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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
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11-7,奴隷が正義を語る姿は滑稽で



 馬に跨ってこちらへ向かってくる男はどうやら旅人であるようだった。木の水筒を腰からぶら下げ鞍には多くの荷物がぶら下がっている。厚手の外套には泥が付着し裾はほつれている箇所が多いが、その隙間から真っ白な襟や凝った彫刻の施されたカフスリンクスが覗いている。


 貴族には見えないが金銭的な余裕を持った旅人だろう。健康的に日焼けをしたその男は私達の数歩前で馬を止め、軽やかに地面に降りると慇懃に頭を下げた。アルマと私もそれに応じた。


「突然の無礼を失礼いたします。あなた方はこれから港町レングロへ向かっているのではございませんか」


 明るく大きな声を出す人だ。もしかしたら普段は商売をしているのかもしれない。光を反射させる腕輪とか髪に巻くリボンなどを売っているというよりは大きなワゴンで野菜や果物をにこやかに売っていそうな青年だ。


 私に視線がいかないようにするためだろうか。アルマが素早く答えた。


「ええ。クレアモリアへ行く船が出ていると聞いたもので。レングロで何かあったのですか?」


「どうやら奇妙なことが起きている様です。4日前くらいだったと思いますが、まだ8歳の子どもが朝起きると自らの父親や母親のことも友人のことも忘れてしまったかのような素振りを見せまるで別人であるかのような態度を取ったのだそうです。記憶喪失を疑い医者を呼ぼうとした時、少年は突然眠りにつき目を覚ました時にはいつも通りの少年に戻っていたそうで、大人達が口々に先程までの様子について尋ねても何も覚えがないのだというそうです。医者も両親も子どもの悪戯だろうと思ったそうです。けれど」


「けれど?」


「街の門番、宿屋の旦那、酒場の踊り子に船で海外から到着したばかりの女性。この全員が同じ日のうちに少年と同じような様子になったのです」


「まるで別人が乗り移ったかのようにふるまったのですか?」


「えぇ、別人が乗り移ったという表現は的確だと思います。そして、全員が眠りから目覚めると何のことだかわからないと首を傾げるのです。そんなことが3日前もおとといも昨日も対象を別の人物にして起こったのです。私は朝早くから街を出てしまったのでわかりませんが、今日も誰かが同じ目に合っているのでしょう。街中が騒ぎになっていますよ。祈りを怠った現代社会を神様が許していないだとか、水や空気の汚染に原因があるのではないかとか、次は自分に感染し全てを忘れたまま一生思い出せないんじゃないかとか」


 どうやら私達の目的地は騒ぎの中にあるようだ。人々の警戒がその原因不明の病にあるのなら私は動きやすいかもしれないが、衛兵達や有識者が集まってくる危険性もある。さらにもし本当に感染病であるのならば拡大を防ぐために船の出港が取りやめになる可能性も高い。


 青年が私と目を合わせるように少しかがんだ。私はぞっとして後ずさった。アルマの腕が懐に伸びるのが見えた。


「いやぁ、すみません。怖がらせるつもりはありませんでした。お兄さん、こんな可愛らしい恋人さんをつれていらっしゃるのですから、レングロへ行くかは慎重にお考え下さい。甘い思い出が消えてしまうのは悲しいでしょうから」


 そう言って慇懃に頭を下げると青年は再び馬に乗り「お気をつけて」とやはり大きな声で言った。私が無言で頭を下げる代わりにアルマは「お気をつけて」と言葉で返した。


 馬が走り去ると私は静かな声でアルマに尋ねた。


「アルマ様、何やら怪しい問題が起こっているようですがどうなされますか?」


「レングロに向かおう。その件に関して俺に心当たりがある」


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