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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
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10-10,嘘吐きと泥棒



 彼の自身は泥棒であると言うその言葉をどう捉えたら良いだろうか。部屋の様子や彼自身の様子を見ると彼が日ごろこの部屋で芸術に着手しているということは覆りはしないように思えた。盗作をしており実力がないということだろうか。


「お前も可哀想にな」


 アトリエ部屋から出てドアを閉めると彼はそう言った。「もっと善良な奴に拾われた方がお前は幸せだったよ」と。


 彼は本当に良い人間だ。都合の良い人間だ。私は彼に自身を卑下するような言葉を言ってほしかった。何故ならその言葉はもっとも心臓のコントロール権を他者へと委ねてしまうものであるからだ。私は弱々しい音を立てて息を吸い、彼と目を合わせた。喉の中で怒りの塗料と悲しみのスパイスを混ぜ合わせる。喜びの灰汁はその醜さを理解したうえで浮かべたままに。


「いいえ、アルマ様、あなた様が手を差し伸べてくださらなかったら、きっと私は今頃死んでいました。酷くお腹が空いていたんです。心も体もどこもかしこも寒くて痛くて、自ら死へと手を伸ばしている気がして瞬きをして視界を閉ざすことも恐ろしかったのです。目が覚める保証などないのですから眠るなどもってのほかでした。あなた様は私の恩人なのです。あなた様のためだったら、なんだって出来ますわ。それこそ、この命だって体だって、あなた様のために」


 私は自身の両手を重ね合わせて心臓の上に置いた。今まで私は口数も少なく大きな動きもしていないのだから、ここでは大袈裟な言葉と動作がふさわしい。笑うことになれていない奴隷がするようなぎこちない下手くそな微笑みを見せた。


 しかし彼は私の手の甲に増えると、その両手を降ろさせた。彼は少しだけ口を開いたが眉間に皺を寄せただけで何も言わずに口を閉じてしまった。呆れているのかガッカリしているのか、目を細くして軽く俯いている。


 どうやら私は失敗をしてしまったらしい。彼はため息に似た息の吐き方をするとキッチンへと戻ってしまった。珈琲の残りを一気に飲み干している。浴室から漏れる蒸気も閉じ込められていた料理から流れる湯気も淹れたてのコーヒーの香りもなくなってしまったこの部屋は寒くはないがいつの間にか格段に緊張感の走る部屋になっていた。私は思わず息を飲んでしまい、慌てて弱々しい赤子のような表情に戻した。


 彼はコートを腕に通した。「仕事の関係で外に出てくるよ」と。彼にとっても私と一緒に居るこの部屋の空気が重く居辛さを感じているのだろうか。申し訳ないけれど肉体を買いたい人間様としか交流を持たせてもらったことしかないから、その目当てから外れてしまえば接し方などわからない。お見送りの際の「また来てくれますか?」という言葉に魔力を込めるために脚を開き、おでこや頬をこすりつけ、唇を震わせているのだから。


「ベッド使っても構わないよ、もうすぐ日が出るからカーテンが閉まっていても眩しいかもしれないけど。シーツと枕は気持ちが悪いだろうから裏返しな。アトリエに鍵をかけていくから、他は触られて困るものもないから」


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