表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日、世界が滅ぶとしよう。  作者: 弦創ユヅキ
オリキャラ²
2/174

第一話 夢から覚めて

 「おはよう」

 まだ暗い瞼の向こうから声がする。聞き取りやすい発音に意思をしっかりと感じる。少し高いその声の持ち主は女性だと予想した。そしてどこか苛つきの混じった感じがした。聞き覚えのあるその声に、私は反応できなかった。

 太陽の光が差し込んでいないこの部屋に、予定もない私に、一体何の用事があるのか。気になれば気になっても、寝ぼけたままの思考回路では、「ああ、昨日は仕事が疲れたな」などと関係ないことが浮かんでは消えていく。

 眠る前は軽い布団が、今となっては鉛のように重かった。

 ああ、どうか起こさないでくれ。生涯ここで過ごしてもいい。布団に根が生えたように動かない私を、そっとしておいておくれ。

 そんな思いが相手に届くように念じて、半開きの口を閉じて、重い布団を引きずるように自分の肩までかけ――


 「おはよう!」

 「うぎゃっ!!」


 腹部へと落ちる鋭い手。体が真っ二つになったかと思うほどには痛く、つい手で確認してしまった。

 唸るように体を丸め、切断されたような腹部をさすって、そいつを睨み付けた。

 「あ、茜ちゃんっ……! 何か用っ!?」

 足元まで伸びているにも関わらず、きちんと手入れされた燃えるような赤い髪。全て赤で染めたようなベストと、その胸ではち切れそうな清潔感のある白いシャツに、鋭さを感じながらも決して私から逸らさない、炎のように綺麗すぎる赤い瞳。整った顔に苛つきさえ覚える。

 私の腹にチョップを食らわせた、頭のてっぺんから足元まで「美しい」と表現できようこの女。神崎茜は私の家族であり、そして「夢」だ。

 「今日の予定、忘れた?」

 凛としたその声で告げられたものは、私の体を動かす理由には十分だった。

 一瞬にして目覚めた頭に、大量の文字が浮かび上がり、私の寝起きの頭をかき乱した。

 そしてたった一つの答えにたどり着いた頃、私はこの世界全てを恨むような力で、鉛のような布団をベッドから叩き落とした――。


 「大変申し訳ありませんでした」

 なんと綺麗な土下座だろうか。

 この世に「土下座選手権」なるものがあったなら優勝のトロフィーは私のものだ。


 ベッドの上で頭を下げる私に、神崎茜なるものは呆れたようにため息をつき、鋭い瞳をさらに鋭くした。

 「さっさと支度して」

 切り捨てるように言われた言葉に、素直に従い、私は小さく謝りながらもベッドから降り、洗面所へ足を引きずっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ