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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第1幕 奴隷は愚かで強欲で
67/145

8-12,奴隷は愚かで強欲で

 小さい頃、母様がよく絵本を読んでくださった。父様も母様も本が好きな人だったから家には絵本も本もたくさんあった。私は人間の王女様が暮らすお城にカエルがこっそりと住む絵本がとても好きだった。キャンパスに描かれているようなその絵はとても繊細で可愛かったのだ。


 私は何度も母の元にその絵本を持って行き、読んでほしいとおねだりをした。母は私を膝の上にのせ、ゆっくりと読んでくれるのだが、カエルがチョコレートケーキを食べるページまで読むと、必ず母の膝から降りて絵本を片付けるのだ。その絵本は最後、ネズミが凍死寸前の子ネズミのために暖をとろうと慣れていない火を使い、城は大火事になるのだ。カエルは密かに片思いをしていた王女と仲の良かったネズミを見捨て、森へと走り、死ぬ寸前に再会した自らの真の家族に犯した罪を打ち明けるのだ。


 その城の大火事の絵を、私は幼い子どもが入って行った倉庫が激しく燃える様子を見て思い出していた。まるでウェディングケーキのように可愛らしいバラがたくさん咲いているお城が、炎をまとった城よりも大きい猫によって食べられてしまう絵だった。


 まさにそれが。それが、それが。





 カエルはすたこらさっさとにげました。


「だってぼくはくじらさんのようにみずをふきだすことはできないのだもの。しかたがない、しかたがない。ああ、かなしいなあ」





 私は希望に満ちた酷く甘美な背後に続く道を見た。虫や妖精を誘惑する強い香りが自らの生命力を私に教えてくれている。炎とも死骸とも無縁の華やかな世界は、幻想世界に違いない。これは私にしか見えていない。


 けれども私は預言者の言葉をようやく思い出し、命を懸けてまで守りたいと思える出会いを再び夢見て、溺れて、次の瞬間には私は例え奴隷であろうと特別な存在であると信じで炎に背を向け、走りだしていた。


 私は美しく輝く花々を見ながらヘリオトロープの香りを思い出し、ラズベリージャムの甘酸っぱさが口に広がり、白く細い指が鍵盤で踊って奏でるピアノの音が耳に張り付き、もう一度奴隷にはない幸せを願ってしまったのだ。一度味わった身の丈以上の快楽を、生物は忘れることが出来ないのだろうか。薬物中毒のように無様でも滑稽でもそれを朽ちるまで求めるのだろうか。


 私はすたこらさっさと逃げました。花を踏んでも花びらが落ちても気にもせず美しいその道を、私に優しいその道を、走りました。


 他の奴隷達がどうしたのか、わからない。それほど全力疾走で走っていた。けれど私にしか見ることの出来ない幻想の花々の道を辿る私自身の肉体は、霧をまとっているかのように輪郭がぼやけたり脚が透き通って見えたりして、まるで私自身が誰かの想像上の生物なのではないかと、実在などしないのではないかと、少しだけ考えてしまった。


 もしも、もしも。私の生きる道が他者によって決められたものであるのなら、私が何を考えどのように行動しても運命は最初から決まっているのだとしたら、私はそれがどんなに虚しくともそれにすがってそれを頼ってそれを言い訳にし、甘え、溺れて、人間になりたいと叫びながら最も奴隷にふさわしい奴隷として死んでいくのだろう。





第8話 奴隷は愚かで強欲で end


そして、第1幕 奴隷は愚かで強欲で end


第2幕からもお楽しみいただけますと幸いです。


皆様はじめまして。呼吸をする生ごみです。なみだぼたるといいます。

これにて「君は奴隷でぼろぼろで 第一幕 奴隷は愚かで強欲で」を閉幕とさせていただきます。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。読者様が0になるまで、たった1人でも読んでくださる方がいる限り書き続けようと思います。

読んでいて気持ちの良いストーリーでないことは確かですが、これからも登場人物やこの世界を見守り、楽しんでいただければ光栄です。生ごみなので腐敗が進んで形を失う前には書き終えたいところですがまだまだ私も彼女も解放されそうにないので、気長に読んでいただければ幸いです。

それでは第二幕からもよろしくお願いいたします。

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