8-8,奴隷は愚かで強欲で
前日奇妙な声を聞いたからと言って次の日に特に大した、それこそ目を見開き唖然とするような出来ことはなかった。例えば倉庫の外には目を閉じてしまうほど輝かしい花々が咲き誇り、真っ赤な薔薇の花が道標として天まで続いている、なんてことは何もなかった。渇ききった地面の上に今日埋める死体が積み上げられ都会から流れて来た汚染された空気にさらされているという日常がそこにはあった。
奴隷達は私を明らかに警戒していた。敵意を示されている。私は再び元人間の奴隷ではないかと彼女から尋ねられたため、昔のことはもうほとんど覚えていないため自分でもそれすら分からないと答えた。実際には奴隷になってからのことはすぐに忘れたが、人間時代のことは眼球や鼓膜に刻みつけられたかのように鮮明に覚えていて忘れることなど出来そうにない。
しかしそれからも私は日が沈み月が昇ると何も聞こえていないというのに、誰かの声が聞こえたように感じ、無意識に自分でも理解の出来ない事を口にしてしまうことが2,3日に一度あった。その度に同じ空間で逃げ場もないけれど人間様に不満を伝えることも出来ない奴隷達は私を気味悪がり怖がった。もはや私は奴隷としても見てもらえず、動く死骸のような扱いを受けていた。
私が何かを感じ取っても口を開かなければ奇妙に思われることもないのだが、倦怠感と疲労感の中、そして何より飢餓感の中、眠っているのか起きているのかもわからず目を開けているのか閉じているのかもわからない状況に入ったその瞬間、自分でも知らない間に私は何かを喋っているのだ。そして口を閉ざし息を吸いなおしたその後に、私は「私、今何か喋っていたかしら?」と周囲に尋ねるのだ。本気で、本当に、わからないのだ。そんなことが数回続き、私は周囲の奴隷達が私に感じる奇妙さと全く同じ奇妙さを自分で感じていた。
仲間達からの私への態度は日に日に悪くなっていった。私が床に座って眠れる貴重な順番はいつまで待っても回ってこなくなり、スコップは肩に投げつけられるように、あるいは足に叩きつけられるように渡された。貴重なパンは雨上がりの泥だらけの靴で踏みつけられた。でも食べるしかない。尿がかかっていようと精液や血液がかかっていようと、私はそれを食べるしかない。だって心よりも体が飢えている。
こうして私は最底辺の奴隷達が集まったこの部屋の中で、もっとも低い階級に膝を付けることとなった。でも、私に何が出来るというのだろう。顔面も肉体も女性器も会話術も表情もここでは皿の上に乗っかった泥団子と価値は変わらず、私はまるで悪魔に取りつかれたかのようなちっぽけな女奴隷と姿を変えてしまった。それとも都合の良い夢から覚めて本当の姿を思い出しただけだろうか。
眠っている最中、砂か泥か埃か、とにかく何かが喉に引っかかって咳き込んでしまった。私は伸びてきた男にしては随分と貧弱な腕に首を掴まれた。
私は壁に向かって嘔吐した。折角お腹に入れたパンだったというのに。
そんな日々が、続いた。




