第二十話 その名はアキレーヌとルーカス。
「「「ごちそうさまでした!」」」
その言葉を合図に、みんなが席を立ち始めた。
みんな自分のお皿をキッチンに持ってきてくれる。俺も食べ終わったものを片づけていると、ふとリンゴちゃんが俯いているのが目に入った。
「リンゴちゃん、大丈夫?」
俺の声に気づいてリンゴちゃんは顔をあげた。よかった涙目にはなってないな。
「苺さん! はてなさんリンゴと遊んでくれなかったの!!」
懲りてないみたいだなこれは……。
「そうだね、でも仕事中だったんでしょ? 仕事してないときだったら遊んでくれるんじゃない?」
「してなかったもん! へんなきかい触ってただけだもん!」
恐らくスマホのことだろうか……。リンゴちゃんは機械というものをよく知らない。スマホで主と連絡を取っていたのだろう、それがわからなかったみたいだ。
「じゃあ今度から今仕事中かどうか聞いてみようか、仕事中じゃなかったら遊んでもらおう?」
「……むう……」
納得のいってない顔をするリンゴちゃんは、誰かと遊びたくてしょうがないらしい。
「リンゴちゃん、良かったら俺と遊ぶ?」
そういうとさっきまでの顔とは一変。おもちゃ屋を見つけたように楽しみな気持ちがあふれた顔になった。
「遊ぶ遊ぶ!! まってて! 二人のこと呼んでくる!!」
ふっと肩の荷が下りた気がした。リンゴちゃんは感情豊かだなあ……。
まあなんにせよ、へこんでるようじゃなくて良かったか。泣いたままだったらどうしようと思ったが……。
「きてきて!」
「今行くってば!」
「……待ってよ」
ママとタイムに皿洗いはお願いしておいたので準備万端だ。
リンゴちゃんが連れてきたのは二人の男の子。跳ねた黒髪はアキレーヌ君。薄紫の髪はルーカス君。二人ともリンゴちゃんと同い年で仲がいい。
「苺さん、何する? リンゴはね、リンゴはね、リンゴはね地上で追いかけっこがしたいな!」
「いいよ、二人もそれでいい?」
リンゴちゃんに手を繋がれたままの二人は、その手を見つめて、はっとした様子で答えだした。
「いいよ! なんでも!」
「……同じく」
二人はリンゴちゃんと仲がいい。ここに来る前からだ。何か特別な感情があるのかもね……?
「じゃあ行こうか」
三人の背中を押して地上へと繋がるゲートへと向かった。
「待って苺さんー!!」
「待たなーい!」
草木をかき分ける音。四人分の足音。耳を澄ませれば小鳥たちの鳴き声。まるで俺たちの鬼ごっこを観賞して微笑んでるようだった。
リンゴちゃんたち三人が鬼、俺一人が逃げる側。子供たち三人を追いかけるわけにもいかなかったし、アキレーヌ君とルーカス君はリンゴちゃんと一緒がいいみたいだったからね。捕まらないぎりぎりの速度で逃げ続けてるわけだ。
こう見えて俺は小さい頃から茜と龍兎と遊んでいた。年上だったこともあって力の差は歴然。手加減なんてしてくれなかったから、今となってはその二人を除いた家族の中で一番速かったりするんだ。
こんな背も低くて、弱くみられる俺だけど、実は結構強かったりするんだよ。
「早いね苺さん! 僕全然追いつけないや!」
そういうアキレーヌ君は、手加減しているとはいえ、俺の十数歩後を走ってきていて、全くその差が変わることはない。
「十分追いついてると思うよー」
ルーカス君はリンゴちゃんやアキレーヌ君より後ろにいるものの、やはり差はずっと変わらない。三人とも一般の子供たちより体力があるなあ。さすがだ。
その理由として、三人に親はいない。実は三人は売られていた身で、とある地上で神様として崇められていた茜の元へと生贄として連れてこられたのだ。それから茜と龍兎、そして主に親代わりをしてもらったお陰か、今のように俺に追いつくほどになっている。
やっぱりというか、茜と龍兎に育てられると異常な成長をするもんだ。
主に育てられたルーカス君は、たまに茜に連れられていたから、二人には劣るけどかなりの体力を持っている。
「つかまえた!!」
そんなことを考えてるうちにアキレーヌ君に捕まってしまった。
いつの間にか背後にいたから、わざと遠回りしてリンゴちゃんたちと挟み撃ちにしたんだろうなあ。考えることが子供じゃないよ。
「捕まっちゃった。すごいねみんなは!」
俺の腕を優しく掴むアキレーヌ君の頭を撫でてやると、リンゴちゃんがむすっと頬を膨らませたのでリンゴちゃんの頭も撫でてやった。ルーカス君は顔が変わらなかったけど、どこかさみしそうに顔を背けたから、ルーカス君も撫でた。
身長が低いのはコンプレックスだけど、こうやって三人たちと気軽に接しられるのはうれしいな。
「そろそろ帰ろうか」
「うん!! ありがと苺さん!!」
満足したようだ。満面の笑顔で俺に飛びついてくるリンゴちゃんは、身軽そうなあの動きから察せるようにとても軽かった。
「また今度遊んでね苺さん!」
アキレーヌ君もルーカス君も楽しんでくれたようだ。よかったな。
「そうだね、また遊ぼうか!」
三人の背中を軽く触って、帰るよと一言呟いて転移魔法を使った。
俺は神であるママから生まれたから、ちゃんと神様の力は使えるんだ。転移、いわゆる瞬間移動や、ちょっとだけ花を操れることくらいしかできないけどね。




