表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第1幕 奴隷は愚かで強欲で
65/145

8-10,奴隷は愚かで強欲で

 分厚い雲と汚染された空気を通して見てもその夜の満月は赤かった。丁度雲が避けた月の端っこはまるで血のように赤く黒かった。けれどその事を口にする者はおらず、誰もいつもよりも夜空が明るいことにも気が付かないのだから、間違っているのは私の眼球か脳みそなのだろう。勿論、私は月が赤いと誰にも言わなかった。理性を失い狼に姿を変えると騒がれかねない。


 目を見た相手を石に変えてしまうメドゥーサという生き物がこの世界のどこかにはいるらしい。私はメドゥーサのような扱いを受けていた。狂気を振りかざし誰かを殺めるかもしれないという恐怖と、異物を排除し生き残らなくてはならないという動物の生存本能、その両方によって私はひたすらに嫌悪され彼らの結託した意志による暴虐を受けた。そこには自らの正義を信じる瞳があった。でも私は自らが悪ではないと思えるはずがない。どちらかと言えば勘違いをするなと、被害者であると思い上がるなと、言い聞かせなくてはならない。


 私はいつも同じように牢獄へとぼろぼろの体を引きずって戻った。


 この密室には窓がない。にも関わらず、私は壁の向こうの空に輝く月を感じ取っていた。月の鼓動を肉体の器に収まっているどこかで聞いているとでも言うのだろうか。それだけではない。雲に覆われていてもなお不気味に輝いていたあの月がようやく私が箱の中に入ることによって視界から外れたというのに、私は満点の星の中、赤々と輝く満月の全体を視界とは別のどこかで見ているのだ。まるで現実の世界に居ながら異世界の空想をしているかのように。


 私は赤い月に酔っ払い、血濡れの月に恋をして、恍惚の月に目を回した。


 私だけに聞こえるその声は、女神のように、天女のように、歌う。笑う。無機質な機械音が精一杯感情を込めているような歌声で、私に伝える。


「ちょうだい、ちょうだい。それは私のものだから。可愛い可愛い私の子。あなたは私の物だから。お花を辿ってこちらへおいで。真っ赤なお花は微笑んで、青いお花はくるり踊って、ピンクのお花はお歌を歌うの」


 耳を澄ませる必要などなかった。私の耳元でささやくように、その歌はゆったりと歌い続ける。気を抜けば、私は2音低い音で共に歌ってしまいそうだった。私は昔のようにまだ誰かから褒められる歌声を持っているだろうか。男に愛されるための声ではなく、愛されたい相手を騙す声でもなく、自分の歌いたいように歌って誰かにそれを美しいと思ってもらえるだろうか。


「ちょうだい、ちょうだい。それは私の物だから。それを届けて、笑って朽ちて。あなたは優しい子だから。私の優しい子だから。お花を辿って私を愛して。お花を辿って私の元へ。命の故郷で、あなたの家で、あなたが咲くのなら、私はあなたを愛でましょう。あなたは私の可愛い子」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ