序章となるモノ
始まりました。よろしくお願いします。
――これは幼い頃からの夢だったといえる。他の誰かに語っても馬鹿にされる夢。そして決して叶うことのない夢。叶うはずがない夢。ずっと描いてきた私の夢。
寝ても覚めても私は描くことをやめなかった。気付いたら部屋は夢で埋め尽くされていた。床が見えないほどに広がった夢を片付けられず、私はいつまでも埃と夢と過ごしていた。
何年も信じてきた夢を、私は誰かに馬鹿にされようが気にしなかった。だってこれは私の夢。私だけが見れる、世界一素敵な物語。他の誰かなんて背景にも描かれないの。
物音が響き、恐怖で支配される家の中、自分の部屋だけは私の世界。鍵のない部屋でも誰も入ってこれないの。
だってここは私の世界。一度も聞いたことのない声で賑わって、直接見た事のない顔が並んで、大好きな人たちが隣にいる世界。
でも、私の描く夢はいつまでも夢のままなんだろう、とふと思う。いくら努力をしたところで、部屋の外の世界が変わらない限り、私の夢はただの妄想として片付けられる。埃と一緒に捨てられる。
……でもね、私あきらめが悪いの。私の夢を馬鹿にしたくらいで、私の夢が壊れるとでも?
舐めないで。私は夢を信じ続けるんだから。そして夢が叶ったとき、あなたたちを一番に見下してあげる。信じてきた夢たちと一緒に。
――それは数年後だった。私は誇らしげな笑みを浮かべて自慢してやった。
――ほら、叶ったでしょ。
それは私の信じた夢。硝子より薄く頑丈な壁で手の届かなかった夢。あなたたちが叶わないと馬鹿にした夢。
ねえ、見て。私の夢。とても素敵な物語を。
私の夢よ、手を取って一緒に行きましょう? あんな汚い世界なんて捨てて、素敵な世界へ堕ちていこう。
夢の世界と私のいる世界。決して繋がることのない世界同士。行き来ができないって言われてきたけれど、私にならできる。
――だって私は、夢を叶えられた。
悔しそうなあなたたちの顔が目に浮かぶ。
そんなの知ったことじゃない。私はこんな世界捨ててやる。
私の夢を馬鹿にする世界。私の夢を埃と一緒に捨てる世界。私の夢を、叶えさせない世界。……全部、捨ててやる。
――私にだから、できること。
私は今、目の前の人生を、漫画を読む感覚で見ている。一歩引いたところから干渉しているだけだと。
信じたくない訳ではない、むしろ嬉しくて全世界中の人類に自慢したいくらいなんだよ。
……でも、自慢はしない。「当たり前」になってしまったから。当たり前のことを自慢するのは馬鹿らしいでしょう? 私は呼吸ができるんだと言ったところで、誰もそれを羨ましいと思わない。
だからせめて、このまま、自分だけのものになっていればいい。当たり前のことを維持して、自分だけ優越感に浸っていればいいの。
私はこの場所で、「夢」を守り続ける。現実となった夢を守る。これは私にしかできないことなんだから。
全部私が守ってあげる。この夢を望んだ私が、愛するこの夢を。
……私の愛する、子供達を。
一番最初に出会ったのは、女神のような悪魔。
二番目に出会ったのは、悪魔のようで純粋な心。
三番目に出会ったのは、純粋な心で微笑んだ。
四番目五番目と続くものに、私は毎回心を躍らせた。
夢が叶った場所と私のいた場所は異なる。決して手の届かない場所へと私はたどり着いてしまった。
これは始まりの物語。私と夢の物語。
――物語の、第一話となるもの。