襲撃――2
前書きカード紹介第四弾。今回は篠崎隼人対西村弥生戦の時、弥生のデッキに入っていたカードです。登場はしませんでした。
マーメイド・マリンシーラ
水属性水族HP670の魔法転移モンスターです。
魔法転移召喚の条件は6ターン目以降に転移元に水属性のHP220以上のモンスター1体です。
魔法転移召喚に成功した場合、デッキの水属性モンスターをコストに、マーメイドモンスター1体をリクルートする効果です。
デッキのカードをコストにするのは、よくあることですね。
起動効果は一ターンに一度、墓地の水族か魚族モンスターをコストに、HP300以下のマーメイドモンスターのサーチです。
HP制約はありますが、300以下なので先に紹介したマーメイド・マリンテルス、マリンラブカ共にサーチ出来ます。
墓地での起動効果はこのカードをコストに、HP130以下のマーメイドモンスターをリクルートする効果です。
除去効果はないですが、全体的にサーチと展開を能動的に行えるので利便性は高いと思います。
「私のターン、ドロー。疋田昌司、あなたが言ったことは間違い。私はこんなところで負けてなんかいられない」
「何が違うか言ってみろよ、さあ、ほら」
「言わなくてもいいと思うよ、どうせすぐ知ることになるから。フィアの効果発動、ライフを200払って墓地のマリンを手元に加える」
――伊香保卯月
ライフ1600
「そしてマリンを召喚して手元から《鉱石魔術・アクアシフト》発動。手札のカード1枚を封印してこのターン終了時までジュエルウィッチモンスターの魔法転移召喚可能回数を1回増やし、カードを1枚ドロー。アンバーを転移元に魔法転移召喚、1ターン目以降、HP100以上のジュエルウィッチモンスター1体。《ジュエルウィッチ・ラル》」
アンバーを包み込んだ光の中から現れたのは、指揮棒のような緑色の杖を手にし、緑の縁取りがされた黒いローブを羽織った凛とした雰囲気の少女。
「手札からカードを1枚封印して《鉱石魔術・エンドオブオナー》を発動。封印されているルビィ2体とフィアをデッキに戻す。ラルがいることによってカードを1枚ドローし、封印されているアレキサンドを墓地に戻す。ラルを転移元に、5ターン目以降、HP170以上のジュエルウィッチモンスター1体。魔法転移召喚っ、《ジュエルウィッチ・クアロシリカ》」
ラルの代わりに現れた少女は、凛とした雰囲気の彼女とは違って、服はだらしなく崩れ、眠たげな眼で欠伸までしている。左手でかめのぬいぐるみを大事そうに抱え、右手に持った杖は蒼や碧の他に橙や黒色が混ざり合っていて調和など存在しないが、汚いとは全く思わせない。
「クアロシリカが魔法転移召喚に成功したことによって、封印されているシストを手元に加える。手札から魔法《鉱石魔術・エレメンタルハート》発動。手札のカード1枚封印して、墓地に存在する《ジュエルウィッチ・ラピス》、《ジュエルウィッチ・アンバー》を手札に加える。さらに、クアロシリカが存在することによって、1枚ドローし、手札からアンバーを召喚。鉱石魔術魔法が発動したことでクアロシリカの効果発動。《爆走ランナーズサーキット》を墓地へ送る」
クアロシリカがけだるげに杖を振ると、その先から七色のふわふわした淡い光が撒かれる。
光を撒き終えたクアロシリカが杖で虚空を突くと、水色の輪が現れて広がっていく。その輪は、道路も観客も建物も、一切を消し去って本来の姿へ変えた。
「カードを1枚セットし、行くよ、バトルフェイズ」
「バトルフェイズに入ったところで、お前のモンスターじゃエクシードマキシマムを戦闘破壊することも出来ねえよ」
「ふっ……、アンバー、《爆走ランナー・オーバーテイクセカンド》を攻撃。マリン、フィア、《爆走ランナー・ファンタスティックアンカー》を攻撃」
大地を引き裂く亀裂と立ちはだかるものを押し流す水流がオーバーテイクセカンドとファンタスティックアンカーを飲み込む。
「クアロシリカ、《爆走ランナー・マキシマム》を攻撃。リコンストラクト・ジェム」
クアロシリカは思い切りかめのぬいぐるみを抱きしめ、杖を勢いよく水平に振るうとマキシマムの四方に蒼、碧、水、黒の柱が現れた。
「マキシマムが攻撃対象に選択された場合に発動出来る。墓地のこのカードを召喚し、その攻撃を無効にする。出て来い、《爆走ランナー・ラッシュ》」
柱すべてにひびが入り砕け散ると、マキシマムの背後から桃色のユニフォームに星型のサングラスをかけた男が飛び出てくる。
「やらせねえよ」
「そう? ターン終了」
「ちっ……」
――7ターン目、伊香保卯月
手札5枚、手元3枚
墓地8枚、封印13枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・クアロシリカ》1体、《ジュエルウィッチ・フィア》1体、《ジュエルウィッチ・マリン》1体、《ジュエルウィッチ・アンバー》1体、セットカード3枚
――疋田昌司
手札3枚、手元4枚
墓地14枚、封印8枚
フィールド、《爆走ランナー・エクシードマキシマム》1体、《爆走ランナー・マキシマム》1体、《爆走ランナー・ラッシュ》1体
「俺のターン、ドロー。負け認めてくんねぇかなあ」
「生憎と、負けるつもりは全くないからね」
「苛つくな。墓地のミラクルサードを封印し、ドローする。魔法カード、《爆走ランナーズコントラクト》発動。300ライフ払い、デッキからミラクルサードを召喚」
――疋田昌司
ライフ1400
「ミラクルサードと手元のカード1枚を墓地へ送り、1枚ドロー。手元からインストラクターを召喚」
タオルを持ったジャージ姿の男も当然他の爆走ランナーモンスター同様に体格は良いが、エクシードマキシマムと比べれば一体何を指導するのかわからなくなる。
「インストラクターの効果、マキシマムを手札に戻し、墓地からファンタスティックアンカーを召喚」
マキシマムが光となって消えると、その場所へ格好つけたポーズでファンタスティックアンカーが現れる。
「インストラクターの二つ目の効果、このカードを墓地へ送り、デッキからファンタスティックアンカーを手札に加える。手札を1枚捨て、ファンタスティックアンカーを召喚」
2体並んだファンタスティックアンカーは、格好つけたポーズを謎の連携で次々と披露していく。
「ファンタスティックアンカーを手札に戻し、デッキからエキセントリックファースト召喚。エキセントリックファースト効果発動。このカードと手元のカード1枚を墓地へ送り、デッキからマキシマムを召喚」
ポーズを決める相手は誰でもいいかのように新たに表れた倍近い体格のマキシマムとも披露する。
「墓地のエキセントリックファーストを封印し、墓地からマキシマムを召喚」
《爆走ランナー・マキシマム》には効果はなく、いわゆるバニラモンスターだ。
ただその代わりに、HPが多く攻撃力が高い。
負けるつもりはなくても卯月は自分が劣勢だという事はわかっている。その証拠と言うように彼女のこめかみを一滴の汗が伝う。
ただ、それは盤面のみを見た場合の話だ。
もともと高いドロー、サーチ性能を用いたコントロール系デッキのジュエルウィッチを使う卯月はデッキ枚数を多くしていてまだ少しデッキに余裕はあるが、昌司のデッキは殆ど残っていない。
「手札からスピードスターターを召喚し、手元から魔法カード《爆走ランナーズハイ》発動。手札のモンスターを墓地へ送り、デッキからインストラクターを召喚」
昌司は唇を噛んだ。
「最終警告だ。負けを認めねえならこのまま攻め落としてやるよ。どうする? 負けを認めて生きるか、このまま俺に殺されるか」
「何回言えばわかるのかなぁ。だから、負けるつもりはないって」
「そうかよ、バトルフェイズっ。行けっ、エクシードマキシマム。《ジュエルウィッチ・クアロシリカ》を攻撃っ、ランナーズマキシマムチャージ」
両肩を回すように動かしてからエクシードマキシマムはクアロシリカめがけて走り出す。
「この瞬間手札を1枚封印して魔法カード、《鉱石魔術・ハーモニックオーラ》を発動」
「だあから、魔法は効かねえんだよっ」
「ハーモニックオーラの効果は、このターンの終了時まで対象となったモンスターは相手のカードの効果を受けない、私はクアロシリカを対象に選択し、アンバーの存在によってカードを1枚ドロー、封印されているほたるをデッキに戻す」
「効果耐性なんか役に立たねえよ。エクシードマキシマム、やれぇっ」
昌司に呼応し、エクシードマキシマムは低く響く唸り声をあげる。
「そう、効果耐性は役に立たない。でも、クアロシリカ効果発動。手札と手元から《ジュエルウィッチ・シスト》と《鉱石魔術・パープルアウト》を墓地へ送り、エクシードマキシマムを破壊」
クアロシリカが虚空を突くと、今度は碧色の輪が広がっていき、エクシードマキシマムを捕らえる。
捕らえられたエクシードマキシマムの顔は徐々に苦痛に歪んでいき、止めと言うようにクアロシリカは杖を振った。
エクシードマキシマムの腹部が膨れ上がり、限界に達したところで破裂し、消滅する。
卯月にとっては目に見えてわかる脅威が消え、昌司にとっては勝利の鍵が一つ減った。
「だが、だがまだだっ、マキシマム、クアロシリカを攻撃だっ。墓地に存在する《爆走ランナーズハイ》効果発動。このカードとインストラクターを封印し、マキシマムの攻撃力を+250するっ。消し飛べ、メスガキがあっ」
自らの死を悟ったかのようにクアロシリカはかめのぬいぐるみを抱きしめて迫りくるマキシマムの巨体を見つめていた。
距離をつめたマキシマムは跳躍しクアロシリカの頭を掴むと、地面に思い切りたたきつけて砕いた。
「ラッシュ、スピードスターターで《ジュエルウィッチ・フィア》を攻撃」
「墓地のボルカニックコランダム効果発動。このカードと《ジュエルウィッチ・ラル》を封印し、《爆走ランナー・ラッシュ》に80ダメージを与える」
フィアに足止めされたラッシュは赤い炎に身を焼かれて消滅する。
「ちっ……。ラッシュは自身の効果によって封印される。仕方ねえ、ファンタスティックアンカー、《ジュエルウィッチ・フィア》を攻撃っ」
ボルカニックコランダムで一度は耐えたフィアも、ファンタスティックアンカーの蹴撃に晒され消滅した。
「マキシマム、《ジュエルウィッチ・マリン》を攻撃、インストラクター、《ジュエルウィッチ・アンバー》を攻撃」
アンバーは岩石の壁を作り耐え凌いだが、マリンは腕を折られた上に頭を潰され消滅した。
「《ジュエルウィッチ・マリン》効果発動。……。封印されているボルカニックコランダムを墓地に戻す」
「ターンエンド」
――8ターン目、疋田昌司
手札4枚、手元1枚
墓地15枚、封印13枚
フィールド、《爆走ランナー・マキシマム》2体、《爆走ランナー・ファンタスティックアンカー》1体、《爆走ランナー・スピードスターター》1体、《爆走ランナーズインストラクター》1体
――伊香保卯月
手札4枚、手元2枚
墓地12枚、封印15枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・アンバー》、セットカード2枚
卯月はうすうす気づいていた。もう、相手のデッキにも手札にもモンスターはいない、と。
「私のターン、ドロー。墓地のエレメンタルハートの効果、このカードとクアロシリカを封印し、デッキから《鉱石魔術・スターリーラズリ》を手札に加える。それと、エンドオブオナーの効果も発動。フィアとエンドオブオナーを封印してデッキから《鉱石魔術・フローライトゴースト》を手札に加える。そして、封印されたフィアの効果でクアロシリカを手札に戻す。魔法転移召喚、1ターン目以降、HP70以上のジュエルウィッチモンスター1体。《ジュエルウィッチ・ほたる》」
光の中から現れたほたるはやはり、本を抱きしめていて、よくみると顔にはうっすらくまが浮かんでいる。
「《鉱石魔術・フローライトゴースト》、手元のカード1枚を封印して、墓地から《ジュエルウィッチ・マリン》を召喚」
ほたるが持っている本を開くと、オーロラのような光が中から漏れ出した。
書かれている文字をほたるが指でなぞると赤や緑に輝きだし、四行ほどなぞると空へ向けて手を伸ばす。
すると、ほたるの隣に光が集まり、人の形を成していき、そこに《ジュエルウィッチ・マリン》が現れる。
「ほたるがいることによって1枚ドロー。手元にある最後の1枚、《鉱石魔術・アクアシフト》を発動する。手札のカード1枚を封印して魔法転移召喚回数を1回増やして、ドロー。そして……。そして、もう一度来て、魔法転移召喚。ほたるを転移元に5ターン目以降、HP170以上の魔法使い族モンスター1体。《ジュエルウィッチ・ラピス》っ」
群青色の光の柱に黄金色のホロスコープ、そこから現れるのは夜空の羽衣を纏った愛らしい天女。
ラピスはそっと振り向くと、卯月に向かって微笑みかけた。
「ラピスの効果発動、封印されているエレメンタルハートを手札に戻す。手札からスターリーラズリ発動、手札を1枚封印して《爆走ランナー・マキシマム》を破壊」
おうし座から放たれた光線は、容赦なくマキシマムを襲って爆砕する。
「さらにラピスの効果で、デッキからスターボウレインを手札に加え、カードを3枚セット。バトルフェイズ。マリンで《爆走ランナー・スピードスターター》を攻撃」
螺旋を描く蛇のような水流にスピードスターターは押し流されてフィールドの壁に衝突し、消滅した。
「ラピス、行くよっ。《ジュエルウィッチ・ラピス》で《爆走ランナー・ファンタスティックアンカー》を攻撃っ、スターリースカイ・ピュリフィケイションっ」
ラピスの祈りによって現れたおとめ座は、躱してやるとでも言っているようにステップを繰り返すファンタスティックアンカーめがけて薙ぎ払うように光線を放つ。
「私はこれで、ターン終了」
――9ターン目、伊香保卯月
手札3枚、手元0枚
墓地13枚、封印19枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラピス》1体、《ジュエルウィッチ・マリン》1体、セットカード5枚
――疋田昌司
手札4枚、手元1枚
墓地18枚、封印13枚
フィールド、《爆走ランナー・マキシマム》1体、《爆走ランナーズインストラクター》1体
「俺のターンっ、ドロー。……。墓地のエキセントリックファーストを封印、墓地からマキシマムを召喚、バトルだっ。マキシマムで《ジュエルウィッチ・ラピス》を攻撃っ、この時、《爆走ランナーズハイ》効果発動っ。このカードとミニファストを封印し、攻撃力を+250っ」
威圧するように雄たけびをあげながらマキシマムはラピスに接近する。
「この瞬間、セットされたスターリーラズリ発動っ、手札のカード1枚封印し、マキシマムを破壊っ」
一直線に突き進んでくるマキシマムをおうし座は真正面に立ちふさがり、吹き飛ばす。
「ラピスがいることでカードを1枚ドローし、ラピスの効果発動っ。封印されているハーモニックオーラをデッキに戻す」
「まぁだだっ、2体目のマキシマムで《ジュエルウィッチ・ラピス》を攻撃っ。ぶっ潰せ、《爆走ランナーズハイ》効果っ、このカードとオーバーテイクセカンドを封印し攻撃力を+250っ」
自らを奮い立たせるように叫ぶとふんっ、と力強い鼻息をして地を蹴り駆け出した。
「魔法カード、《鉱石魔術・スターボウレイン》、光属性ジュエルウィッチモンスターが存在しないことで、手札を1枚捨て、フィールドのマリンを出来に戻して発動する。《爆走ランナー・マキシマム》を手札に戻す」
しかしそれでもラピスに届く前に光となって消えていく。
「……っ。インストラクター、《ジュエルウィッチ・ラピス》を攻撃」
残されたインストラクターの攻撃も、描かれたオリオン座に阻まれてラピスのHP削るだけにとどまった。
――《ジュエルウィッチ・ラピス》
HP360
「ターン……、エンド」
――10ターン目、疋田昌司
手札6枚、手元1枚
墓地13枚、封印18枚
フィールド、《爆走ランナーズインストラクター》
――伊香保卯月
手札1枚、手元0枚
墓地16枚、封印20枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラピス》1体、セットカード3枚
「私のターン、ドロー。墓地のスターリーラズリとアンバーを封印して、デッキからエンドオブオナーを手札に加える。手札から《ジュエルウィッチ・ルビィ》召喚。ルビィの効果でライフを100払って《爆走ランナーズインストラクター》に70ダメージを与える」
――伊香保卯月
ライフ1500
ルビィが引き金を引くとインストラクターの身体が燃えだした。
「バトルフェイズ、ルビィで《爆走ランナーズインストラクター》を攻撃」
ルビィが頭を撃ち抜くと、インストラクターは動きをやめて倒れ伏す。それと同時に炎は消え、消滅する。
「ラピス、疋田昌司にダイレクトアタックっ、スターリースカイ・ピュリフィケイションっ」
自分を狙うおとめ座を見て昌司の顔は引き攣っていた。
「痛いのは嫌だっ、やめろ……、やめろっ」
「それにしても無様だなって言ってたのは誰だっけ? ねえ?」
やめろと叫ぶ昌司へ光線が放たれる。
昌司を守るために展開されたバリアが光線を防ぐ。
――疋田昌司
ライフ1070
「お前、ぶっ殺す、ぶっ殺すっ」
「そう? ならさ、やれるものならやってみて。ターン終了」
――11ターン目、伊香保卯月
手札2枚、手元0枚
墓地16枚、封印20枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラピス》1体、《ジュエルウィッチ・ルビィ》1体、セットカード3枚
――疋田昌司
手札6枚、手元1枚
墓地14枚、封印18枚
フィールド、なし
「俺のターン、《爆走ランナー・マキシマム》召喚してドロー。墓地のエキセントリックファースト効果、エキセントリックファースト封印し、マキシマムを召喚っ」
ランナーには見えない巨漢が2体並ぶが、《爆走ランナーズハイ》も使い切ったこの状況を返せるカードは昌司の手札にも手元にも、墓地にも存在しない。
「バトルだっ、行けっ、マキシマム。《ジュエルウィッチ・ルビィ》を攻撃っ」
「魔法カード《鉱石魔術・スターリーラズリ》、手札1枚を封印して《爆走ランナー・マキシマム》を破壊し、カードを1枚ドロー。さらにラピスの効果で封印されているスターリーラズリをデッキに戻す」
「だがっ、マキシマムはもう一体いるっ、《ジュエルウィッチ・ルビィ》を潰せ、マキシマムっ」
同胞の成し得なかった事を成す、それを体現するようにルビィの頭と胴体を掴むと、首をへし折り、引きちぎった。
「あぁっはっはっはっは、あっはっは、ターンエンド、ターンエンドっ」
――12ターン目、疋田昌司
手札5枚、手元1枚
墓地14枚、封印19枚
フィールド、《爆走ランナー・マキシマム》1体
――伊香保卯月
手札1枚、手元0枚
墓地18枚、封印20枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラピス》、セットカード2枚
「……私のターン、ドロー。墓地の《鉱石魔術・スターボウレイン》と《ジュエルウィッチ・シスト》を封印、デッキから《鉱石魔術・スターリーラズリ》を手札に加える。魔法カード《鉱石魔術・スターリーラズリ》、手札1枚を封印してマキシマムを破壊し、1枚ドロー。ラピスと封印されたフィアの効果発動。デッキからハーモニックオーラ、封印からクアロシリカを手札に加える。効果処理が終わり、効果によって相手フィールド上のモンスターをゼロにした場合のルールによって私のターンは終了」
――13ターン目、伊香保卯月
手札4枚、手元0枚
墓地17枚、封印22枚
フィールド、《ジュエルウィッチ・ラピス》1体、セットカード2枚
――疋田昌司
手札5枚、手元1枚
墓地15枚、封印19枚
フィールド、なし
「死にたくない……」
「ううん。疋田昌司、あなたは死ぬの。私はあなたを殺しに来たのだから。私はターン終了。さあ、あなたのターン、どうぞ」
「謝る、謝るから、俺が悪かった……。すまない、この通りだ。許してくれ」
昌司はカードを手にしたまま地に手をつき、許してくれと懇願する。
「はあ……。高笑いしだしたり謝り出したり、忙しい人ですね。それを言うのはここでじゃないし、私だけにじゃないし、そもそも、最初から何もしなければよかっただけの事」
卯月はフードを被り直し、冷淡に言い放つ。
「ラピス」
背の低い少女へ目を向けると、優しく名前を呼んだ。
名前を呼ばれた幼い天女は自らのマスターと視線を交わす。
「疋田昌司、あなたを守るバリアはもうない。どうしよう、ね」
「やめろ……、やめてくれ……。悪かったって、だから、だからっ……」
「ラピス、おかしいね。あいつ、最初の威勢はどうしたんだろうね」
ラピスは右手を口元に当て、小さく笑う。
「分かった、わかった……。お、俺のターン。この通りだ、召喚可能なモンスターはない、俺の負けだ。許してくれ」
――14ターン目、疋田昌司
ライフ1070
召喚可能なモンスター、なし
「うん、知ってる。そうなると、ラピスの攻撃生身で受けることになるよね、どうしよう」
「助けてくれよ、まだ死にたくないんだっ。そうだ、金、金払うから。十万でも二十万でも、五十万でもっ」
「いらないよそんなもの……。あなたの安い命より、さっきラピスにしたこと覚えてる? ねえ、ラピスにしたこと覚えてる?」
卯月は右手が震えるくらい力を込めて握りしめながら問う。
破壊されたから怒っているわけではない。それくらいで怒る程子供ではない。
「ううん、やっぱりいい。これ以上話している必要もないし」
「やめろ……、やめてくれ……」
「やめない。死んでね」
瞳を閉じ、卯月は大きく息をする。
「ラピス、あの男を殺せ……。スターリースカイ・ピュリフィケイション」
ラピスは手を合わせて空へ祈ると昌司の真上におとめ座が現れる。
隠れる場所はどこにもなく、身を守るバリアも既にない。
「ははっ……、ははっ……」
引き攣った顔で笑う昌司へ、スピカのように青白い光線が降り注ぐ。
「ラピス、お疲れさま」
振り返ったラピスは光となって消えゆきながらも純粋で無邪気な笑みを浮かべていた。
バトルフィールドは七色の光を放って消滅し、卯月は元の夜道へ帰ってくる。
目の前に転がる傷だらけの死体を一瞬だけ確認した卯月は、ポケットから携帯端末を取り出した。
そのまま通話アプリを起動し、通話をかける。
「もしもし、悠里君、悠里君」
「どうしたんだい? 卯月」
「疋田昌司は片付けた。そこに転がってるのが影武者でもゾンビでもないなら、だけど」
横目で見ながら冗談交じりに告げる。
「そうか。ごめんね、手間取らせちゃって。さっきも……、いや、なんでもない」
「ん?」
「いや、気を付けて帰っておいで。それじゃ」
通話は一方的に切られ、向こうの声も音も聞こえなくなった携帯を仕舞い、代わりにデッキホルダーから一枚のカードを取り出した。
その一枚とは、流れ星の降る夕刻の草原が背景に、金のショートヘアに星空の衣を纏った少女のカード、《ジュエルウィッチ・ラピス》。
「ラピス、お疲れさま」
労いの言葉をかけたところで返事は当然返ってこない。
誰かに見られれば頭のおかしい人と思われるかもしれないけれど、みられていない自信があるのか、フェイバリットカードだからか卯月には一切躊躇いは見られなかった。
優しくデッキホルダーに戻すと、夜闇に包まれた道を歩き始めた。