第百二十九話 身勝手な者の行動
「痛っ……」
「回復魔法は練習中なんだけど、たぶんできると思うからあとで回復してあげるよ」
「痛覚ってなんであるんでしょうねえ……」
須雨の鎚をやっと弾き落せた。鎚がなくなった須雨の動きは読みやすくて助かる。
まあ殴られたら普通に効きそうだから当たらないようにはしてるけど。
スピードも威力も私の方が有利になった。やろうと思えばすぐに決着はつくんだけど、私はちょっとね、思ったことがあるんだよね。
「ねえ須雨、明日とかって空いてる?」
「はい?」
一瞬の隙も見逃さず、私は須雨の足を払って地面に押し倒す。
逃げないように両手を掴んで動きを封じるの。いくら須雨でも単純な腕力は私の方が上だよ。
「戦うの、これが初めてだったんでしょ? いいじゃん、私めっちゃ苦労しちゃった。リアル格闘ゲーなんて久しぶりすぎてつい楽しくなっちゃった」
「えーと、離してくれると嬉しいのですが~?」
「やーだ。明日空けてよ。一緒にジムとか行かない? 須雨と行ったら楽しいと思うんだよね」
「……うーん、僕の負けのようですねえ……」
足も手も動かせないことに気づき、抵抗もできないと理解したのか、須雨は力を抜いた。
ん、あれ、もうちょっと暴れててほしかったんだけど……。
「僕の負けです。弦月さんたちを追って構いませんよ」
「……え、いや今須雨と遊びたいって言ってるんだけど」
「えっ?」
「え?」
抵抗の意思がなくなった須雨の手を引っ張って起き上がらせて、落ちていた須雨の帽子を返す。
「私、須雨と遊びたい。だから明日空けておいて」
「……えっ、と……まだ命令は続いているので、僕としてはメーナさんを殺さないといけないのですが……」
いやもう命令とかどうでもいいや。弦月も主も要は一発殴ればいいんでしょ? たぶん疲れて頭おかしくなってるんだよ。殴っとけば解決するって。
「いいよ? 私は今からあの二人を殴りに行くけど、明日だったらいくらでも時間あるし、いつでも殺しに来ていいよ?」
「そうではなくてですね、僕は今、メーナさんたちを殺さないといけないんですよ」
「は? 何私の誘い断るってこと?」
「さ、誘いと言われましてもですね……まるでデートみたいな言い方じゃないですか。殺し合いをしていた相手にいう言葉じゃないと思いますよ~?」
「え、普通にデートのつもりなんだけど。だめ? 嫌?」
「……え」
ん~? ああ、言い方がちょっと違ったのか。
よし、ならこれでどうだ?
「私、須雨とデート行きたいから、明日空けておいてね」
「えっ、あ、えっと?」
「この私とデートできるんだから断らないよね? じゃ、私二人追うから、絶対だよ? 絶対空けとけよ? あとで断りだしたら本気で殴るからね? じゃ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って……」
転移したのは廃墟のような静かな風の吹く場所。風の音に混じって聞こえるのは金属音と魔法同士のぶつかり合う音。
しかしそれは私の登場で停止した。
「はーい弦月ちゃん。可愛いメーナちゃんがお話しにきたよ~!」
「握力強っ……」
ナイフや紙を飛ばす弦月を後ろから拘束。
ん、抵抗の素振りがないな。もしかしてもう主死んじゃった? どうやって生き返らせられる?
「一応言っておくけど、さすがに全員相手するのは無理だからね」
「え、なんで? いいじゃん抵抗してる相手組み伏せるの楽しいよ?」
「おっとそういう趣味はないんだな私」
私一般人より力強い自信あるから、プライドある奴とか倒すと楽しいんだよね。
「さて、お話しましょ弦月ちゃん」
「やーだー!」
ばたばたと足を落ち着かせない弦月を絶対に離さないように力を込めて、少しあたりを見渡す。
龍兎と苺は大丈夫そうだ。龍兎はこっちを見てるけどもしかしてご主人に連絡とってるのかもしれないな。
「弦月」
一緒に転移してきた恋不が弦月の前にしゃがみ、真剣そうな顔で聞いた。
「ゼウスのこと、知ってたわよね?」
ぶっちゃけ私は知らない話。私須雨と遊ん……殺し合ってたから分からないな。
「……ゼウス、さんがどうかしたの?」
「なぜ黙ってたいたの? 私は嘘が嫌いよ。怒らせないで」
「……」
あれ、もしかして私いらない感じ?




