第十四話 苺の母親、その名は苺ママ。
コンコンッ。
宝石の色が桃色と緑色をしたドアをノックして、返事があるまで待ってみる。
「どうぞー」
優しく明朗な少女の声が聞こえれば、失礼しますとドアを開ける。ドアは本物の植物で丁寧に飾られていた。
「いらっしゃ~い」
「わお」
丁寧に区別され、片付けられた棚、玄関は明るい木と桃色のカーペット。植木鉢には小さい苺が実っていた。
部屋にはその人の性格が出るというけれど、その通りだと思う。この部屋は舞原苺ちゃんの部屋であり、家庭的かつ明朗な彼女の性格がよく表れている。床は綺麗に拭かれているし、ゴミ一つないし、苺ちゃんの側のカーペットにも埃は一つない。桃色のカーペットがとても美しく見えた。
さて、私がこの部屋を見て驚いた理由だが、それはこの部屋にいた人物に驚いたからである。
「あら、弦月ちゃんじゃないの! あなたもどう?」
桃色の髪を白い三角巾にまとめ、笑顔を浮かべて温情さが見える女性。名前は苺ママ。その通り苺ちゃんのお母さんである。
苺ママは頬に手をあて、笑顔を絶やさず手招きをした。
「いや、遠慮しとくよ……。それよりちょっと頼みたいことがあるんだけど」
苺ママの手に握られているそれ。黒や白や赤など様々な色をした服の数々。綺麗な床にまで広がっているそれは、いわゆるゴスロリ、というやつだ。
無類の服好き、その言葉が一番が合うだろう。人に服を着せるのも、服を買いに行くのも、服を眺めるのも、服を作るのもなんでも好き。一度捕まってしまったら二時間は逃げられないだろう。だから私は、服を持った苺ママを見て驚いたのだ。いつもなら自分の部屋で服を作っていたり、可愛い刺繍をしていたりするから、まさか苺ちゃんの部屋に来ているとは思わなかった。
捕まっている苺ちゃんは、いつも通りの緑のシャツだから、今来たばかりなのだろうか。なんというタイミングで来てしまったんだ私は。
「そう……? 頼み事は苺にかしら。じゃあお話が終わったら逃がさないわね」
「勘弁して……」
逃がさないと言われてしまった。私は誰よりも足が遅いからすぐ捕まるだろうなあ……。
「ねえ苺ちゃん、仕事手伝ってくれない?」
笑顔で頼めばきいてくれるかなー、と甘い考えで頼み込んでみる。苺ちゃんは優しいからきいてくれるはずだ!!
「んー、見ての通り逃げられないからなあ……。そうだ、ママも一緒に行かない?」
「その服を着てくれたらいいわよ」
「んー本当に逃げられないなあ……」
苺ちゃんが犠牲になってまで私の仕事を手伝おうとしてくれてる! なんて優しいんだ苺ちゃん。
「じゃあ弦月も一緒に着ようぜ」
「おっと、巻き込まれてしまったな……」
これが代償とでもいうつもりか……。
「私得しかしてないわ! ありがとう!!」