7-1,Good luck to stupid slave!!
サキカはもう私のとなりにはいない。処刑場の真ん中に私を置き去りにして、オーナーに用意された椅子に腰かけ紳士の手を握っている。そう、カラという名前は本当の姿に戻ったのだ。そして、私は本当の姿を思い出したのだ。夢見るキラキラ乙女な生ごみは現実を見なさいと叱られたのだ。お前はそんな腐敗臭で自分が弁当箱にはいれると思っていたのか?って。
紳士による答え合わせが始まった。話しながら彼は何度も何度もサキカの顔を見て、サキカも微笑みでそれを返していた。
私は現実逃避のためか血液が不足しているためか、頭が朦朧としており自分が座っているのか立っているのか寝転がっているのかすら分からなかった。
紳士が語るカラという人間の少女がサキカという奴隷になるストーリーは、こうだった。
カリン様は昔は自由に歩いて走ることの出来る脚を持っていたそうだ。しかしそれが奪われたのは国中の新聞が一面にて報じた、大きな国立博物館の火事が原因だった。国の重要文化財が多く集まるそれらは、仕事を失い住む家を失った大勢の者達が、自ら奴隷を志願するかのたれ死ぬかの二択を迫れた者達が一気に放った火であっという間に燃え広がっていった。それは当然国に向けてのテロ行為とみなされるものだった。
カリン様は母親と2人で舞台観賞の帰り道にその博物館に寄っていくことにしたそうだ。カリン様はあまり興味がなかったけれど、母親が御者と話しているうちに興味をひかれたとか。
そして、火災に巻き込まれ、非常口へと向かう際中、屋根の一部が剥がれ展示物はガラスを突き破って倒れ、母親の目の前でカリン様の下半身は下敷きとなった。
そこに居合わせたのが、カラという人間の兄だった。彼は迫りくる炎と煙の中、職員と共に彼女の上にのしかかる歴史と価値が充分に込められた鈍器をどかし、彼女を引っ張りだしたのだそうだ。
九死に一生を得た彼女だったが、医者の尽くす手はなく、カリン様は脚を失った。しかし火災の日に病院に搬送された際に命があったことを家族や友人が泣き崩れながら喜んだことを思い出し、カリン様は笑ったのだそうだ。他に手はなかったのかと詰め寄る父親に制止をかけ、医者に礼を言った。
車椅子を自由に操れるほどに回復してから、カリン様はようやくカラの兄に会うことが叶った。場所は一流のレストランだった。その時カラも初めて彼女に出会った。心優しいカラの兄とカリン様は自然にひかれあい、どちらかが愛の告白をせずとも、愛し合い付き合っていたそうだ。
ロンド様がカリン様の車椅子を押し、彼ら2人はカラの家族と深い交流を持つようになった。何度もカラの家を訪れ、大きなバスケットを持ちピクニックに行った。ラズベリーのジャムが塗られたバケットを頬張るまだ幼児であったカラの写真が今もアルバムの中に入っているという。
カリン様とカラの兄が二人きりで共に綴っていくであろう輝かしく甘い未来を語っている最中、ロンド様はカラを膝に座らせながら、あるいは眠った彼女をおんぶしながら、カラの父親と談笑していたそうだ。カラの母親であるベロニカの淹れたコーヒーを飲みながら。カリン様の好物である林檎のタルトを食べながら。カラの父親が語る経済学にロンド様は魅了されたようで、ロンド様は自身の宿題を提出する前に彼に見せていたほどだった。
ロンド様とカリン様の両親は仕事やパーティで忙しいこともあり、訪れる回数は少なかったそうだ。しかし、2人共、カラの家族を良く思っており、本来恋人関係になることの出来る身分の差ではないことを知りながらも、カリン様とカラの兄の交際を認めていた。
しかし、ある日、ロンド様はカリン様を置いて一人だけでカラの家にやって来た。お土産にラズベリーのジャムを持って。
ロンド様はベロニカに手紙を差し出した。それは彼女一人だけで屋敷に来てほしいという、いわば招待状だった。
カラの父は首を傾げ、小心者の母親は不安そうにしていたという。そんな彼らに対しロンド様はいつもの笑顔でこう言ったのだ。
「大丈夫ですよ。自分の親を自慢することは恥ずかしいことですが、父も母も優しい人格者です。僕もこの招待の意味を知らされていないので説得力はないかもしれませんが、安心して頂きたいです。僕が保証します。奥様が不安になられることは何一つないと」
カラの父親はロンドの様の手を握った。そして自らの妻に言ったのだ。
「行ってきなさい。誠実で心温かい夫婦だと君も私も知っているのだから」




