第十七話 その名はガーナ・メアリーヌ。
「お姉様~?」
恋愛双子ちゃんたちと帰ってきたあと、ご飯を食べて部屋に戻った。だけどお姉様に用事があったのを思い出して部屋の壁にあるボタンを押した。
私とガーナお姉様、そして恋ちゃんたちの部屋などは、互いの部屋の壁を一つのボタンで開閉可能だ。お互いの部屋を行き来することの多い私たちなどは全員そうされているのだ。
ボタンを押すと端から次第に壁がどこかへと消えていく。収納する場所なんてないのに、一体どこにいってるんだか……。
「お姉様、この前言ってたやつあったよー」
私の部屋は棚が一面を囲んでいて、そのすべてにゲームがしまわれているが、お姉様の部屋は棚にフラスコや薬品などの研究材料をしまっている。
「……」
「お姉様~」
返事はないが、気配は部屋にあるのでどこかにいるはずだ。あ、ほら机に向かって人の声が聞こえなくなるほど集中してる。
「おねーさま!」
後ろからゆっくり近づいて思いっきり抱き着く。薬品持ってないのは確認済みだよ、平気。
「……メーナ」
「退けって? はいはい今退きますよ」
肩がはねたから驚きはしたんだろうけど、まあ慣れてんだろうなあ。私の顔も見ずに名前だけ呟くお姉様は、いつもこんな口数だ。私の名前を呼ぶだけだけど、何が言いたいのかはなんとなくわかる。これも慣れってやつかな。
私と同じ色のお姉様の髪から消毒液の匂いがした。きっと昨日言ってた研究の続きで使ったんだろう。そんなことを考えながらお姉様から離れて片手に持っていたお皿を机に置く。
「青色の皿なんて何に使うの? 赤じゃだめなの?」
「……」
「青に含まれる成分じゃないとだめ? そんなんあるんだ」
「……」
「緑の液体取ってくれ? 近くにあるんだから自分で取りなよ。ほら」
なんでわかるんだろう、と冷静に思う。まるでお姉様の考えてることは自分と同じかのように私の思うことが大体当たってる。ああ、お姉様は“元”私みたいなもんだからそうなのかな。性格とか全然違うけど、本質的なものは似てるのかもね。
お姉様の研究を眺めながらその集中した瞳に注目する。私と同じ赤い瞳は目の前のそれにしか見えてない。私がすぐ後ろにいることなんてもう頭にないんだろうなあ。
視線を動かすことなく注射器を取り出したりするところを見ると、散らかってるその机のどこに何があるかはちゃんと理解しているようだ。勝手に片づけないほうがいいね。まあ私は片づけるなんてことしないし、私の部屋の掃除はなんかお姉様が勝手にやってるし。
テレビの周りなんて複数のゲーム機が投げ捨てるように置いてあるし、ゲームソフトなんてケースに入ってるのは稀。棚に入ってるやつは全部お姉様が元に戻したもの。
本当に私と性格は正反対だなあ。好き嫌いも実は反対なんだよね。私は納豆と甘いものが嫌い。お姉様はトマトと辛いものが嫌い。
人と話すのが苦じゃない私と、人と話す以前に自分の気持ちを顔にも出さないお姉様。
ここまで正反対なのはご主人たちに似たのかな。
「メーナ」
「これ?」
私の後ろにある緑と赤色が分離したままの薬品を渡すと何も言わずに研究を続けた。あってたのか。さすが私じゃんね。
お姉様のことを一番理解してるのは私だな、とか恋ちゃんたちと似てるな……。私たち人に似すぎじゃない?まあいいけど。
私はお姉様の邪魔にならないように部屋を出て、壁を戻そうともう一度ボタンを押して部屋を区切った。
さて、昨日の続きのゲームでもするかな。そう思ってテレビの前に座り込んで、投げ捨てられたように置かれているゲーム機の電源を入れて、コントローラーを探す。クッションの下には……ない。あれま、いつもここに置いてたなんだけど……あ、あった。私の後ろにあった。
「さて、全クリしますか」
一日で全クリをしてやる、と意気込んでスタートと書かれた選択肢を選んだ。