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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
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11-9,奴隷が正義を語る姿は滑稽で



 私はタオルを受け取り私は続きを待った。彼は何かを考えるように首を動かしながら数回唸ってようやくこちらに視線を上げた。


「全てを語ることは出来ない。それを許してくれ」


「曖昧でも、嘘でも、アルマ様が語ってくださることが私の全てです。それ以上を望んだりはいたしません」


 他人をぶっ殺す覚悟があるんだから勢いよく全ての情報を正しくぶちまけていただけると嬉しいですが。有益な情報に関しては声を大きくして身振り手振りまで加えていただきたい。


「俺はここから遠く離れた小さな国の小さな村で妹と2人で暮らしていた。なんで親がいないのかは俺達に尋ねられた大人の数だけ答えがあった。流行り病で死んだとか俺達を預けて出稼ぎに行ったまま帰って来ないとか。妹はずっと両親共に優秀だったゆえにその技術を求め先進国の王族に連れていかれたと信じていた。子どもは宝だと村長や牧師様が寄付を募って俺達二人を学校に通わせてくれて、早朝と休日は煙突掃除の仕事がもらえた。当然裕福ではないし楽は出来ないけれど、生活には困らずに二人で暮らしていけた」


 彼はまるで大人の立ち話が終わるのを待つ子どものように指で砂遊びを始めた。風の吹かない静かな池に小石を投じるように、砂の上に広がる波紋を描いていく。そう言えば彼は芸術家だった。


「周りの人間がどれだけ良くしてくれても俺と妹には信頼できる他人は誰もいなくて、互いだけが唯一無二だった。俺はあいつがいてくれるなら他には何もいらなかった。あいつが喜んだのならばそれは世界を包み込む世界中に広がる自然の摂理と同じだった。あいつが悲しんで涙を流しているのなら人間の常識とおなじだった。俺の世界のすべてが妹の中にあったんだよ」


 砂の上で泳いでいた彼の指が止まった。ゆっくりと指を開くと、まるで誰かと指を絡ませて手を繋ぐかのように砂を包み込み全ての指を閉じる。たくさんあった小さな波紋は全て乱れてつぶれ彼の手を目指して道を作る。指の隙間から細かい砂が零れている。


 私はそのかき消された波紋を見て、そして彼の表情を見て、何となくわかってしまった。


 彼はしばらく黙っていたがそれまで話していた声よりも大きくこう言った。


「でも死んじまった。呑気に俺が朝目を覚ましたら、隣で寝ていた妹はすっかり冷たくなっていて苦しかったのか体を丸めたままもう動かなかった。最後に聞いた言葉はおやすみの後の、」


 涙が手の甲に落ちるのと同時に、彼は握っていた砂を解放した。芸術でも何でもないただの砂山がそこには残った。


 私はもっとその妹のことが知りたかった。性格とか髪の長さとか笑い方とか、距離感に口癖、アルマを何と呼んでいたのか。好きなもの、嫌いなもの、興味のないもの、許せないもの。彼だけに見せる表情。


 私は上目遣いでアルマを見た。彼は亡き妹の最後の言葉を言った。


「明日はミルクに砂糖をいれてもいいかな」


ミルクに砂糖、美味しいですよね。親に冷たく「太るよ」と言われ、夜中にこっそり一人でのむことにしたので余計に太りました。

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