6-3,それは許されるはずもなく
次にいつ会いに来てくれるか、紳士は言わなかった。飛び入りの客が多いのは確かだが今の所は今日はまだ彼の予約はされていない。
彼に買ってもらった洋服はオーナーが直々に回収した。靴下が両方揃っているかまで確認しており、馬鹿なこいつのためにマスターが命令を下したのだと考えられる。紳士とマスターはかなり友好的な関係を築いているように見えた。おそらくこの服は事務所かどこかに保管され来るべき時を待つのだろう。
あれだけ優しくしてもらっておいて、もう燃やして捨ててしまってほしいと願ってしまったのだから、やはり私は奴隷が似合っている。私はきっとずっとここにいたいのだ。人間にとっての恥をかき続けながら、奴隷として恥をかくことを回避したいのだ。
今日の最初の客は特別不潔でもなければ清潔というわけでもない、普通の人だった。しかし普通の人よりは髪の毛の量が3分の1ほどしかない。彼は行為の最中、誰かの名前を呼び続けていた。「子どもの頃初恋の相手だった人の娘の名前なんだ」と自ら教えてくれた。彼の左手の薬指には金色の指輪が鈍く光っている。おそらく結婚をしているのだろう。
次の客は女性だった。別に珍しいことではない。私は女性客は嫌いではなかった。ここに来る女は陰湿な性格の持ち主であることが多く、力が弱いがゆえに、言葉によっていかに相手を侮辱できるかや、計算的にどれだけ体や精神を痛めつけられるかを競っているかのようだ。意図的に顔に傷をつけてくる人間様の8割は女性であると思う。しかし、ベッドの上で足を絡まさせられ髪を掴まれながら、そして豊満な胸や柔らかい太腿を見せびらかされながら、何を罵倒されても、私の心は傷つかないのだ。恥ずかしいことは何もない。時折、時間いっぱいの全てを暴力に使うサンドバックのための利用をしてくる女性客もいて、私としてはそちらの方が何倍も面倒くさい。
今日の女性客は行為の最中に何度も顔を平手でたたき、私に礼を求めた。今日の女性客は良い客だと私の脳で認定された。
最後の時間枠に飛び入りの客が来た。私はもしやとは思ったが、部屋に入ってきたのはおでこの広い白髪の老人だった。脚が不自由なようで太い木の杖をついての入室だった。皺だらけの顔は良く日焼けしており皺も多い。
新規の客だ。私は心細そうな顔をしながらも足が不自由な中時間を作って来てくださった喜びを淋しそうな笑顔で伝えた。
私の脳みそが言った。
「老いぼれジジイ様相手なら楽が出来そうだ」
私の心臓が言った。
「脚が悪いなら家から出てくんなハゲジジイ。短い余生、家族にだまって足を引きずり外に出てこっそり雌を抱くことがそんなに大事かよ。屑人間が」
老人の肌に触れた。その肌のガサガサさは私の肌と大して変わりがなかった。血色の点では完全敗北していた。
老人は帰り際にキャラメルをくれた。私が上目遣いに小さな声で礼を伝えると老人の口元は明らかに緩みもともと頬が垂れ下がっている顔だというのに更にだらしがなくなった。
老人は上着を裏表反対にして着てドアノブを掴んだ。私は教えてはあげなかった。でもまるで勇気を出したかのような声の出し方で「もしよかったら、もしも、よかったら、で良いんですけどまた来てくださいませ」と伝えた。彼と目を合わせては逸らし合わせては泳がせと本心から言っているように見せることが大切だ。彼はおそらくまた来るだろう。毎日数々の男の相手をしている少女奴隷の特別な存在になれたと勘違いしてくれたと思う。




