百鬼 荒天暗く
黄ばんだ換気扇の下で
火をつけられない煙草を加えながら
ドラム缶洗濯機に回されている衣類を見守る
年季の入ったコインランドリーだからか
自身が心配性だからか
それとも動いているから見ていただけなのか
そんな問いを頭の中でしていた
機械と水の音だけが鳴り響く店内
上京して3年目
一人暮らしが慣れてきたところで
弟が転がり込んできた
どうやら東京の学校に通うかららしい
兄弟仲が悪いわけでも良いわけでもなかったが
1人の優越に浸りたいってだけで上京をした私は
その優越が3年で終止符を打たれたことに
若干の苛立ちを覚えていた
勿論
弟が何か悪事をするわけではないから
この苛立ちを弟にぶつけようとは思わない
弟は
私を追って上京したんだから
なんて親に言われてしまったのだから
そんな事を言われてしまったら
追い出すに追い出せない
第一
弟を追い出したところで
弟に行く宛はあるのか
弟は寂しくならないのか
弟は
『ピーーーーッ』
電子音が店内に鳴り響く
いつのまにか洗濯機は止まっていた
無機質な温もりを得た布を手に取り
弟の待つ我が家に帰る
「ただいま」
そう言って弟の前に立つ時は
さっきまでの思い巡らせは無くなっていた
それが兄なりの高いプライドである