6-9,それは許されるはずもなく
会議室の外からは受付をする客の声が聞こえて来た。開店時間を超えたのだろう。私は同じ場所で働く奴隷達の中で最も客が多い奴隷だ。私の指名が出来ない事を残念がる人が少しでも多く居てほしい。お願いだから私の予約が取れないと知ったら他の奴隷を予約するのではなく淋しそうな顔の1つでもして店から立ち去ってほしい。哀れな惨めな奴隷に明日死なない余裕のある人間様はたったそれだけの情けでもかけてはくれないものだろうか。
私とサキカと、ロンド様とオーナーとマスターと、私が暴れ出した時のために控えている部下が三人。広い会議室はそれだけの人数で豪華に使われる。マスターが直々に紳士にコーヒーを出した。紳士は礼を言ったがテーブルに置かれたまま触れようとする気配はない。
となりからサキカの呼吸が聞こえてくる。ゆっくり息を吐いて深く吸う音がした。彼女も私なんか見ちゃいない。となりの奴隷風情に目もくれずにカラとしてロンド様を見つめている。私の作った土台を壊し、偽物の存在を上手く利用し、被害者になろうとしている。
マスターが口を開いた。始まる。始まった。
「まずはお前に聞こう」
彼は杖で私の額を叩いた。装飾の施されていない箇所のない高級そうな杖だった。そんなもの普段もっていないじゃないか。なに紳士の前で恰好をつけようとしているんだ。
「お前の奴隷になる以前の名前はなんだ?」
私は答えなかった。父と母がつけた名前を侮辱されたくなかったのだが、その祈りを聞いてくれる者はいない。
「無視とは生意気だ。俺が教えてやろう。ロンド卿お聞きください。この卑しい嘘つきはもともとルイナスと名を持つ下等な人間でした。カラという名前は私が他の性奴隷小屋をしている男から買い取った後に私がつけた者です」
貫こうとするかのように、彼の杖が私の喉に押し付けられた。髪を掴まれ俯くことが出来ない私が間抜けにも紳士を見つめてしまったのは助けてほしいからだろうか。全てが暴かれていく最中の今、私は彼に手を差し伸べまた微笑みかけてほしいと思っているのだろうか。でも、合わなかった。目が。
「最後だ」
そう言って紳士は懐からケースを取り出し蓋を開けた。中にはベルベッドで眠るネックレスがあった。
「このBに当てはまるカラの母親の名前はなんだ?」
Bから始まる女性の名前など大量にある。そもそも私はサキカの出身すら分からないのだからあてずっぽうにするにしても少しだって選択肢を狭めることが出来ない。
私は悔しくてたまらなかった。どれだけ考えようとこの盤面をひっくり返すどころか少しでも自分に良い情報を出すことすらできないのだ。
私は首を横に振った。紳士が見ている前で、ロンド様の前で、情けない姿を見せることに抵抗があったのだ。自分を騙していた女奴隷の無抵抗である様を私は見せたかったのだ。私は彼を好いていた。彼に好かれたかった。彼に大切に思われたかった。同じようにカリン様にも。
今日一番の力がマスターの腕に籠った。私は簡単にふっとんでトマトのような後頭部が床に直撃した。なぜだろう。なぜ今生きているのだろう。こんなにも体中が痛くて、感覚がない箇所まであって、息をすることだって苦痛であるのに、私は今死んでいないのだろう。




