11-6,奴隷が正義を語る姿は滑稽で
風が吹けば砂が渦を巻くようにして舞い上がる乾燥した土の上を私達は歩いた。道はないが草木もなく平坦で足への負担は少ない。アルマは私を隣に並べて歩調を揃えるほど紳士的ではなかった。しかし後ろを歩く私の足音を良く聞いているのか、私と彼の背中の距離が開けば彼は少しゆっくり目に歩き私が石につま先を引っ掻け軽く立ち止まれば彼も立ち止まった。
歩きながら話そうと言った割に、彼は口を開かなかった。自らを不利に追い込む追求から逃れようとしている様にしか見えなかった。問いただすことは出来るが理想的な奴隷としての価値を揺るがすわけにはいかない。奴隷を手放そうとして、人間に憧れて過ちを犯し理性を失った獣に魂を売って過ちを犯した。彼が私を船に乗せるまで、彼の望むままの存在でいた方が良いだろう。
彼は私を要因にする以外は安定した足取りだった。肩から下げた荷物は重いはずであるのに軽い体重移動で前へ進んでいる。そう言えば私は逃走の際にあの荷物袋を意図的に地面に落とし中からは鈍いガラスの割れる音や物が潰れる音がした。私は妙に期待をしていた。奇跡のように魔法のように、あの悲惨な死骸や殺害現場がまるで気のせいであったかのように消えたあの時のように、壊れた姿を忘れて私が持ちだしたばかりのあの荷物の状態に戻っているのではないかと。都合の良い期待と夢を見ていたい期待が溶けて滲み合う。
けれど世界は期待をする私を嘲笑したいのか、布にはシミが出来ており底は濡れているようだ。おそらく私がほんの少しの脳みそをこねたワインボトルは既に処分してしまったのだろう。消し去らずに物理的に彼の手で。つまらない。
無言の彼の後ろを私は無言で歩いた。私の脳みその中に存在する予測不能の事態への不安と警戒心から生まれる緊張感の狭間の空間は、空気が澄んでいて温暖な気候なのかもしれない。きっと雨の後には雷鳴と共に美しい虹がかかる。台風の目の真ん中は快晴だっただろうか。台風の訪れる地域で過ごしたことは無い殻わからないけれど客がそう解説していた。
体力も筋力も無い中気持ちを鼓舞してペースを乱さずに進んでいたというのに、アルマの歩調が乱れた。私に近づこうとしているかのように歩幅が狭くなっていく。
「アルマ様?」
私は綺麗な上目遣いが出来るように俯いて様子を伺った。彼は視線で進行方向を示した。前方から馬に跨った若者がこちらへ向かってくる。私の顔が描かれた手配書が街中に回っているかもしれない。それどころかあの若者が休日を過ごす管理局の職員であるという最悪の可能性だってあるのだ。
私はとっさにアルマの後ろに隠れようとした。しかし彼は私の手首を掴むと自分の隣に私を並ばせた。
あ、こいつ私を裏切るつもりだ。私は心の中で高笑いをした。やはり信じるという行為は愚かだったのだ。
しかし彼は小さくこう言う。
「今首輪はしていないし服も着替えてある。動揺しなければ大丈夫だ」
彼の指は私の手首を滑り、私達は手を繋いだ。




