プロローグ
こんにちは、おれんじです。自分の思いの丈をぶつけた本作品、五千回くらい笑ってください。
鹿角月詠という特段特徴もない男子高校生の説明など、する必要は微塵もない。取り立てて面白いエピソードもなければ特筆するような人生を送ってきたわけでもない、正真正銘なんでもないただの男子高校生を、律儀に文章に起こす必要性など皆目見当もつかない。成績はそこそこ、運動は平均以下、話題に上げるような趣味はなし、自慢できるような特技はなし、人に言えるような長所はなし、ネタとして割り切れるような短所はなし、涙を誘うような過去もなし、若さと活気を感じる将来性もなし――存在意義、無し。
それが俺、鹿角月詠と言う人間像だ。
月を神格化したとされる、天照の弟で須佐之男の兄としても有名な月読命神の名をその身に宿しながらも、しかしその実、やる気も希望も活力もない、無力で無能な人間なのである。
これ以上、話すようなことはない。
これでこの話はおしまいだ――ああでも、そんな俺でも好きな物くらいはある。
本が好きだ。
と言っても高尚な学術書や美術的な書物ではやはりなく、それらと比べてしまえば大変俗物的な、いやもう簡単に言って小説――ライトノベルが好きだ。
まあ、オタクってやつだ。
なんならオタクらしく漫画も嗜むが、しかしそれ以上に、俺はライトノベルを好んで読みがちだ。
ラノベは好きだ。
現実味がまるでなく、作者の妄想が丸見えで、読者の性癖が丸わかりな、世間一般的に疎まれやすいオタクコンテンツなのだろうけれど――けど、それがいい。
現実を忘れられるから。
犬を見ても花を見ても星を見ても笑えない、空も飛べず超能力も使えず甘酸っぱい恋もできない、不自由で退屈で有害無益なこの現実を、それでも目を背ければ後ろ指をさされる理不尽なこの世界を、ライトノベルを読んでいる時間だけは忘れられるから。
だから好きだ。
ライトノベルは好きだ――ああ、もちろん読むのが、だぞ?
当たり前だ。
ライトノベルを読むのが好きだ。
けれど、好きなのはあくまで読者としての立ち位置だ。
決して書いたりはしない。
あんなもの。
俺は決して――ライトノベルを書いたりはしない。