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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第1幕 奴隷は愚かで強欲で
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8-2,奴隷は愚かで強欲で



 その場所が病院であるということに気が付いたのは、視界が回復してからだった。よく知っている貧弱でぼろぼろな体だった。いくら痛みに鈍くなってしまった身体とは言え、不自然な程に痛みを感じず、撃たれたはずの背中に何にも感覚がないため、よっぽど強い薬を使われたか、神経が死んでしまったかのどちらかだと思う。


 私に話しかけてきたのはグレイヘアで白衣を着た中年の男だった。おそらく医者であろうと思う。


「ここは病院ですよね」


「君は奴隷だというのによく病院を知っているね」


 人間だった時代に高熱が一週間以上も下がらず入院したことがあったため知っている。その時は一日おきに父と母が仕事帰りに見舞いに来たり、当時好きだった足が一番早い男の子が桃を持って来てくれて恥ずかしかったりしていた。言わないけれど。


 医者は私の腕に注射を打ちながら言った。


「早く良くなってベッドを他の患者に譲ってもらいたいんだよ。奴隷が入院している病院だと知られたら評判に関わるんでね。噂はすぐに広がる。君が一度でも寝たベッドを使いたがる人間なんていないんでね」


 確かにそこは個室で他の目には触れないようになっている。彼は清潔な恰好をしているというのに頭をぼりぼりと搔いて気怠そうにため息をついた。


 私は今なぜ自分が病院で治療を受けているのかわからなかった。包帯なんて記憶の限りでは巻いたことがないため気持ちが悪かった。


 気絶したまま脳みそをぶち抜かれて死んでいる予定だった。サキカがロンド様との幸せの紡ぎ始めが私の終着点にならなくてはいけなかった。他者を裏切り、自分勝手を極め、生き残ることは恥であるように感じた。諦めを知っていたと言うのに予言を聞き、未来の甘美に酔いしれ他者を見下し一人で踊り狂い、その結果がこれだ。


「金を積まれたら仕方がないね」


 医者がそう言った。聞かずともわかった。ロイド様だ。彼は私の裏切りが明白になり私のために作った時間もかけた金も全て無駄になったと知っても、自らの手で私を貫いたという事実に耐えられなかったのだ。奴隷を買う必要もなければ奴隷が視界に入る生活もしていない彼は奴隷がいかに無価値であるかを知らない。彼はおそらく死んだ池に「綺麗な水泡だね」と言うし、足が取れた羽虫を憐れむ。


 医者はすぐに出て行った。広い部屋に真っ白なベッド。おそらく新聞やラジオで大きく報道されているであろう久しぶりに雲から覗き込む太陽の光。対した動きも出来ず感覚もない体の私を含めてドールハウスの様だと思った。奴隷は見た目が人間に似てる生ごみだ。ドールは見た目が人間に似ている愛玩道具だ。ドールは自分では動く事も考えることも出来ず魂がないが故に持ち主の思うままになる魅力があり、奴隷は自分で動き考えることが出来る上に魂があるがゆえに価値がなく誰の理想にもなれず、腐敗を待つしかない。


 手首にも足首にも鉄の輪がはめられベッドの柵に固定されていることに気が付いたのはそれから数十分経ってからだった。あまりにも感覚がなく、鋭利に思考を突き刺しまくった脳みそはすっかり馬鹿になり、それすら分からなかったのだ。


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