10-2,嘘吐きと泥棒
電灯が消えはじめ、人々が寝静まった頃、私は動き出した。広場のゴミ箱をあさり、その腐った食べ物の匂いが麻薬のように体に吸収されるような気がした。胃袋が悲鳴を上げることもない程に憂いを帯びて、私は自分の胃が可哀想で、ゴミ箱の中身をゴールドに弾けるシャンパンを浴びるような気持ちで受け入れていても恥ずかしくもなんともなかった。
というか、というか。このまま気が済んだら私もゴミ箱の中に入ってしまいたかった。私は身長も低いし、体も軽いから、ゴミたちも「仕方がないなぁ」と睨むだけできっと許してくれるだろう。鶏肉の皮と仲良くするのは贅沢が過ぎるだろうか。ジャガイモの芽とか役目を終えて腐ったアジサイとなら、盛り上がる話も一つか二つ、あるだろうか。
大きなゴミ箱の中身を細部まで確認し、味がありそうだったり栄養が少しでもありそうだったら全て口に入れた。最後に肉の太い骨をしゃぶった。こんがりと焼かれた肉のうまみが骨にまで染みている。ほんの少し残った肉の破片は何て美味しいのだろう。
私は笑っていた。やっぱり心は死にたくとも体は死にたくないのだ。久しぶりにあり着いたエネルギー源に心臓はときめき、霧のかかっていた脳みそは快晴を仰ぐ。
私は次の食料を探しに立ち上がった。家と家の間が狭い町だ。足音を忍ばせながらゴミを探す私を見て猫が警戒の声を上げた。
「黒猫さん、あなたの瞳は雲の中に隠れて全然顔を出さないお月さまよりも、よっぽど満月だね」
「ありがとう。奴隷さん。あなたも体の機能は人間とそっくりだけれど、あなたほど生ごみと同族な生き物は初めて見たわ」
はい。嘘です。猫は言語を持ちません。猫はにゃーにゃー鳴くだけです。
途中、雨水をためるバケツを見つけた。私はバケツの縁にまるで噛みつくかのように口をつけ、化け猫よりも猛獣のように水を喰らった。甘い。甘い。虫の尿かもしれないし、猫や犬の唾液かもしれないし、鳥の糞かもしれないけれど、甘い。
次のターゲットは畑の肥料だ。まだ腐敗していない新しいゴミがあるかもしれない。私は真っ暗な道を畑をめがけて進んだ。
「おい」
後ろから声が聞こえて来た。男の声だ。
快晴幸せボロボロ脳みそが、停止した。自分だろうか? 私に声をかけたのだろうか。確かに私はどこからどう見ても不審者であり、首輪を隠してくれているのは暗闇だけだ。まだ眠っていない人も多い時間だか田舎町であることもあり明かりがほとんどついて居ないため油断をしてしまった。応援を呼ばれては何も出来ない。
私がこの町で死んだとして、行きつく先はあの私が過ごした死体処理場なのだろうか。あの、大爆発のあった場所。
顔を冷や汗が垂れた。折角補給した水分だというのに。水がそのまま血液に変換されてくれればいいのに。
私の脚は震えていた。迷っていたのだ。もし振り返って、声の主が幸運にも身体に不自由を持った人間であったり、老人であったりしたら、自分に殺すことは出来るだろうかとか。殺すことが叶わない相手だったとしても目だけは油断させれば潰せるのではないかとか。いや、それよりも早く走って町を出ろとか。
「腹、減ってんだろ」
あぁ、誘惑。お腹空いてる。




