7-7,Good luck to stupid slave!!
私は知っている。この紳士は人にも動物にも銃を向けることは出来ない。それは以前あのベッドの上で狩りだけは楽しむことが出来ず誘いを断っていると話していたからだ。鹿の毛皮を持っているのにね、と自嘲気味に。
紳士はやはり拳銃を手にとるつもりはないようだった。しかし裏切り者の私に決してあの優しい微笑みを向けてはくれなかった。
「よろしいのですか? これはロンド卿を騙そうとした悪魔ですぞ? 真のカラが気が付かず名乗りをあげなかったらあなたはこの縁もゆかりもない奴隷にその誠意を捧げるところだった」
「本物では無かったとはいえ、僕が彼女を撃てば僕の優しい妹が悲しみます。妹が彼女のことを随分と心配していたことは事実です。今後の彼女に関してはマスター、あなたに一任してもよろしいでしょうか?」
「お任せください。元々奴隷の管理もこちらの仕事ですから」
マスターの黒ずんだ唇が、こちらに向かって弧を描いてきた。悪魔はお前の方だ。私にとってお前もオーナーもサキカも死神だ。サキカが余計なことさえしなかったら、私は記憶が抜け落ちるほど地獄を味わい死体のように生き抜いた同情されるべき奴隷として幸せな未来の夢を見れたかもしれないというのに。このサキカという雌豚はなんて自分勝手で強欲な奴隷なのだろう。奴隷の癖に幸せな夢を見る彼女は滑稽で浅はかだ。共に豚小屋で過ごした私を助けようともせず私の幸せを踏みにじり自らの幸せのために燃やし尽くしたんだ。幸せを望む奴隷なんて死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ。お前には死体がお似合いなんだよ。お前は墓に入れられることもなく誰かに涙を流されることなく焼却されるんだよ。
もう、心臓も脳みそもそれらを収容する肉体も、全てが分離しているような感覚だった。自分が何を考えているのかもわからず、何を望んでいるのかも分からず、体が何をしようとしているのかもわからなかった。
でも、私の目は正確に、サキカから離れた紳士を見ていた。
私は人間から子を守ろうとする獣のように唸り声を上げてサキカに向かってとびかかっていた。いつの間にやら私の爪は彼女の貧弱な肩の皮に食い込んでいる。深い肥溜めに向かって刃は錆びきって柄は腐って今にも折れてしまいそうな鍬を振りかぶっているような、そんな私を私が腹を抱えて見ている。
私はサキカを床に押さえつけた。彼女の眼球に1000年生き体の溶けかけた老婆が魂を喰おうとする様子が映っている。豚小屋で集客数を誇っていたカラという奴隷はこんなに醜かっただろうか。
私はサキカの首を両手で掴み体重をかけようとしていた。
父様、母様、どうか見ないでください。この奴隷はあなた達が愛情の全てを注ぎその命を懸けて守ろうとしたルイナスではありません。全くの別人です。血のつながりなんてありません。他人です。ルイナスはもっと優しい子です。ルイナスは人の幸せを喜べる子です。どうか、見ないで私を、見捨てて。
吠えた。拳銃が。




