第七話 その視線が怖い
「よーし、これで全員か」
担任がそう言い終わると同時に、教室の扉がゆっくりと開いた。開けた本人は気付かれたくなかったのだろう。しかしクラスメートたちは全員、扉の方を向いてしまった。
「……おはようございます」
小さく呟くように挨拶をすれば、担任に向かって頭をさげたそいつに、担任はため息を吐きながら出席表を再度開いた。
「遅いぞ和崎、これからはチャイムが鳴る十分前には教室にいなさい」
「……はい」
その小さい返事より先に、クラスメートたちの笑い声が耳に届く。くすくすと笑う声が、そいつに向けられていることは言うまでもなく分かっていた。
そいつが俯いたまま席へと向かう。しかし落書きされていたはずの机は見当たらず、座る椅子もなかったことに気づき、狼狽えた姿がまたクラスメートたちの笑いの種となる。
再度俯いた顔でも、涙が浮かんでいたのは見えて、必死に私も笑いを堪えた。
「日直、号令」
担任の合図で今日の日直が号令をかけた。立ち上がり、礼をして担任が出て行くのを確認してから、そいつの元へと足を進ませた。
「おはよー海菜ちゃん、どしたの? 早く席つけば?」
腕を組んでそいつに笑いかける私と、それを傍観するクラスメートたち。担任は見て見ぬフリだと分かった上での行動だ。
立ち尽くしたまま、俯いたままのそいつは名前を和崎海菜。この教室でのいじめられっ子である。
「あれー、席ないけどどうした?」
「可哀想だねー。あっ、その窓から飛び降りたら見つかるかもよ??」
くすくすと笑うクラスメートたちにも何も言わず、海菜はただ顔を逸らした。
「ねえ、話聞いてんの?」
胸ぐらを掴む気の強い女子にも一切言葉を発さず、海菜はまだ俯き、顔を逸らす。
抵抗する意思もなく、学校に未だ来続ける海菜は、諦めが悪いというのだろうか。そういうところを含め、私は海菜が気にくわない。
いつ思い返してもそうだ、気にくわないことばかり。私は過去を走馬燈のように思いだしては、気付かれないように舌打ちをした。
「……」
いつまで経っても無抵抗無反応の海菜にしびれを切らし、ついに胸ぐらを掴んだ女子が海菜を蹴り飛ばした。
苦しそうな声をあげて床に倒れ込む海菜を見て、その女子は高笑いをした。心の底から楽しんでいる様子が嫌なほど伝わってくる。
クラスメート全員が助けもせず、笑い合うだけの空間で、ただ耐えるだけの海菜に、また私は気にくわないと思った。
そして、蹴られ、罵詈雑言を浴びせられることに、耐えきれなくなってやめてと呟く様子を、私は笑ったまま見つめた。
「……る……ちゃ……」
しかし、助けを求めるような元親友の顔に、今度は私が目を逸らしてしまった。