1-6,歔欷の預言者との約束
彼は言った。名も知らぬ預言者は言った。無残な死を遂げる私に言った。
「1年後、お前の人生は大きく変わり始める。そして3年後の冬、お前は大切な人を守るために命を落とす」
彼の言葉から私の3回目の人生がはじまることとなる。
「3年後? 私が死ぬまでたったの3年しかないの? 私はまだ若いのに? きっと子どもなのに?」
「あぁ。お前は自ら望んでそれを選ぶんだよ」
「あ、でも、ないわ」
私は首を横に振った。気の強い自分を演出しようと意地悪く笑って見せた。
「私は命を懸けてまで誰かを守りたいなんて思わないもの」
「思うんだよ。お前はそれを幸せだと言い張った。お前の決意もあいつの意思も堅かった。誰の静止も説得もお前たちは聞かなかったんだよ」
静寂が私たちを包んだ。この部屋はそんなに広くない。1人で使うには贅沢で2人で使うには狭いベッドと小さな棚、それだけで部屋のほとんどは埋まっている。壁に掛けられた鏡も、使い古された寝具も、ぎしぎしと音のなるフローリングも、この部屋の安っぽさを物語っている。そう、私は娼婦ではなく奴隷なのだ。明日客やマスターに殺されるかもしれない奴隷なのだから3年後まで生きていられる保証をくれているかもしれないなんて何たる幸運だというのだろう。喜ぶことが普通だったのだ。
彼は私にこう言った。
「今からいう俺のお願いを聞いてほしいんだ。そうしたらお前とあいつの未来を変えられるかもしれない。どうか、どうか、あいつを救ってくれ。お前ならあいつを救えるんだ」
私は彼のいう「あいつ」がうらやましくてたまらなかった。この予言者が回避したい死は私の死ではないのだ。
でも、私はうなずいた。
私が自らが死亡する未来を回避することができたら、私は私が命を懸けてまで守りたいと思う大切な人とずっと一緒にいられるのだろうか。