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明日、世界が滅ぶとしよう。  作者: 弦創ユヅキ
オリキャラ³
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12-連れ戻すまでの話③

 「早く! 早く部屋来てほしいの! ねえ早く!」

 「リンゴ、落ち着きなさい」

 「ダメ! ダメなの! ねえ早く来て! いっぱいあるの! 見てほしいの!」

 「リンゴ」

 「色んな色があってね! リンゴ、虹色が好きなの! でもね、でもね灰色も好きなの!」

 違うわ。リンゴの好きな色は桃色よ。虹色はごちゃごちゃで苦手だと言っていたじゃない。灰色は暗いと見向きもしなかったじゃない。

 「なあリンゴ、俺に見せてくれないか? 俺青が好きなんだけど青色の駒はあるか?」

 気を利かせたのか、苺がリンゴの肩に手をおいて部屋に行こうと誘う。

 「青もあるし赤もあるし何色だってあるの! でもね、でもね、でもね灰色はないし虹色は来てくれないの!」

 苺の手を無視するように走り出し、部屋の扉にぶつかってしまうそうなくらい迷いなく自分の部屋の前まで移動したリンゴは、突然動きを止めた。

 「……」

 「リンゴ? 虹色はどこに来ないんだ?」

 「……」

 扉に手をかけることなく、じっと見つめ続けるリンゴ。

 止めた方がいいのかしら……でもあれは何かを伝えようとしている。

 先の言葉を言うことはリンゴにとって悪影響があるかしら。

 不明な点が多いこの状況で危険な事は避けるべきよね?

 でも、なぜかしら。空気がおかしいの。

 「……あのね、来てほしいの」

 ゆっくりと振り返ったリンゴの目には、誰も映らなかったわ。

 「灰色は、虹色を待ってるの」

 虹色に染まるリンゴの瞳が、元の色に戻った頃にはみんな色を思い出していた。

 大切なあの子の色。お気に入りだといつも着ていたその服の色。不安定な存在を表すようなその色。

 「……人形」

 ガーナのその呟きで私は完全に思い出すことができた。

 私の前から消えたあの子。とても大切な家族の一人。

 「……ねえ、あなたって誰の分身だったかしら。







 ――ゲンガー」



 視線を向けるその先にいる熊のぬいぐるみ。

 恋不、可恋、ガーナ、メーナが神となった時に作ったぬいぐるたちに混ざる存在。

 気が付いたら四人の後を歩いてる四匹の中にいる知らない存在。

 「……わたしはきえたよ」

 ぬいぐるみたちは喋らない。問いかけても答えない。

 その常識が覆されるような反応に驚く者はいなかった。

 「わたし、けっこうおこってるの。わたしのことをわすれてにげるなんてひどいから。だからつれもどして。わたしのなまえはげんがーだよ」

 連れ戻しましょう。私たちの大切な家族を。

 私の家族が消えることは許さない。

 絶対にまたこの家に居させるから。





 「あのね、リンゴ探してる色があるの!」

 「ええ、その色はどこにあるの?」

 「向こうだよ! 灰色はこっちだよ!」

 私の手を引いて向かう先はただの壁だった。

 いや、そこには部屋があった。私たちの記憶から消えて存在が消えただけ。

 「灰色はここにあったの!」

 「今もいるかしら?」

 「……」

 再びリンゴの瞳に虹がかかった。

 一瞬にして消えたその色に驚くことはなかった。それより背後の子に目を向けた。

 黒いセーラー服のその子。私から大切な子を奪ったその子は、悲しそうな顔をして呟き、虹と共に消えて行った。

 「……あの人を、連れて戻して……」

 まるで死ぬ間際の祈りのように苦しそうだった。

 希望を見つけた顔をしていない。縋るようなその顔が、どんな感情でできているか、私には分からなかった。

 私は頷き、約束した。

 「必ず」

 見つけてみせるわ。連れ戻してみせるわ。

 私の家族が、私から逃げられると思わないで。

 例え貴方が望まないとしても、泣き叫んで嫌だと拒んだとしても。

 「ゲンガー、方向は分かるかしら」

 「わからないよ。でも、つなげることはできるよ。よくみて。よくさがして。いちどいったことのある、あかねちゃんなら、きっとみつけられる」

 思い返すは懐かしいあの部屋。あの日貴方と出会ったあの場所を鮮明に浮かべる。

 瞼の裏に虹がかかったような光を感じて、目を開くとさっきまで見ていた景色に少し変化があった。しかしそれが何なのかはまだ分からなかった。

 「……恋不、可恋。私の指先を見て頂戴」

 「え? ああ、うん」

 私自身に変化はないわ。あるのは他の誰か。

 心当たりはないけれど、些細なその視線の動きで違和感は見つかったわ。

 「あ、ねえ、すごい。ねえ見て……って見えないか。視界共有できる? めっちゃ綺麗だよ! 僕の色もあるし姉の色もある~」

 「みんなの色があるわ」

 二人の視界を片目ずつ借りると、指先から続く赤い糸に混じり、虹色の糸があった。

 まあ、綺麗ね。私の好きな色もあるわね。

 「ばかなわたし。にげたってむだなのに。みんなからにげられるわけないのに。あい、いぞん、きょうき。わたしをつかむそれをかんがえればよかったのに」

 ゲンガーの言葉に重なるように、セーラー服のあの子の声も聞こえる。悲しい祈りの言葉を聞いて、糸の先を辿る。

 これは愛じゃない。確かにそうかもしれないわ。

 これはただの依存。これはただの執着。これはただの我儘。

 分かってる。簡単に片づけられるこの感情を。

 でもこれを私は愛だと感じてしまう。愛って、こういうものじゃない?

 依存も執着も我儘もないのなら、それは無関心でしょう?

 混ざってできたその感情は、全ての色を混ぜた色は、灰色ではないのよ。

 ねえ、あなたが二番目に好きな虹色よ。

 私たちの色よ。

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