第八話 間違った選択
毎日のように海菜は耐え続けていた。抵抗一つせずにただ耐えていた。
私はそれが気にくわなくて、またいじめをやめなかった。クラスメートたちを巻き込んで、自分の怒りをぶつけていた。
事の始まりは、海菜が私の宝物を壊してからだった。
私達は、親友だった。
その日も私の家で仲良く遊んでいた。お世辞にも海菜の家は広いと言えなくて、どの近所と比較しても広い私の家が一番遊びやすかった。
小さい頃に公園で出会ってから、いつの間にか海菜は私の親友だった。好みも似ていたし、何より話していて楽しかった。喧嘩するときももちろんあったけど、すぐ仲直りして、またいつもの親友になっていた。
だからこの日の喧嘩も、すぐ終わると思ってたんだよ。
鬼ごっこをしていた時に、転んでしまった海菜が棚に飾ってあった私の宝物を壊した。
すぐに謝ってくれたのに、私は海菜のことを突きはなしてしまった。……だって、宝物だったんだもの、仕方ないじゃない。
その日から距離ができてしまって、全く遊ばなくなった。
高校に入ってからだった。ふいにクラスメートが海菜の服に水をかけてしまった。そして下着が透けたその姿が間抜けだと、クラス中が笑った。
私は、何もしなかった。
数人の女子たちが優しく庇う中、私は目を逸らした。今思えばあのときから私は最低だったと思う。
その日からクラスの中では海菜の反応が面白いと話題にされた。最初は数人の女子たちが庇っていたけれど、次第にその女子たちも笑う側となってしまった。
私に助けて欲しいと訴える目を向けた海菜を、私はただ無視した。
いつの日か、近づいた海菜を思わず突き飛ばしてしまった。どうしたらいいか分からなくて、ごめんと言おうとしたとき、クラスの男子が追い打ちをかけるように蹴りを入れた。
私のせいで悪化していったいじめに、私は何もできなかった。それどころか標的が自分に向くのを恐れてそっち側へと行ってしまった。
怖かったの。どう助けたらいいか分からなくて、今更なんじゃないかと思ってしまって、メールも全て無視してしまった。家に来た海菜を追い返した。全部、全部私に勇気がなかったせいなの。
あのとき止めていれば、あのとき今までごめんと言っていれば、メールの中だけでも相談にのっていれば、家の中でも良かったのに。相談にのって、先生に話をして、協力していれば。
あのとき、あのときに。どれだけチャンスがあったと思う?
今更なんて考え捨てて、勇気出して止めていれば良かったのに。
ごめんなさい。私はあなたを助けられなかった。
勇気がない、臆病者で、あなたを裏切ってしまった私をどうか許さないでほしい。
――目の前に広がる、真っ赤な教室の床を見ながら、そんな事を思った。