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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第1幕 奴隷は愚かで強欲で
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8-6,奴隷は愚かで強欲で

 ある月のある日のある時間、その日はいつもよりも少しだけ、ほんの少しだけ調子が良かった。それはきっともらえたパンがカビが多く生えていたかわりに大きかったことと、床にお尻をつけて眠る順番が回ってきていたからだと思う。


 今日は風が強い。目に見える限りこの辺り一帯には木がないというのに、丸っこくて茶色を帯びている葉が、質量がいっぱいになった墓穴に土をかける私の元へと飛んできた。私は思わずスコップを肉片の上へと落としてそれを拾ってしまった。もちろん、慌てて風に流してそれを更に遠くへと飛ばした。こんなことで管理者の機嫌を損ねたくはない。ただでさえ今日は目をほじくり出したいほど、砂埃が酷く作業に集中しづらいのだから。もとから醜い奴隷が見るも無残な死体になって、神様が不快だと視界制限したかのようだ。首の折れた若い女の奴隷の上に、髪の毛は何もない中年の男の奴隷が尻を付きだしながら乗っかっているその墓穴は地獄絵図と言う奴だ。時々、芸術家が穴に限界まで奴隷が詰まった様子を写真に取りに来る。どこに美を感じるのかはわからない。なんと題名をつけるのだろう。「寝坊した休日の朝食」だろうか。なんちゃって。


 しかし、困ったことが起きた。紙飛行機がフェンスを超えて、私の首のあたりをめがけて飛んできたのだ。最低限に脳と体を動かしていた私は驚いてしまい、つい顎を首に向かって下げる形で紙飛行機を捕まえてしまった。


 腰を曲げながら作業を続ける他の奴隷達の視線が微かに集まり始めている。私は紙飛行機を掴んだ。その時視界に映った指は爪の白い所は噛んでしまったから何もなく、死体の皮膚はささくれに絡まり、手も爪も染めるその色が、土の色なのか血の色なのか内臓の色なのかもわからなかった。もうそれが自分の本当の手であるように感じ、自分が悪魔とは知らずに育ちやがて人も奴隷も魔女をも喰らう怪物となった子どものような気分だった。


 どうしたものかと考えていると離れた所から「あの」と気弱そうな声が聞こえて来た。子ども特有の高い声だった。振り返って持ち主の正体を確認する前に「勘弁してよ」と口を動かしてしまった。


 しかしもう生きていたいとも死にたいとも思わずに死ぬ日を待って生きている私は、考えてみたって生きたいのか死にたいのかわからず、何も望まず絶望も持たず面倒くさい物が飛んできてしまったというだけの認識で紙飛行機を持って振り返った。予想通りフェンスの奥には少年が居る。しきりに後ろや横を見て、自分と同族である人間様を探しているようだ。


 私は紙飛行機を持ってフェンス近くまで行った。幼い彼を前にして顔を上げなかったのは所長からの制裁が恐いからだろうか。いや、私はきっと、きっとだけれど、彼の顔を見たくなかったし私の顔を見せたくなかったのだ。私が彼くらいの年齢の時、私は毎日歌を歌いチェロと一緒に絵本を読んで母の膝の上でうとうとする少女だった。そんな私は今、おばさんになってしまったわけでもなく大人にすらなっていないというのに、死骸に囲まれて動く死体のようにかろうじて生きているのだ。


 フェンスの奥で彼の小さな小さな震える手がこちらに向かって動いてきた。爪に詰まっている赤色はクレヨンだろうか。私も赤のクレヨンが一番好きだった。母様が好きなお花の色だったから。なんて、馬鹿かよ。


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