぬ国も少なからずいらっしゃるでしょう。そんな国々をなだめる事こそ陛下の務めの筈です。」
ヴァイパーは現実的な事をジュリアス皇帝に伝えた。
「……わかった……。お前に倅を任せよう……。但し……、妙な事を吹き込むでないぞ。」
ジュリアス皇帝は妥協し、妙な事を吹き込まないよう釘を刺した。
「感謝致します。それから……、このお世継ぎのご尊名について伺っておりませんでしたね。」
「……『ジェネシス=フォン=グラディウス』だ……。」
「これは良きお名前ですね。初めまして、ジェネシス様。わたくしがあなた様の養育係のヴァイパー宰相です。」
ヴァイパーがジェネシスに語りかけるとジェネシスは喜んだ。ジェネシスの初めての笑顔だった。
(くっ……、今回も見事に言いくるめられたわ……!)
ジュリアス皇帝は老獪なヴァイパーにまたしても言いくるめられて歯ぎしりをした。
そして、ラストレスティーンを迎えたジェネシスは宮廷中が一目置く程の極めて美しい容姿の少年に成長した。
物心ついた時より養育係のヴァイパーに様々な学問を教えて貰い、吸収も極めて早く、日頃着ている黒い衣装から『漆黒の神童』と呼ばれる程の人気者となった。
「ジェネシス様、今日は歴史の講義と参ります。」
ヴァイパーはジェネシスに歴史の講義をすると伝えた。
「爺、今日も面白い講義を期待しておるぞ。」
「勿論ですとも。今回はあなた様のお父上、ジュリアス陛下についてお話ししましょう。ジュリアス陛下は現在のグラディウス帝国の前身『グラディス王国』第一王子『ジュリアス=フォン=グラディス』で、モルガナ元老院長の娘を妻としました。そう、それはさる計画の為です。」
「どのような計画だ?」
「順を追ってお話し致します。ジュリアス陛下がフレッシュオーバーを迎えた日にグラディス王が崩御し、先王のご子息こと、ジュリアス陛下が元首となりました。陛下は元老院長の娘を娶っている誼から元老院長に全ての権限を自分に明け渡すよう元首として求めましたが、元老院長は身の程知らずにも逆上して陛下に掴みかかり、衛兵はこれをすぐ様斬り捨てました。そして陛下はモルガナ元老院を手中に収めていき、妻は自分の父を殺されたからとはいえ、身勝手にもどこかへ去って行きました。その後、陛下は『ジュリアス=グラディス=グラディウス』と改名し、グラディウス帝国を建国し、その初代皇帝となり、そしてあなた様の母上である後妻を迎えましたが、後妻はあなた様を産み落として亡くなりました。そう、ジュリアス陛下の計画はお世継ぎであるあなた様の障壁を取り除く事です。あなた様がより盤石に国を支配する為に。」
ヴァイパーはジェネシスに父であるジュリアス皇帝の事を教えた。
「わかった。父上は自ら穢れ役をかって出ているんだな。(吾輩は父上の力に……、いや、やはり父上を超えた皇帝になりたい。)」
「仰せの通りです。」
ジェネシスはヴァイパーから父の事を教えて貰い、父を超えた皇帝になる事を望んだ。
遂に、ジェネシスがフレッシュティーンを迎えた日の事だった。
宮廷広場で自分が皇太子に即位する式典が行われた。
父であるジュリアス皇帝は勿論、国中の貴族や国内の富裕層に友好国の要人も観ている中でジェネシスは会場に臨んだ。
若さと美しさを兼ね備えた世継ぎに来賓達の視線も釘付けだ。間もなく、ヴァイパーが黒い包を持ってジェネシスの元にやって来た。
「ジェネシス様、皇太子へのご即位おめでとうございます。こちらは、あなた様のお母上の形見です。お受け取り下さい。」
ヴァイパーが黒い包を開くと、蜘蛛の形をした漆黒の紋章が現れた。
ジェネシスが手にすると、紋章は黒い流れを生み出し、ジェネシスを覆った。
異様な光景に会場が戦慄した。
そんな異様な光景の中でヴァイパーだけがニヤリと笑っていた。
ジェネシスも身体に黒い流れを纏いながら笑っていた。
漆黒の神童が何かに大覚醒した瞬間だ。
「ククク……、吾輩はグラディウス第一皇子ジェネシス=フォン=グラディウス……。やがて父であるジュリアス=グラディス=グラディウス皇帝を超えた皇帝となった末に世界の頂に立つ者だ……。」
ジェネシスが不気味な名乗りを上げ、会場は恐慌し、中には広場より去ろうとする者もいたが、いつの間にか張られた結界で阻まれた。
「ククク……、今手にした紋章の力を……、お前達で試してやるとしよう!」
ジェネシスは来賓達に向けて手にした紋章をかざした。
「わー……!!」
「ああぁ……!!」
紋章から極めて禍々しい漆黒の激流が来賓達を覆い、来賓達の身体が突如風船の如く膨らんだ末に破裂した。
「見たか爺、父上。人が塵の如く散りゆく様を。」
「……。(せ……、倅……、いや……、ジェネシス……、お前……、まさか……!むっ!)」
息子が来賓達を手にかけるという著しく不穏な光景にジュリアス皇帝は大いに動揺するも、一人ほくそ笑んでいるヴァイパーを見つけ、憎悪にも似た表情に変わり、彼に詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。
「ヴァイパー!!貴様……、倅に何をした!?」
ジュリアス皇帝は息子の変貌ぶりに対して何食わぬ顔しているヴァイパーに問いただした。
「わ……、わたくしは……、ただ……、ジェネシス様にお母上の形見を……、渡しただけです……。まさかこのような事態になるとは……。」
「ならば何故貴様だけ喜んで……!!」
ジュリアス皇帝がヴァイパーを問いただす途中で、ジュリアス皇帝の掴んだ腕に小さな細胞が破裂するような痛みが走り、ジュリアス皇帝は突然の痛みに思わずヴァイパーを離した。
「父上……、吾輩の眷属に手をあげるのはやめて頂きたい!」
ジェネシスは紋章の力でジュリアス皇帝の腕の細胞の一つだけを破裂させたのだ。
「……ジェネシス……、お前は一体……、ヴァイパーから何を吹き込まれたのだ……?」
ジュリアス皇帝はジェネシスに養育係のヴァイパーから何を吹き込まれたのか気になった。
「父上の所業全てに決まっておる。」
ジェネシスは父の所業全てと答えた。
(なっ……。)
ジュリアス皇帝はまたもや動揺した。
「父上、一つ要求させて頂きたい。」
「どんな要求だ……?」
「皇帝としての権限を地位以外全て吾輩に譲渡して頂きたい。かつて父上がモルガナ元老院長にそう迫ったように……。」
「あ……、あれはわしの本意ではない!ヴァイパーの入れ知恵だ!」
「この期に及んで人のせいにするとは……、父上も年老いたな。」
「なっ……!(ジェネシス……、お前は……、父であるわしを傀儡する気か……!)」
「父上、吾輩は世界の頂に立ちたいのだ。勿論協力して頂けるな?」
「くっ……、わかった……、ジェネシス……。お前が世界の頂に立つ為ならば致し方あるまい……。」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子に皇帝の地位以外の全ての権限を譲渡した。
そう、事実上の乗っ取りであった。
また、ヴァイパーはジェネシス皇子が生まれた時から彼を主としていたのだ。
先日の即位式でミドルガルド各国の要人が殺害された事から、グラディウス帝国の他国との関係が悪化していき、傀儡となったジュリアス皇帝は各国に謝罪の書状を送るも、返事は一通も返ってこなかった。
(くっ……、ジェネシスが皇太子に即位してから……、何もかもが変わっていきおったわ……。このままでは国は……、どうなっていくのかわからぬ……。)
玉座に座るジュリアス皇帝は国の行く末を案じていた。
そんな中、聞き覚えのある声がした。
「父上!」
実権を握っているジェネシス皇子が現れた。ジェネシス皇子はレスティーンの頃と打って変わって禍々しい雰囲気だった。
「ジェネシス、今度は何をわしに要求するのだ?」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子が父である自分に何を求めるか気になった。
息子が自分に声をかけるのは要求するくらいと踏み、自分も息子とは最低限の関わりに留めようと考えていた。
そう、息子が皇太子に即位した日から。
ヴァイパーが息子の養育係を引き受けたあの日から、いや、それ以前に奸臣ヴァイパーを重用してから何もかもが変わってしまったのだ。
「わかっているなら話は早い。国中のティーンやレスティーンどもをこの宮廷に集めて頂きたい。」
ジェネシス皇子は国中の子供達を宮廷に集めるよう要求した。
「何目的でだ?」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子の目的が気になった。
「若い人材を確保する為に決まっておる。」
ジェネシス皇子は人材確保が目的と主張した。
「だからといって、子を親元から引き離すとは……。ジェネシス、お前は正気か?」
「正気だとも。爺も何事においても効率の良い方法が一番と言うておる。」
「そんな事をしたら子を奪われた親や、親から引き離された子が悲しむ!お前はヴァイパーから一体何を教えて貰ったのだ!?」
ジュリアス皇帝は正気の沙汰ではない要求をするジェネシス皇子に自分の養育係のヴァイパーから何を教えて貰ったのか尋ねた。
「『常に合理的で効率の良い方法が吉』と教えて頂いたのだ。……父上は甘すぎるのだ。だから爺に見限られるのだよ。」
「わしが甘いだと!?」
「爺の進言は筋が通っている。そんな筋の通った進言に難色を示す父上は甘いと言っているのだ。」
「ジェネシス……!」
「もう御託は終わりだ。こう言えばいいだろう。『国への忠誠の証として子を差し出せ』と。これなら聞き入れてくれる筈だと吾輩は思うが。」
「……わかった……。(やはり……、ヴァイパーに任せるべきではなかったか……。いや……、もはやどうにもならぬか……。)」
ジュリアス皇帝は不服ながらも、国中の人々に子を差し出すよう命じた。
中には一家で心中する形で拒否する者達もいたが、ジェネシス皇子とヴァイパーには痛くも痒くもなかった。
犠牲は間引きの一環と捉えての事だ。
数日後、宮廷の大広間に多くの子供達が押し込められ、部屋の壇上にジェネシス皇子が立っていた。
「早く帰りたいよ~!」
「父さ~ん!母さ~ん!」
「何でこんなとこに連れられなきゃいけないの~!」
親元から引き離された子供達はみんな泣きじゃくっていた。
そんな中、ジェネシス皇子は重い口を開いた。
「初めまして、若き人材どもよ。吾輩はグラディウス帝国第一皇子ジェネシス=フォン=グラディウスだ。君達を招いたのは他でもない、吾輩の眷属として働いて貰いたいのだ。」
ジェネシス皇子は子供達に自分の元で働いて欲しいと述べた。
「え~!」
「ケンゾクって何~!」
「いいから早く僕達を帰してよ~!」
子供達はジェネシス皇子の言葉を聞き入れる様子はなかった。
「大丈夫だ、君達はもう悲しまなくていい。……と言っても、これから悲しむ事すら出来なくなるがな!」
ジェネシス皇子は悲しまなくていいと言うも、子供達が聞き入れる訳がなかった。
ジェネシス皇子は問答無用で漆黒の紋章を掲げた。
紋章は黒の流れを生み出し、霧状となって子供達を包み込み、これまで泣きじゃくっていた子供達が突然無気力になり、暫くしてピンとなった。
「全てはジェネシス様の為に!」
そして子供達は一斉に叫び始めたが、表情は虚ろだ。
そう、子供達は黒い霧によって洗脳されたのだ。子供達が自分に全てを捧げるという叫びを聞いたジェネシス皇子は眷属が増えた事に内心狂喜したのだった。
宮廷にレスティーン兵が配備されているのを見たジュリアス皇帝は不可解に思った。
また、彼等が一つの言葉しか話さない事も拍車をかけていた。
モルガナ元老院の力が健在だった頃は、レスティーン兵が配備される等あり得なかったからだ。
そう、レスティーンに兵役や労働等をさせた場合、最悪院敵とされ、情勢悪化は必至だったのだ。しかし、現在のモルガナ元老院はグラディウス帝国の支配下にあり、あらゆる裁定の権限がグラディウス帝国に委ねられている。
(何故だ……、何故不可解な事ばかり起きるのだ……?父上やわしが直接治めていた頃はこのような事などあり得なかったのだが……。……むっ!)
ジュリアス皇帝が物思いに耽る中、ジェネシス皇子がやって来た。
「ジェネシス、ここのレスティーン共は何だ!?」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子に宮廷にいるレスティーン達の件で問いただした。
「兵士達に決まっておる。それ以上でもそれ以下でもあるまい。」
「それはわかっておる!わしが問うておるのは何故ここのレスティーン兵が皆同じ無表情で、同じ言葉しか話さぬのかだ!」
「眷属として洗脳したのだよ。」
「なっ……。(ジェネシス……、お前にとってこれも……、世界の頂に立つ為の手段か……!?)」
子供達を洗脳して眷属にした事を聞いてジュリアス皇帝は動揺した。
「さあ、父上の質問は終わりという事で……、早速本題に入らせて頂く。父上、この書類にサインをお願い致したい。」
ジェネシス皇子はジュリアス皇帝にさる書類にサインするよう伝えた。
「これにサインせよとは……、いかなる取引だ?」
ジュリアス皇帝は突然突き付けられた書類に疑問を抱いた。
「父上はただサインして下されば良いのだよ。そう、これも吾輩が世界の頂に立つ為に……。」
「ならば……、自分がサインすべきではないのか?」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子に本人がサインすべきではないかと主張した。
「いいえ、皇帝である父上にサインして頂かなければ困るのだよ。父上が皇帝である以上責任は全て父上にあるのだ。この期に及んで責任逃れは皇帝として恥ずべき事。腹をおくくり頂きたい。」
ジェネシス皇子は父が皇帝である事を引き合いに出して父がサインすべきだと反論した。
「わかった……。(ジェネシス……、お前はどこまでわしを愚弄すれば気が済むのか……!)」
ジュリアス皇帝は仕方なく書類に『ジュリアス=グラディス=グラディウス』とサインした。
「感謝致す、父上。」
ジェネシス皇子は含み笑いを浮かべながらうわべだけの感謝をした。
「もう用はなかろう、下がれ!」
ジュリアス皇帝はジェネシス皇子に退去を命じた。
「これは失礼。」
ジェネシス皇子は形式的に一礼してジュリアス皇帝の元を去った。
このサインが自分の地位を失う事になる事をジュリアス皇帝はまだ知らずにいた。
それから間もなく、グラディウス帝国は軍事特化の政策にシフトし、ジェネシス皇子とヴァイパーが喜ぶ中、ジュリアス皇帝は相変わらず懐疑的だ。
奸臣と何より息子にいいようにされてきた為かジュリアス皇帝の髪は日に日に白髪が混じるようになった。
そんな中、ジュリアス皇帝の元にジェネシス皇子がまたしても現れた。
「父上、城の外で父上にお会いしたい者達が来ておる。」
「何!?わしにお会いしたい者達がいるだと!?」
ジュリアス皇帝には自分と会う事を望む者がいる事自体に疑問を抱いた。
自分は暴君にも等しいのだ。
そんな自分に直接会うのは無謀と踏んでいた。
「はい、とにかく父上にお会いしたいと。」
「悪いが、素性の知れぬ者に会うわけにはいかぬ。面会は拒否すると伝えよ。」
ジュリアス皇帝は面会しない事を伝えた。
拒否されたジェネシス皇子が指を鳴らすと、多くのレスティーン兵がジュリアス皇帝を取り囲み、ジュリアス皇帝は戦慄した。
「なっ……。」
「全てはジェネシス様の為に!」
「父上、何が何でも来て頂こう。」
「……。(ジェネシス……、遂に本性を現したか……!)」
レスティーン兵を率いたジェネシス皇子はジュリアス皇帝を城の外に連れ出した。
城の外の門には賊のような出で立ちの男性達が待ち構えていた。
ジュリアス皇帝を外に連れ出すと、彼だけを残して城門は閉じた。
男性達は揃いも揃ってジュリアス皇帝に詰め寄った。
「へっへっへっ……、『借金皇帝』のジュリアス=グラディス=グラディウスさんよォ……、初めてお目にかかりますなァ……!」
「わしが『借金皇帝』だと……?」
野蛮な男性達から唐突に投げかけられた言葉にジュリアス皇帝は戸惑った。
「あんた……、先方から50BGもの大金お借りしたんだろ。ほれ!」
一人の男性が証拠として書類の写しを突き付けた。
それには50,000,000,000ゲルダの借用書に自分のサインがしてある事にジュリアス皇帝は動揺した。
(なっ……。ジェネシス……、あのサインは……、自分の資金目的に……。)
「先方はお怒りですぜ。とにかくお返し頂きてえってなァ……!」
「すまぬが今、手持ちの金がないのだ……。ジェネシス!この城の財産の一部を彼等に渡して頂けぬか?」
借金取りから取り立てに遭ったジュリアス皇帝は城壁の上にいるジェネシスに工面して貰えないか頼んだ。
「生憎だが、ここの財産は全て吾輩が保有しておるのだ。返済は自分の財でするのが筋であろう!」
「ジェネシス!お前はわしを何だと思っておる!」
「いつまで皇帝のつもりでおるのだ!今の父……、いや、あなたはもはや皇帝どころか貴族でもないのだよ。……ああ、皆の者。この元皇帝に忖度は要らぬ。好きなように扱うが良い。」
ジェネシス皇子はジュリアス皇帝に辛辣な言葉を浴びせると同時に、借金取りにジュリアス皇帝への扱いを委ねた。
「わかりましたぜ……。へっへっへっ……、元皇帝さんよォ……。返せねえなら……、俺達と一緒に来て貰うぜェ!」
「わしをどこに連れていくのだ?」
「とにかく、あんたには一生働いて貰うぜェ!」
ジュリアス元皇帝は借金取りに連れ去られた。
かくしてジュリアスは失脚した。
ジュリアス=グラディス=グラディウスの失脚から数年後、ヴァイパーが病の床に就いた。
ヴァイパーはいつ寿命を迎えてもおかしくない程の歳だ。
ジェネシス皇子はヴァイパーの元にやって来た。
「爺、養生しておるか。」
「猊下……、わたくしの生命もそう長くございません……。故に……、お伝え致したい儀がございます……。わたくしが即位式でお母上の形見として猊下に授けた黒い紋章は……、『業の紋章』です……。そして猊下のお身体には……、このミドルガルド……、いや……、世界塔ブルドラシル最強にて……、黒の最高位のカムイ『戦女帝エンプレスヴァルキリー』が……、宿っておいでです……。どうか……、皇帝として……、その業の力で……、世界の頂に……、お立ち下さい……。これが……、わたくしの……、望みです……。猊下が……、世界の頂に……、お立ちなさる様を……、生きて……、見届けられないのが……、わたくしの……、唯一の……、無念……、で……す……。」
ヴァイパーは息を引き取った。
かくして老獪ながらも極めて有能な宰相は大往生を遂げたのだった。
(……爺よ……、安らかに眠るが良い……。吾輩はグラディウス帝国二代目皇帝として何が何でも世界の頂に立って見せる!)
ヴァイパーの最期を看取ったジェネシス皇子は大いなる決意をした。
そして、齢18にしてジェネシスはいよいよ自分が皇帝に即位する日を迎えた。
しかし、周辺諸国との関係は冷え切っている為、来賓なしで行われる事となった。
(くくく……、いよいよ吾輩が皇帝となるのか……。吾輩が皇太子になってはや五年……。国を盤石にしてきた甲斐があったわ……。吾輩が皇帝となった暁には……、世界全土を下して世界の頂に立とうぞ……!)
ジェネシス皇太子はこれから自分が皇帝となる未来に想いを馳せた。
その矢先に……
「全てはジェネシス様の為に!」
「いかがした?」
一人のレスティーン兵がジェネシス皇太子に何かを知らせに来た。
「全てはジェネシス様の為に!」
「何!?反グラディウス帝国勢力が攻め込んで来ただと!?くっ……!皆の者、式はお預けだ!全軍で迎撃にかかれ!!」
ジェネシス皇太子はレスティーン兵の言葉をエレメントの力で解読して危機を知った。
そして、急遽即位式を中止し、全軍で迎撃するよう命じた。
「全てはジェネシス様の為に!」
(くくく……、いよいよ始まったか……。吾輩のこの業の紋章の力で……、全てを破壊してくれるわ!そして吾輩はミドルガルド……、いや、ブルドラシルの頂に……、立つ!!)
ジェネシス皇子は己の野心と共に業の紋章を掲げ、戦場に赴いた。
そう、世に言う『ラグナゲドン』が勃発したのだ。
そしてジェネシス皇子は戦いの度に巨大爆発にてきのこ雲並びにクレーターが発生する程の獅子奮迅ぶりから反帝国勢力のみならず、中立勢力からも、『美しくも最強にして最狂故に最凶のうら若き黒皇子』と恐れられ、やがて、戦場で虹の加護を受けたAUと敵として相まみえる事となるのだが、それは別の物語。
この作品は早い話、『ぼくのかんがえたさいきょうのびしょうねん』丸出しですが、お読み下さってありがとうございました。