第六話 どこにでもある普通の学校で
「おはよー!」
賑やかな声が飛び交う教室に手を振って入った。少し重たい扉を閉めれば鈍い音が小さく響く。
「おはよ晴実ちゃん!」
「はよーっす」
「おはよ! ねえ昨日のテレビ見たー?」
挨拶に返す声たちに安心感を覚えながら、窓側の自分の席へと向かいながら友達と喋り続ける。
どこにでもあるような教室に、どこにでもいるようなクラスメートに、どこにでもいるような人気者の私。そして――どこにでもいるようないじめられっ子。
「そういえば今日は来てないの? こいつ」
一人の男子が私の一つ後ろの席を雑に指さした、かと思えば片足で机を蹴り飛ばした。倒れる音が響けば、振り返ったクラスメートたちの視線が倒れた机に集まった。
静まりかえった教室に、息を吐く音が聞こえた――
「「あははははは!!」」
「ははっ! 裕樹! それはねえよ!」
「そうよ、来たくても来れないだもん! 可哀想よ! ふふっ」
心配するような言葉とは裏腹に、クラスメートたちの声には笑い声が混じっている。
私のあとに入ってきた子たちも、笑い声につられてその頬を動かした。
「こらこら」
自分の机に置いた鞄からスマホを取りだして、ポケットに入れたままクラスメートたちを追い払うように手を振った。
「蹴り飛ばしちゃダメじゃない、ほら座る椅子がどっか行っちゃった」
鞄と共に机の上に乗れば、足を組んでその机を上から見下した。
「あら、でも合ってるか。そいつが座るのは椅子じゃなくて地面だものね!」
自分の高い笑い声が教室に響けば、時間が止まったようなクラスメートたちも動きだした。
「ひどいよ晴実ちゃーん!」
「それなら椅子いらねえんじゃねえの?」
賑やかな声の中に、悪意と嘲笑が混ざり合い、教室をどろどろの黒い渦で包み込んだ。 先ほどの男子たちが“そいつ”の椅子と机を持てば、教室の窓から勢いよく放り投げた。大きく不快な音が下から聞こえてきたら、それは嘲笑を起こす種となる。
ひどく時間を忘れるような空間に、それを取り戻すかのようなチャイムの音が鳴り響き、私たちを席へと移動させた。
「席につけー」
教室に担任の男性教師が入ってくれば、ホームルームが終わるまで、あんなに騒がしかったクラスメートたちは静かだった。
担任がクラスメートたちを五十音順に呼んでいけば、それに返事し、出席がとられていく。
今日もただいつも通りの日々が過ぎるだけかあ……。つまんないなあ。放課後みんなとどこか遊びに行こうかな? 前に約束してたクレープ屋、まだ行ってないしな。
そんなことを考えながら、ふと窓の外を見た。二階の教室から見える風景は見慣れたもので、ただ広く青い空もいくつも並ぶ色違いの屋根たちも、何も私の日常に刺激を与えない。
「北川ー」
「はーい」
やる気のなさを声に出しながら、教卓に肘つく担任に目を向ける。若いとは言えないが年寄りとも言えない年齢が外見から容易に想像できる。そのくせ髪型だけは整えていて腹が立った。