第四十二話 お散歩
「むう~……弦月さんじゃんけん強い!」
「あはは……」
わざと負けてあげようにも、なぜか出した手が全て勝ちになってしまう。
なんとなくチョキ出すな~とかわかるんだよね。なんでだろ?
今のところ二十勝三敗。三回はめっちゃ早く出す手を変えた逆後だし。
何回も後出ししてるとバレそうで怖くてできない。リンゴちゃんわざと負けてもらうとか嫌いなんだよね。『リンゴは勝ってない!』って納得しない。
子供らしくないなあとか思っちゃうな。
「……邪魔」
突然茜ちゃんが呟いた。私のいる位置が悪かったかなとか思ったけど、違うみたいだ。
数百メートル先に並ぶその二人組は、普通に見たらただ並んでる一般人だけど、この距離なら私でも見える。ポケットに銃を隠し持ってる。というか引き金の部分まで出てるじゃんか。
すぐに取り出せるようにしてるんだろうけど、下手だなあ。
銃の扱いがうまい人は私の家族にもいるけど、その人は全部スカートの中に隠してるよ。
すぐ取り出せるって言ってた。本当かどうか試されもしたよ。私より速く動けるとかなんだよ。
私は絵を描くこと、戦闘に向いてる特技は徒競走くらいなんだよ。
足の速さしか取り柄のない私が家族の誰よりも足遅いって何? みんなどれだけ速いのさ。
「リンゴお散歩してこよっか?」
リンゴちゃんの言葉に頷きもしない茜ちゃんを見て、リンゴちゃんは不満そうに頬を膨らませたけど、すぐ意図を理解して歩き出した。
どこかへ行こうとするリンゴちゃんを巫女服の人は止めたけど、私が行かせてあげてと逆に止めた。
私が行ってもよかったんだけど、あの様子を見るとリンゴちゃんはやる気満々だな。邪魔しないほうがいいや。
なんかあったらすぐ駆け付ければいいし。リンゴちゃんよりは遅いけど人よりは速いんだからね私!
かたそうな地面を歩く音。ひーる? っていう靴の音が特に響いてる。
リンゴは茜お姉ちゃんからお散歩行ってきてって頼まれたの!
「ふるんふるるふる~ん~」
この前聞いた魔法少女あにめの曲を口ずさみながら目的地に向かって歩き出す。
あ! いたいた!
ぽけっとから拳銃が見えてるよ! なんで他のみんなは気づかないのかなあ?
リンゴは通り過ぎるフリをしてぽけっとから拳銃を抜き取ったの!
すごいでしょ! リンゴ、少しだけまじっくもできるから、手先が器用なんだよ!
抜き取った拳銃さんを近くにいた巫女服? のお姉さんに渡したの!
「これね、拾ったの! 危ないものなんだって! あげる!」
「えっ、あっ、ありがとうございます……!」
お姉さんはびっくりしてたの! そうだよね、いきなり拳銃さん渡されたらびっくりするよね。
あ! あのね、お散歩っていうのは、こういうリンゴたちを狙う人たちを阻止することなの!
何気なく? 近づいて武器を取ったり押さえつけたりするの!
あとね、お出かけとお買い物もあるの! お出かけは殺しちゃうの! こんにちは~って! お買い物は戦利品? も回収するの!
今回はお散歩だったから殺さなかったの!
茜お姉ちゃんにお散歩かどうか聞いたら否定されなかったから、殺さなかったの!
リンゴは言いつけをちゃんと守れる良い子なの! だからリンゴは褒められるべきなの!
拳銃がなくなったことに気づいて慌ててる人を横目に、リンゴは茜お姉ちゃんと弦月さんの元へ戻っていった。




