卓上の対戦――1
前書きカード紹介第六弾。今回も伊香保卯月対疋田昌司戦で使われたカードの紹介です。
鉱石魔術・スターリーラズリ
魔法カードで、同名カードの効果発動がそれぞれターン1制限、フィールド上に天属性ジュエルウィッチが存在しない場合に魔法使い族のデッキバウンスと手札1枚という追加コストを要求するカードです。
本来の発動コストは手札または手元のカード1枚の封印となっています。
効果は相手モンスターの単純除去で、《ジュエルウィッチ・ラピス》が存在する場合にドローと破壊したモンスターの効果無効化が働きます。
基本的にはラピスがいること前提で、無作為に発動すると基本的にアド損ですね。
墓地効果はこのカードと魔法使い族モンスター1体を封印して発動出来る《鉱石魔術・スターリーラズリ》以外の鉱石魔術魔法のサーチです。
サーチ対象は同名以外ですけど、ラピスの効果で引っ張ってこれるので多分問題ないですね。
広瀬とデッキをシャッフルしながら話していると、いつの間にか細峰が現れていて、ショーケースを眺めていた女の子……、というか女子と話していた。
やっぱり知り合いは彼女だったらしい。
僕が気付いたことに気付いたのか、細峰は笑顔で小さく手を振ってくる。
それにつられるように女の子の方も横目でこっちを見てきたので、とりあえず会釈しておいた。
「おまたせっ、この娘が言ってた知り合いの――」
「伊香保卯月」
細峰の紹介を遮るように、彼女は自ら名乗る。
自分の言葉を遮られても当の細峰はというと全く気にしているようには見えない。
「それで、卯月。こっちが広瀬君で、こっちが十六位君」
「おい細峰」
「ごめんって、もう。篠崎君だよ、こっちの子は篠崎君」
反省する素振りなんて一切見せず、細峰は笑いながら軽く肩をたたいてくる。
「みんなMCGやってるんだし、とりあえずやろう?」
「お、いいぞ。叩きのめされてやる」
広瀬は広瀬で楽しそうに笑いながら馬鹿なことを誇らしげに言い出した。
「ちょっと広瀬君、何でやる前から負ける前提なの」
「いや今のブラフブラフ、俺ちょー強いから。もうめっちゃ強いから」
「えー、じゃあ相手私でいい?」
「お、誰でもいいぞ。うぇるかむだぞ」
相手が女子だから喜んでいるのかそれとも、単純に初めての相手だから喜んでいるのか、僕にはよくわからない。どっちもありえそうだ。
広瀬が僕の前からずれると、僕の前には伊香保さんが座り、隣には細峰が座る。
観戦と言うよりかは間違いなくやる流れだ。
名前も知らない男性や男の子とは何度もやったことはあるが、初めての女の子、というのは幾分か緊張する。
「それじゃあよろしく、篠崎……、えっと……」
「隼人です。篠崎隼人」
「そう。なら、隼人君、よろしく」
初対面だというのに普通に下の名前で呼んできた。
女の子に下の名前で呼ばれることに慣れてないんだ。悪いか。
「あ、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
伊香保さんのカードプロテクターは、何のキャラクターかはわからないけど、夜空のような背景に金髪の幼げな女の子が描かれたものだ。
どちらかというと男性受けしそうなキャラではあるけど、すぐそこの漫画コーナーに同年代の女子が数人いるあたり、自然なことなんだろう。
「あ、デッキカットどうぞ」
僕は《フラムビースト・ドッグ》をセットし、伊香保さんの前にデッキを置いた。
「別にいい。勝手にして」
確かにフリーだったらしない人もいるし、現に僕も広瀬とやるときはいちいちそんなことしてない。
でも、初対面の相手とやる時くらいはデッキカットするだろう、と僕は思う。
因みにデッキカットとは、デッキをシャッフルしたとき、いかさま防止のために対戦相手がデッキを簡易的にシャッフルすることだ。
実際には理由はほかにあったりするかもしれないけど、僕はそう思っている。
「最初はぐー――」
「いい、あなたが選んで」
「え……、でも……」
「いいから、先攻でも後攻でも好きな方どうぞ」
なんなんだこの娘、やる気があるのかないのか全く分からない。
「それなら、後攻で」
「本当に? 本当に後攻でいい?」
「え、あ、はい」
「それなら先攻は貰うね。スタートフェイズ」
――1ターン目、先攻、伊香保卯月
オープンされた時点でいきなり知らないカードが出てくる。
それは水属性の《ジュエルウィッチ・マリン》というモンスターだ。
「手元から《鉱石魔術・タイダルウェーブコランダム》発動しますね。手元のカード1枚封印して2枚ドロー。封印した《ジュエルウィッチ・ルビィ》の効果でデッキから《ジュエルウィッチ・アンバー》召喚。手札から《ジュエルウィッチ・シスト》召喚して……。マリンを転移元に魔法転移召喚、1ターン目以降、HP100以上のジュエルウィッチモンスター1体で《ジュエルウィッチ・ラル》。で、ラルの効果で次のターン開始時にデッキか墓地からジュエルウィッチ召喚できる。ラルの効果で墓地のマリンを封印して、手札から《鉱石魔術・ボルカニックコランダム》を墓地へ送って、デッキから《ジュエルウィッチ・フィア》手札に加えます。
それで、手元からカード3枚セットしてターン終了」
――1ターン目、伊香保卯月
ライフ2000
手札4枚、手元5枚
墓地2枚、封印2枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラル》1体、《ジュエルウィッチ・アンバー》1体、《ジュエルウィッチ・シスト》1体、セットカード3枚
――篠崎隼人
ライフ2000
手札5枚、手元10枚
墓地0枚、封印0枚
フィールド、《フラムビースト・ドッグ》1体
「僕のターン、ドロー」
向こうカードは見たことのないカードばかりだ。どんな戦い方をするのかも分からない。
一定の展開力はあるようだけど、手元の半分と手札も使って並んだ数は三体……、いや、バック、伏せカードを考慮した場合は三枚使って二体出たことになる。
次のターン開始時に追加一体リクルートも来るところから、展開力は中の上よりもう少し低いくらいか。
また展開力高めのデッキか。いやになる。
「手元から《フラムビースト・スネーク》を召喚。手札からフィールド《フラムビーストの火山地帯》発動。火山地帯の効果、デッキから《フラムビースト・神鳳鳥エルフェニックス》墓地送って《ジュエルウィッチ・アンバー》に90ダメージ」
「その効果に対して、アンバー対象に《鉱石魔術・ハーモニックオーラ》発動。手元の《ジュエルウィッチ・ほたる》を封印して、このターン、この効果の対象となったモンスターは相手のカードの効果を受けない。更に、アンバーがいることでカードを1枚ドローし、封印されているルビィを墓地に戻す」
「え、まじか……。とりあえず、エルフェニックス効果でフラムビーストの攻撃力+80と、次の自分のターン終了時まで相手の魔法の効果を受けない」
「ラルも効果、鉱石魔術魔法が発動したので、このターン相手の魔法、配置、フィールドカードの効果を受けない」
三枚も伏せればそりゃ何かあるか。
出鼻をくじかれた感じがする。
「すみません、効果確認いいですか?」
「どうぞ」
ちゃんと了承を得てから僕は盤面のモンスターへ手を伸ばした。
「え、そっち!?」
「え?」
「いいんだけど、魔法の方かと思ったから」
確かに魔法の方も気になると言えば気になるけど、今の僕としては相手の盤面にリクルーターがいないかどうかの方が気になる。
アンバーが転移先に魔法フィールド効果耐性付与、ラルが起動効果でサーチ、シストが破壊時サーチとハンドのジュエルウィッチとの入れ替え、か。
シスト自身がサーチャー且つ、ハンドからリクルーターが来る可能性があるというのが厄介だ。さっきサーチしていたやつがその可能性がある。
考えてもわからない。とりあえず殴ろう。案ずるより産むがやすし、だ。
「手札から《連撃のフラムビースト》発動。手札のグリフォンと手元のフェニックス墓地送って、対象はドッグ。攻撃力+80と追加攻撃1回。それと、グリフォン効果でデッキから《フラムビースト・レオ》を手元に加えて、フェニックス効果でドッグの攻撃力+150と追加攻撃1回。それからドッグの効果発動。デッキトップ墓地送って攻撃力+50で、墓地送られたエレファント効果発動。スネークとドッグ攻撃力+40。バトルフェイズ。《フラムビースト・ドッグ》で《ジュエルウィッチ・シスト》を攻撃」
「なら、シスト効果でデッキから《ジュエルウィッチ・アンバー》手元に加えます」
「どうぞ。スネークで《ジュエルウィッチ・アンバー》を攻撃。何かありますか?」
「ないよ、どうぞ」
そう言って伊香保さんは《ジュエルウィッチ・アンバー》を墓地へ送る。
「ドッグで《ジュエルウィッチ・ラル》を攻撃」
「はい、どうぞ」
「では、《フラムビースト・ドッグ》でダイレクト」
僕が宣言すると伊香保さんはおもむろに墓地へと手を伸ばした。
「墓地の《鉱石魔術・タイダルウェーブコランダム》効果発動。このカードと墓地のルビィを封印してデッキから《ジュエルウィッチ・フィア》を手札に加え、ルビィの効果でデッキからマリンを召喚。何かありますか?」
手のひらを見せ問いかけてくる。
「……、効果確認いいですか?」
「どうぞ」
《鉱石魔術・タイダルウェーブコランダム》。その効果欄の一番上にあるのはややこしい効果外テキスト、次が手札コストのドロー効果、最後が墓地効果だ。
墓地に存在するこのカードと魔法使い族モンスター1体を封印して発動出来る。デッキからHP150以下のジュエルウィッチモンスター1体を手札に加える。この効果は相手ターンでも発動出来る。
一番下にしれっと書かれた相手のターンでも発動出来るという記述。
実質毎ターン墓地コストで二枚のサーチか。
自身の封印をトリガーにリクルートを行っているのはルビィの方だ。
ルビィはさっき、《フラムビーストの火山地帯》に対して発動されたこのカード、《鉱石魔術・ハーモニックオーラ》の効果で地味に墓地へ戻されていた。
効果耐性の方に気が向いて、戻されていたことを流してしまっていた。
いや、そうじゃない。伊香保さんがさっき僕が効果確認した時に驚いたのは、伊香保さん自身は墓地の方を気にかけていたからだ。それなのに墓地の確認を怠った僕の問題だ。
「ありがとうございます。では、《フラムビースト・ドッグ》で《ジュエルウィッチ・マリン》攻撃します」
「はい、それじゃあマリンの効果で封印されている《鉱石魔術・タイダルウェーブコランダム》を墓地に戻します」
そもそも《ジュエルウィッチ・シスト》の時点で気付くべきだった。僕の読みがずれていることを。
後々、というか今にも響いてきそうだな、これは。
「ターンエンド」
――2ターン目、後攻、篠崎隼人
ライフ2000
手札3枚、手元9枚
墓地5枚、封印0枚
フィールド、《フラムビースト・ドッグ》1体、《フラムビースト・スネーク》1体、フィールドカード《フラムビーストの火山地帯》
――伊香保卯月
ライフ2000
手札6枚、手元5枚
墓地7枚、封印3枚
フィールド、セットカード2枚