表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日、世界が滅ぶとしよう。  作者: 弦創ユヅキ
オリキャラ²
51/174

第五十話 人間とアキレーヌ

 「お父さん? お母さん?」

 明かりのついていない家は鍵がかかってなかった。

 玄関はなぜか開いていた。そして血がついていた。

 玄関を入ってすぐ、僕は分かった。この家の人たちは狼たちに殺されていると。

 血の匂いが濃いっていうんだっけか。この血の匂いの強さで、生きてる人間はそういない。

 ああ、会えたと思ったのにな。

 リビングへと続いているだろう扉にも血がついていた。

 扉をゆっくりと、血が垂れていく様を見ながら開ける。

 「……ああ……」

 そこにあったのは、食べ散らかされたという表現が合う、三人の死体だった

 一人は、赤ちゃんだった。まだ髪の毛も生えてなかったんだろうな。もう見えないけど……。

 ああ、なんてひどいんだろう。僕の家族だったのに。

 「お父さん……お母さん……」

 死体に近づくと、一冊の本が落ちてるのに気づいた。

 ……だめだ。目の前が霞んで何も見えないや。

 なんで見えないんだろう? ああ、泣いてるのか。

 助けて誰か。何も見えないんだ。僕の代わりにこの本を読んで。血まみれになってるけど、大切にされていたこの本を。

 手の跡がついてるんだ。きっとお父さんの手なんだ。この本を守ってくれてたんだ。

 本も赤ちゃんもお母さんも。全部お父さんが守ってくれてたんだ。

 ……ありがとう、お父さん。

 「ごめんね……もっと早く来てればよかったのかな……? ごめんね……ごめんね……」

 僕はぼろぼろ涙を血まみれの床に落としながら、その本をめくった。


 『〇月×日。きょうから、このいえにすむことになった。おじいちゃんたちがてつだってくれた。ぼくのかぞくはあたまがいいんだ。にんげんたちのつかうかがくってやつがじょうずなの。ぼくはひいおじいちゃんのめいれいで、このいえにきた。これからがんばろう。


 〇月□日。おもってたよりにんげんのせいかつっていいものだった。でもこれをいうとおこられちゃうな。ぼくはかがくでにんげんになれたおおかみ。むらをしはい? するためにちかくのにんげんからころしていくの。すきをみて、このかぞくもころしてあげる。


 〇月〇日。どうしよう。にんげんのせいかつがたのしいな。ほんとうににんげんはころさないといけないのかな。おおかみのせいかつはこわくて、とてもつらいんだ。やさしいにんげんのかぞくがたのしい。どうしよう。ころしたくないな。


 〇月△日。おこられちゃった。はやくころせって。どうしよう。できないよ。だってたのしいんだよ。やさしいんだよ。にんげんはわるいしゅぞくじゃないよ。みんなしんじてよ。そうだ、ぼくがこのかぞくをまもってあげよう。ごめんねひいおじいちゃん、ぼくはにんげんのかぞくがすきになりました。


 〇月☆日。ねえ! ぼくにいもうとができるんだって! たのしみだなあ。ちのつながってないかぞくだけど、ぼくがおにいちゃんになるんだ! はやくみんなをせっとくさせないと! にんげんはみんないいひとだよ!


 〇月××日。さいきん、このもりのちかくで、ひとさらい? があるんだって。きをつけてっておとうさんにいわれた。おおかみのかぶりものをしたひとが、こどもたちをねらうんだって。ぼくももりのそとにはでないようにしよう。いもうとはいつうまれるのかな?


 〇月×□日。みちゃった。ひいおじいちゃんが、ぼくのおかあさんをころそうとしたんだ。ぼくがやめてってとめたからかえっていったけど、どうしよう、またきたら。だいじょうぶだよおかあさん。ぼくがまもってあげるから、おかあさんはいもうとをまもってね。



 □月×日。今日で何日が経っただろうか。息子が人攫いにあってから。あの時私がしっかり着いて行ってやってれば。悔やんでも悔やんでも過去が変わらない。ああ、どうか神様。私の息子を返してください。狼であろうと、彼は私の大切な息子なんです。もうすぐ妹も生まれる。顔くらい見せてやりたいでしょう。どうか、どうか狼の手から息子を……。


 ☆月×日。最近、狼の遠吠えが騒がしくなった。ああ、娘が泣いている。行ってやらねば。』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ