もう一つの日常――2
その女の子は放課後に広瀬とカードショップに訪れた帰りに初めて見かけた。
彼女は出入り口から少し離れたところでぼーっと立っていて、最初は知り合いを待っているんだろうって、カードショップと言っても半分はレンタルショップなのでそっちのお客さんだろうと。
僕は深く考えなかった。
ショップを出てから一人で歩いていると、一人のはずなのになんだか人の気配がする。
広瀬か細峰あたりのいたずらか、それとも全く関係なく人が歩いているだけか。気にしないでおこうと思っている分だけ気になって、振り返ってみると、真っ暗な夜道にさっきの女の子がいた。
まさか、気のせい、偶然。そういうことにして一人で歩き続ける。僕は今駅に向かっている。だったらあの人も駅に向かっている。おかしいことはなにもない。同じ場所から同じ場所へ向かうんだから大体同じ場所を通るだろう。
しばらく気にしないで歩き続けてから、何となく後ろを確認すると彼女との距離が縮まっていた。よく見ると左手に妙なものをつけているようだ。
向こうも時間に合わせて急いでいるんだ。きっとそうだ。そうに違いない。
ホームは明るくて薄暗い。虫が飛んでいる。
彼女もやはりホームへ入ってきた。
僕は知らない女の子に声をかけられるほど勇気も度胸もあるわけじゃないしコミュ力もない。せいぜいMCGの相手が出来るくらいだ。
女の子が一歩、また一歩と僕に近づいてくる。
気にしない。僕は気にしない。
僕の手がぎりぎり届かないところまで近づいてくると、それ以上は近づいてこなくなったし、話しかけても来ない。やっぱり偶然だったみたいだ。
アナウンスがもうすぐ電車が来ると知らせる。
「篠崎隼人?」
女の子の声が、間違いなく僕の名前を呼んだ。
彼女の事を見ると、ただ無表情に僕の事を見ていてなんだか怖くなる。
僕が何か恨まれるようなことしたか?
「僕は貴女の事知らないんですが」
ブレーキ音が響く中彼女は何も言わず、じっと僕の事を見てくる。
電車の中まではついてこなくて、それはよかった。
学校でそのことを広瀬に話すとまあ、冗談を疑われた。
昼休みに同じことを細峰に話すと、信じてくれたかは別として、どんな子だったかは聞かれた。
どんなやつだったか聞かれたから答えたのに、細峰のやつは「そんなことより放課後またカードショップ行こ」としっかり無視してきた。
それから放課後になって、四人でいつものカードショップへ向かう道中、またあの子を見た気がした。もしかすると昨日もこうして見られていたのかもしれない。
「篠崎、なんか見つけたんか?」
「んー、まあ。昨日の」
「誰もいなくね? 気にしすぎなんじゃね?」
確かに気にし過ぎなのかもしれない。
それと、広瀬が信じてくれているのか信じてないのかわからん。
「ごめん、学校に忘れ物したからちょっと取りに戻るね。先やってて」
細峰は細峰でカードショップに着いた途端にそんなことを言って学校の方へ戻っていった。因みに、今日誘ってきたのはあいつの方だ。
まあ、忘れ物は仕方ないか。忘れたから忘れものなんだから。
細峰が戻ってくるまで待つなんてことはなく、僕らは先に入って座席につく。先やってていいって言われてるし別にいいだろう。
「皐月」
細峰皐月は少女、水無月かえでと会っていた。
そこはカードショップの裏手を通る道路で、車通りも多くなく人目も少ない。
道路とは三方向接しているが、主要道路以外の二つは道幅が広いとは言えず、特に裏手にある方は雰囲気だけで交通量が少ないとわかる。
「かえで、なにしに来たん?」
無表情のまま見つめ合う。
「皐月、篠崎隼人に構うのはいい……、けど、ゆーり、が困ってるから」
「私が篠崎君となにしてても悠里君には、ましてかえでには関係なくない? やることやってるし」
「皐月、弥生のこと巻き込んでる」
「あー、そっかー。それはちょっと私が悪いかも?」
自分が悪いといいつつもその態度はどこか挑発的だ。
「ゆーり、困らせるなら、篠崎隼人、かえでが殺す」
「悠里君に褒めてもらいたくて必死ねえ。その鞄に入ってるんでしょ? B.S.D.」
「皐月……」
睨むかえでと煽る皐月と。
「あ、怒っちゃった? でも、どうせ殺せないでしょ、篠崎君の事。だって昨日、B.S.D.つけて会いに行ったのに今日まだ生きてるもんね。悠里君まだ様子見してて殺さないって言ってるんじゃないの?」
かえでは目を背けて何も言わない。
「やっぱそうなんだ」
皐月はにやりと笑うとかえでの耳元で囁く。「悠里君に、怒られても知らないよ?」と。
拳を握りしめ唇を噛むと、かえではその小さな肩を震わせる。
「わかった。今日は帰る」
「その方がいいんじゃないかなー」
「皐月の意地悪。嫌い」
言い残すと皐月に背を向けて歩きだす。
「ごめんって」
「次……、やっぱり、なんでも、ない」
「おっ待たせー」
「早かったな、細峰」
まだ広瀬とゆっくり一戦目はじめたばかりなのに、学校へ忘れ物を取りに戻った筈の細峰が戻ってきた。
「忘れ物はどうしたよ」
「んー? してないよ? ちょっと知り合い見かけたから話してきた」
交友関係がお広いことで。
「やったら細峰さん、最初からそー言えばよかったんじゃね?」
「細かいことは気にしない気にしない」
「どんな人?」
広瀬の展開を見ながら何も考えず聞いてみた。
「えー、そだねー。たぶんだけど昨日篠崎君が見たとか言ってた娘かな」
「あいつもお前の知り合いか」
「多分ねー。私が篠崎君の話するから気になったんじゃない?」
「へえ。……ってかお前の妄想じゃなかったんやな」
にやにやしながら明らかに煽ってくるように言ってくる。
「は。クソ野郎が。お前は自分のターン続けろ」
「はいはい続けますよーだ」
サーチを繰り返し、既に立っている《天空騎士団長ランギット》に装備カードをつけていく。
「細峰さん細峰さん、その人ってMCGやってないんか?」
「やってるよばっちりやってるよ。やってるけど誘ったとしても来るかどうかわっかんない」
会話の合間にランギットが攻撃してくる。
装備カードとランギット自身の効果によって、瞬間火力自体はそこまで低くない。
「時間合わないとか?」
「というより、変わった娘だから?」
「細峰以上にか?」
今この瞬間、ぱっと思い浮かんだ言葉でいじってやる。
「ちょっとひどくないですかー。篠崎君? 手札ばらすよ?」
「お前の方がよっぽどひどいじゃねえか」
それからしばらく外野を無視して広瀬との一戦を終わらせる。今回もまた僕の勝ちだ。
いまのところ広瀬の【天空騎士】相手には結構高めの勝率を誇ってはいる。
「そういや細峰、僕、お前とやったことなくない?」
「そーだねー」
「やるか?」
「君とやるためのデッキ用意してないしいいや」
つまり、自分の植物パーミなら僕に負けることはないからやる意味はないと。この女、盛大に煽りよる。
「僕に負けるのが怖いか?」
向こうがその気なら僕の方からも煽ってやる。
「面倒だからそれでいーかなー。……でも、卯月もジュエルウィッチ使ってたし……。まあ、そのうちだね」
僕にはその意味がいまいちわからない。
広瀬とは普通にやっている。だったら僕とやるのも殆どおんなじようなものだろ。
自分から誘ったくせして最後まで僕とやらずに終わった。
かえでは一人、マンションのドアを開く。
「ただいま」
リビングの明かりはついているのに声は帰ってこない。
「……ゆーり?」
明かりがついているだけでリビングには誰もいなかった。
背負っていた鞄を床に置くと、大人しくビーズクッションの上でうずくまる。
心細いとかそう言うわけではない。彼女もそこまで子供ではない。
しかしそれでも時間が経つにつれ、最初こそ平気だった一人の空間が、わずかな音さえ響く静寂の中にあるうちにだんだんと、わずかな心細さを芽生えさせていた。
やがてが部屋の外が男性達の声で賑やかになってがちゃんとドアが開かれる。
ビーズクッションの上で座り直し、戻ってきた人を静かに待つ。
「たっだいまー。お、かえでじゃん。おかえり」
最初に入ってきたのは睦月だ。
「かえで、帰ってきてたのか」
「ゆーりっ」
「かえでお前、飼い主待ってる犬みたいだな!」
睦月はかえでの事をそう言って茶化し、笑う。
「それはそうと、かえで。昨日今日と会ってきたのか」
「ゆーり、怒ってる?」
「いや、別に。怒ってない」
椅子に座ってくつろぎながらかえでの事を横目に見て答えた。
「悠里お前、それ怒ってるやつの言うことだろ」
今度は悠里の事を茶化しだす睦月。
「ゆーり、怒ってる?」
「だから怒ってないって。それとも、なにかやらかしたのか?」
「なにも、なにもやって……、ない」
もう話が終わったと思った悠里は買ってきたお菓子を菓子受けに移しながら睦月との雑談を再開する。
かえでは唾を飲み込み悠里の名前を呼んだ。
「ん、なに?」
「殺していい? 篠崎隼人」
九回目のカード紹介。前書きは邪魔かと思ったので後書きに。
フラムビースト・ケルベロス
炎属性獣族の魔法転移モンスターです。
5ターン目以降にHP100以上のフラムビーストを転移元に魔法転移召喚できます。
効果の一つ目は、魔法転移召喚に成功した場合にデッキトップを三枚まで墓地へ送って攻撃力を加算する誘発効果。簡単に墓地が肥やせるカード。
二つ目が三回攻撃。何も考えなくても単純に攻撃力三倍みたいなものですね。
三つ目が手札または手元のカードをコストに攻撃力をあげる起動効果。フラムビーストはフラムビーストの効果で墓地へ送られた場合に効果があるのでそっちの効果を起動するの感じでしょうか。
四つ目がフラムビーストの効果で墓地へ送られた場合に自分フィールド上に存在するフラムビースト三体までの攻撃力をあげる誘発効果です。上昇値も高いので有用かもしれない。




