11-5,奴隷が正義を語る姿は滑稽で
私は一夜限りの交流となるこの男に自らの名をエンドと名乗ったのだ。カラともルイナスとも、私が名乗るはずはないのだ。
アルマの「しまった」というような顔を私は見逃さなかった。
「確かに私はカラといいます。あなたに名乗ったエンドという名前は仲の良かった奴隷から勝手に借りたものです。あなたに私の情報など出すつもりはありませんでした。あなたが知っているはずはありません」
彼は何も答えない。私は気の強い口調になってしまわないように何度も気をつけながら不安そうにわざと時々息を切らせながら話した。
「アルマ様は知っていたのではありませんか? 私のことを。1年前私の元に自らを預言者であると名乗る男が現れました。彼は私が教えていないことを知っており、彼の予言した未来は的中しました。あなた様は預言者とは年齢も姿も声も違うけれど、あなた様にも不思議な能力があるのではありませんか? だって先程あの場所で確かに殺人は起こった。けれどその形跡は奇跡でも起きたかのように消え去りました。現場に平然といたあなたが普通の人間様でないことが想像出来てしまうのです。そもそもアルマ様は初対面の奴隷に対して優しすぎました」
言い終えた私は肩で息をする。わざとだけど。彼は静かに口を開いた。
「歩きながら話そう。この町は今の俺達にとっては危険だ。穏やかで風邪をひけば米を煮てくれる隣人も日が暮れても子どもが外で遊べる治安の良さも好きだったけどな」
あ、この人片目を細めて笑うんだ。男性的な顔つきであるというのに儚げであるその表情は風になびく長い髪の毛と合っており魅力的だ。でもふざけたことを言っている。そんな平和な町を殺人現場にし逃走を決意した屑男はお前だ。
知ってるか? 悪人にも善人にも盗人にも政治家にも父親と母親は存在する。父親も母親も存在しないのは奴隷くらいなものだ。
思想とは対照的に肉体は従順な奴隷として頷いた。情けなく弱々しい表情に決意を込めたかのように力を入れてみせた。
港町を私は知らない。しかし多くの船が行き交うというのなら貿易も盛んであるだろうし人が多いかもしれない。森の中で一本の木を探すことが困難であるように人混みは私を隠してくれるだろうか。それとも仇となるだろうか。少しでも遠くへと移動をするのなら船は非常に有効であることは間違いがない。この男を利用しなくては私は船に乗ることはおそらく出来ないだろう。そもそも私は船どころか海すら見たことがない。
私はアルマと共に歩き始めた。私達は町から遠ざかっていく。彼は「少し急ごうか」と私に声をかけ、ほんの少し速足に。
「町から離れたもっとゆっくり歩ける。大丈夫か?」
「あなたが走って遠くへ行ってしまおうと、どうかついて行かせてくださいませ。転ぼうと倒れようと追いつきますから」




