8-4,奴隷は愚かで強欲で
私が連れてこられたのは町も村もない、木々もなければ草花もない、ただ赤黒い土が地平線まで広がる場所で倉庫のような大きな建物が並んで2つあるだけだった。どうやらここが私の新しい職場であり、死に場所であるようだった。
倉庫から若い男が出て来た。
「わざわざ奴隷一匹を迎えに行くために馬車出さなきゃならないなんてジグさんも甘く見られたもんですねぇ」
ピアスのたくさん開いた男は頭が悪そうな喋り方でそう言って腹を抱えて笑った。ジグと呼ばれたその男は膝を大きく上げて男の腹を蹴ると、私を倉庫の奥へと連れていった。私が寝泊まりする部屋があるのだろう。倉庫は全体的にあまり綺麗ではなかった。金属は錆び木は腐り床や壁はカビていた。ラックはほとんど使われておらず木箱等がそこら中に蓋を開けたまま散乱している。
一番奥の鍵の着いたドアをジグは乱雑に開けた。
「新入りだぞ。問題起こすんじゃねえぞ」
そこは、豚小屋どころでは無かった。私が思わず後ずさってしまったのは、部屋に入りたくないからではない。部屋に入りたいが入れるスペースがないように思えたからだ。今まで豚小屋は5人が脚を曲げて眠ることの出来るぎりぎりのスペースがあったが、ここは一部屋に18人が詰め込まれており、寝ることは愚か足を折りたたんで座ることすら数人しか出来ておらず、半分以上の奴隷が立ったままだった。
36の瞳に睨まれながら私はそこに入った。入るしかないのだ。脚を踏み入れた瞬間、体全体が肉に包まれている感覚だった。穴に突っ込まれる男性器達はこんな気分だったのだろうか。
ここは、あまりにも狭すぎて壁の色すら見ることが出来なかった。
尻を触られた。腰に腕が巻き付いて来た。私は今まで女だけの空間で生活をして来たけれどここには男もいるのだ。でも、一流のショップ店員に体を高級な石鹸で洗われる恥をかいた私にとっては、体についたわずかな肉を触られることなどどうでも良かった。死ねよ。
「お嬢ちゃんガリガリのおんぼろだけど可愛い顔してるねえ。男に脚開くお仕事してたんじゃないの?」
「この仕事やるにはまだ早いから、もうちょっと男に抱かれてた方がよかったかもな」
確かにここは大人ばかりが居る。それどころか老人もいて子どもは私くらいしかいないように見えた。しかし男ばかりというわけではない。女もいる。質問には答えなかった。逆に私は尋ねた。
「ここの仕事はなんですか?この土地に何もなさそうですが」
「お嬢ちゃんなんも聞いてないのかい? 死体埋め死体埋め」
「死体埋め?」
「ここに来るまでに何かが積み上げられた山を見なかったかい?」
確かに遠くて良くはわからなかったが、赤黒い土の上に、いくつか山のような物があった。それこそ生ごみを積み上げているような。私は頷いた。
「あれ全部奴隷の死骸だよ。俺達も死んだらああなるの。それを俺らは命の危険を感じながら毎日埋めるってわけよ」
「死んだら焼却されるのでは?」
「焼却には金がかかる上にただでさえ黒い空が更に真っ黒になっちまうって苦情があるんだとよ。高い金出してクレーム聞きながら奴隷如きを燃やすよりも、安い金で奴隷を使って奴隷を埋めさせた方が早いってわけだ」
「人間の死体も結構多いよ。まぁ、要するにゴミ箱だね。敗戦国の戦死者にホームレスに隠ぺい希望の絞殺死体」
「仕事の途中にぶっ倒れたら一緒に埋めてもらえるよ。ここは飯が少ないからな。効率的だろ?」
「睡眠不足で倒れる人の方が多いけどね」
ぎょろぎょろとした目たちは一斉に笑った。
使い捨てとはまさにこう言うことをいうのだろう。私は思わず唾を飲み込んでしまった。
その後も口々に説明をされた。ここの奴隷は最安値で購入されているため替えはいくらでも存在し、死刑宣告は人間の機嫌次第であること。奴隷の溺死ショーが開催されたことがあったこと。この部屋では5人ずつしか座ることが出来ないため私は4日後までは立ったまま人に寄り掛かり合い眠らなくてはならないこと。
「あ、ジグって言う所長さんの息子さんと目を合わせないように気をつけてね。あの人息子を溺愛してるから」
最後にそう聞こえた。その声は子どものものに聞こえた。もしかしたら部屋の奥の見えないところに若い、しかも女の子がいるのかもしれない。




