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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
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9-5,奴隷は何も選べない



 植物達は過酷な育てられ方によって甘く美味しく、あるいは美しくなるというのに、私や他の奴隷ときたら過酷であれば過酷であるほど生ごみに近づいていく。もしかしたら、もしかしたら。私も輪切りやぶつ切りにでもされて軽く塩でも振られれば美味しく食べてもらえるのだろうか。このすかすかの体に栄養が詰まっているとはとても思えない。


 仮面の女は服や手に付いた木の残骸を払うと再び私の前に座った。その時私は初めてこの目の前にいる女が自らが畏怖するべき警戒対象であったことに気が付いた。私にとってこの人かどうかもわからない存在は、森の支配者であり破壊と滅びへの水先案内人だった。私は仮面の奥の彼女の視線を気にしつつも自らの髪を見つめ、まだ黒いことを確認した。


「大丈夫よ。この森の木々や草花達だって、私が来た途端に一瞬にしてこうなってしまったわけではないわ。それに、これは私の意志ではない。私に原因があることはわかっているけれど、私だって望んでこの森をこのありさまにしたわけじゃないわ」


 彼女の言葉を聞きながらも、私はこっそりと手首に爪を突き刺し軽く抉った。鮮血が涙のように肌を滑って、流れて、服に滲みた。


 私は常に自分の持つ矛盾と向き合うことを恐れている。あの死骸処理場の土の色のように赤い自らの血を見て深く安心していると言うのに、この森でこの木々達のように空洞になって美しく死ぬことが出来るのだとしたら、それは身に余る光栄なのではないかと思えた。死んで初めてこの森にふさわしい生き物になれるだろうか。


「あなた様は、魔女様ですか? 人間の思考と物理を超えたことが出来るのは魔法使いしかいないはずです」


 そう尋ねた私の声は震えていた。私は無意識に背筋を伸ばし脚をそろえてその答えを待っていた。


「いいえ。確かに人間の民からそう呼ばれながら、生まれて来た時から街を去るその時まで過ごしてきたけれど、魔法など使えないわ」


「あなた様は神様に祈りを捧げるだけ。もしそこに人間から見て魔法のように思える不思議なことが起こったのならば、その祈りを神様が聞き入れ叶えてくださったというだけ。魔女様と呼ばれるあなた様は神様と人間の仲介人であり、奇跡を起こしているのは神様である、そうですよね」


 仮面の女、魔女様はゆっくりと手を動かしてあまり心地よくは感じられないリズムの拍手を私に送った。


「それは昔は常識であったのに、今ではほとんどの人が知らなくなってしまった真実よ。誰から教わった?」


 私は口ごもってしまった。そこには嫌な思い出があった。昔魔女になると夢見る少女だった私は月に一度街までやってくる図書館でまるで学者が読むような本を手に取ると、司書をしている気の弱そうな老婆に図々しくもお願いをしたのだ。「難しい言葉がわからないから、この本の中から魔女にある方法探して読んで聞かせてくれ」と。老婆が目を丸くしていたのを覚えている。しかし彼女はすぐに温かい息を漏らして笑い「お婆ちゃんにもこの本は難しいから、来月までのお婆ちゃんへの宿題にしてくれないかな」と言ってくれた。私は多分高い声で偉そうに「いいよ」なんて返したのだと思う。私は老婆に出した宿題を一日たりとも忘れたりはしなかった。真面目な老婆は私との約束をちゃんと守ってくれた。子どもの心に寄り添うことの出来る老婆は残念そうに優しい声で、人間として生まれて来た者は魔法使いにはなれないと教えてくれた。


「人間の声や祈りは神様には聞こえないんだって。だから魔法使い様や魔女様が人間の悩みやお願い事を聞いて、「神様、こんなことで困ってる人がいますよ」って神様に教えてあげるの。そうしたら神様はね、「それは大変だ。今すぐ助けるぞ」ってお願いを聞いてくれるの」


 その図書館には毎月脚を運んでいたというのに、夢を奪われた少女となった私はその出来事以降たったの1度も本を借りに行かなかった。両親や教師や友達から「ルイちゃん大きくなったら魔女様になりたいんでしょ?」と言われるたびにうずくまって泣きじゃくり、理由を知らない彼らは不思議そうな顔をして私の頭を撫でた。


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