6-2,それは許されるはずもなく
エンドはやはり憂鬱そうで不安そうだった。愛想笑いすらしないが気を遣ってくれて居るようで私に話しかけてきてくれた。彼女の顔が近くにあってようやく気が付いた。不格好になっていた髪少し伸び、無理やり切られたばかりの時と比べて随分と馴染みわかりにくくはなっている。いや、もしかしたらすこしはさみか何かで毛先をバラ付かせたのかもしれない。刃物など手に入らないから客にやってもらえたのだろうか。私はそれすら聞いていない。聞けていない。彼女ともうずっと会話をしていない。もしかしたら彼女は話がしたいとアイコンタクトを送ってくれていたかもしれないけれど、私はくだらない思想に埋もれ続けて、誰よりも誰のことだってわからない
「お出かけ、どうだった? 楽しめた?」
私は自分の愚かさを頭いっぱいに認めながら格好悪くエンドに甘えた。
「私には眩しすぎたよ、エンド。呼吸の仕方もわからなかった。頭が痛くて吐き気がして、豚小屋に帰りたくなった。着飾っても強がっても夢見ても、奴隷はやっぱり奴隷だね。ちゃんとわかっていたはずなのに私はなんて間抜けなんだろうね。愚かなんだろうね。憐れみを受けて慈悲を受けても、私の穢れはもう取れなかったんだよ。馬鹿みたい。ほんと馬鹿みたい。奴隷は奴隷って、ゴミはゴミってずっと自分で言ってきたのに。そう思えない奴隷がどんなにダサいか知っていたのにな」
エンドは何も言わなかった。頷きもしないし、目を逸らしもしなかった。トルパは座ったまま少しだけ近づいて来た。
「ねえ」
サキカが彼女にしては大きな、しかし震えている声で私に声をかけてきた。
「その服、ちょっとだけ見せてよ。どうせ取り上げられちゃうんだしさ」
私は彼女に畳んだ服を渡した。彼女はまるでなぞるかのように私の指に触れながらそれを受け取った。枯れ葉のような肌だった。
「なんだかこう言う服懐かしいな。リボンが大きくて可愛いね」
「サキカ、昔こう言う服着てたの?」
「サキカ、人間時代のある奴隷だったの知らなかったわ」
「私が着てたというより、お母様がこう言う服を好んでいたわ。トムの目を盗んで買いに行くの。真っ白な大きいハットをかぶってお顔を隠して、ね」
満面の笑みと星が弾けるようなウインクをサキカはしてくれた。
「まるでシロクマのような犬を飼ってた? あと片目の青い猫」
サヤがそう聞いた。
「ええ飼ってたわ。寒い日は毛皮に包まって彼らと暖炉で暖まるの。宝石のついた首輪をつけているの」
ずっとおどおどと視線をさまよわせ続けていたシェルがようやく声に出して笑った。
トルパがあの時のように私の頭に手を置いた。
服を見ていたサキカが呟いた。
「良い香りがするね。なんの香りだっけなぁ」
ヘリオトロープだと伝えようか悩んだが、やめた。嫌味っぽくなることを避けたかった。この豚小屋の片隅に居させてもらえればそれで充分なのだ。
眠る直前になって、私はようやく気が付いた。卑しい私は奴隷と貴族、両方との有効な関係を貪り食おうと必死になっていることに。




