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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
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10-3,嘘吐きと泥棒

 私は食料を求め、振り返ってしまった。


 性商売小屋にいた頃、聞いたことがある。犬に餌をやる時に必ず笛を吹いていると、そのうち笛を吹いただけで涎を垂らすようになったと。


「僕はまだ君に触れてもいないというのに、涙目で上目遣いをして口は半開き。情けないとは思わんかね?」


 うるせえよ。人間様を優越感に浸らせて間抜けで情けない奴隷風情だと思わせるためにこっちは演技力磨いてるんだよバーコードハゲ。


 とにかく私は今、「腹、減ってんだろ?」という甘い声に口の中を涎でいっぱいにして振り返ってしまったのだ。皮脂でベタベタになった髪の毛が頬にくっついた。私の皮膚や髪や下半身は、どんな異臭がしているだろう。


 私に声をかけてきたのは田舎町に似合わない恰好の良い細身のロングコートを着た男だった。暗闇のせいでそれ以上のことはわからない。


「ついて来いよ。大したもんはないけど食わしてやる。死ぬぞ?」


 彼はそう言って私に背を向け歩き始めた。私の脚がなかなか動かなかったのは彼を警戒していたわけではない。あまりに予想外のことで現実離れをした出来事で警戒心も足も思考も、何も動いてくれなかったのだ。


 私が動く気配がなかったからだろうか。彼は振り返らず足も止めないままこう言った。


「お前を怖がらせるような真似は一切しねえよ。約束する」


 私は彼の背を速足で追いかけた。この人を利用しない手はないように思えた。貧乏人には見えない。極悪人にも見えない。ならばその好意に甘えた上で、最大限に彼を活用出来るように気に居られる必要がある。人生最大の賭けをして全て失ったのだから、もう失うものは何もない。私は彼の後ろを無言で歩きながら、吸う息を震わせる感覚を思い出していた。口で吐く嘘よりも、体で吐く嘘の方が騙しやすい。瞳が涙で濡れていて手をぎゅっと握りしめ体を震わせていたら、どれだけ口で乱雑な言葉を吐こうと同情が得られる。そう言うことだ。


 真夜中だというのに洗濯物が干したままの家を横切り、窓ガラスの割れた家を通り過ぎ、彼と彼の後を追う私が着いたのは、1人で暮らすには充分だが誰かと過ごすには少し狭い、小さな家だった。しかし、その家は比較的新しい物に見え、壁に刻まれたちょっとした装飾や扉の前の花壇に少しだけ咲いている花など、やはり裕福さを感じさせる。これは期待できる。


「悪い、郵便受けの中取り出してくれ」


 彼は鍵を探しながら私にそう言った。この人物こそ警戒心はないのだろうか。私は高く柔らかくそして脆い声で返事をし、郵便受けの中の新聞と手紙を取り出した。新聞の一面は政治家の辞職。興味はない。しかしその下には爆発の跡地の写真が掲載されており、その場所があの奴隷の死体処理場であると気が付いた私は青ざめた。自らが容疑者となっているのではないかと素早く文字を追おうとしたが、男の視線が一瞬だけこちらを向いたため、新聞と手紙を一つにまとめ角を合わせる動作をして誤魔化した。大切な情報は何も見れなかった。手紙は4通。どれも分厚くずっしりとしている。


「ほら、上がれよ」


 彼はそう言ってドアを開けてくれた。大切なことはこの男に罪悪感を抱かずに突き進むことだ。


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