第四話 “家”から“仕事”へ
「「「ご馳走様でしたー」」」
家族全員の声が揃えば、その言葉を合図にそれぞれ自由行動を始める。
白い髪の者は自分の仕事場へ、三角巾をつけた者は食器を片付け、桃色と水色の者達は人間たちへ会いに行き、リボンをつけた者達はその場で談笑を続け、残り数名の者は自分の部屋へと戻っていった。
今、朝ご飯を食べたこの場所は私達の“家”だ。私達家族以外、誰もいない、私達だけの“家”。
「弦月、行くよ」
その声が私の肩を優しく叩き、私を現実へと引き戻す。顔をあげて振り返れば、いつもの見飽きた美人がいた。
「うん」
足元に置いていたお気に入りの茶色の鞄を持って、ゆっくりと席を立ち上がる。鞄を肩からかけて中身をしっかりと確認して茜ちゃんに準備完了の声をかけた。
目的地へ移動する前にふと辺りを見渡した。見慣れた場所なのに、なぜか私だけ隔離されたような不快感があったからだ。
数えるほどしかない黒と、それを覆い隠すように存在感を放つ白。そして私たちの好きな色がところどころに散りばめられていた。
清潔感を保ち続けているこの家は、私達が毎日掃除している訳ではない。“汚れることがない”だけだ。
私達以外いないこの家に、誰かが尋ねてくることはないだろう。いや、むしろ尋ねようともしないのだろうけれど。
仮にこの家を尋ねようと探す者がいたとして、そいつはきっと、永遠に存在しない場所を探しているようなもの。
この家は住所がない。私達に戸籍もない。この場所は完全に法律も手が届かない。
――その名を、天界。
物語でよくきく世界。神様の住まう場所であり、清く正しく美しい世界。んまあ、イメージ的にはそうなるのかな。
天界ではある。しかしこの場所は天界というには寂しすぎる。白すぎる空間に、いくつもの扉。横一列に並ぶそれにつけられた宝石が、皆違う色をしていること以外は、他の家具と同様、ペンキで塗られたように白かった。
……私達は、人間とはかけ離れた存在だ。